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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
?節 戻らぬ日々
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第194話 教えてあげようよ

 12月、冬期休暇前。

 俺は高等部の学科選択についてで担当教員から呼び出されていた。


 俺はギアが入ったケースを持って呼び出された部屋に向かう。


 すると、隣を歩く清子きよこが「ところで」と口を開いた。


「……心斎しんさいは?

 朝は居たよね?どこ行ったの」


 その言葉に、俺は素直に「わかんない」と返す。


「なんか用事があるって言ってたけど」

「……あいつの学科選択の呼び出し、今日じゃなかったよね」

「うん。昨日だった」

「……本当にどこ行ったの、あいつ」


 そんな会話をしながら中等部棟の廊下を歩く。



 指定された教室まで、あと少し。



 そんなとき。

 学院内に悲鳴が響いた。



 その悲鳴は、学生がふざけたときに出る声じゃない。



 明らかに、異常事態を知らせる悲鳴だった。



 そして聞こえた瞬間、清子が「何、今の」と呟いた。


「わかんないけど……普通じゃないよね」


 そう返しながら、俺は辺りを見回す。



 すると、周りの生徒が窓の外を見ているのが目に入った。



 俺は窓に駆け寄って、外を見る。



 すると、中庭で中等部の制服を着た男子生徒が居るのが見えた。

 その向こうで男子生徒が倒れているのも。



 倒れているのは制服が俺達のとは違うから……高等部の生徒かな。



 そして中等部の男子生徒の背中には見覚えがあった。



 ……心斎しんさい 稀平きっぺいだ。



 もう3年の付き合いになる。

 間違えるはずはない。



「稀平!?何があったんだよ!?」


 俺はその背中に気づいた瞬間、そう叫んで走り出していた。


 ……そんなわけない。



 確かに稀平は優秀なものだけが人権があるような魔師社会の現状を憎んでいる。



 でも、だからと言って他人に手を出す奴じゃない。



 俺はそう自分に確認しながら階段を駆け下りて、中庭に出る。



 そして稀平の後ろまで来て足を止め、「稀平……その人は……?」と声をかける。



 その言葉で稀平は振り返って俺の方を向いた。


「この人?あぁ僕の兄。

 真聡は見たことあったでしょ」


 サラッとそう返した稀平。



 確かに、稀平には兄がいる。



 そして会うたびに、酷い言葉をかけられているのは知っていた。



 だけど、()()()()()()()



 そう思いながら、稀平の目を見る。




 だけど今。

 眼鏡の向こうに見える稀平の眼は、光がないように見えた。



 どこか虚ろで、狂気を感じる眼だった。



 そこに清子の「そうじゃないわよ。()()()()()って聞いてんのよ」という声が聞こえた。


 どうやら、追いかけてきてくれたみたい。



 そして稀平は、清子の言葉に「あぁ、僕がやったよ」と言い返した。



「いつものように見下して、嫌味を言ってくるから。反撃した。

 そしたら罪の重さで気絶したよ」


 その言葉の後、稀平の口から笑いが零れた。



 ……おかしい。


 稀平は一族の心や感情に干渉する魔法は使えない。

 つまり、反撃したとしても「罪の重さで気絶する」わけがない。


 もし、いきなり使えるようになったとしても、お兄さんの方が熟練度が高いはずだ。

 そもそも完勝したとしても気絶させるなんて、中等部の魔師には無理なはず。



 つまりあり得るなら、魔術魔法よりも上の力。



 可能性に思い当たった俺の口から「稀平……もしかして……」と言葉が零れる。


「うん。僕も神遺保持者になったよ。

 真聡まさとと同じ、星座の、十二宮の、天秤の力」


 笑顔で、そう語る稀平。



 でも俺は、驚いて言葉を失ってしまった。



 隣にいる清子の「いきなりそんな……」という声が聞こえる。


「2人とも信じてくれないなんて酷いなぁ。

 ……あ、証拠を見せたらいいんだね?

 それなら……!」


 その言葉と同時に、稀平を中心に黒い靄が集まる。

 そして、その身体を包み込んだ。



 ……これは、澱みだ。



 そして、黒い靄が晴れて現れた稀平の姿は。




 異形のモノに変わっていた。




 黒い体色ながらも、金属のような身体。

 肩には天秤の皿ようなものが付いている。



 清子の「心斎……あんた……」という声が聞こえる。



 だけど稀平はそれを気にしてないかのように、「真聡」と言葉を投げてきた。


「今こそ恨みを晴らそうよ。

 僕たちが虐められて、見下されてきた苦しみを教えてあげようよ。

 どんな気持ちだったかって」


 俺の口から「稀平……やっぱりあの時の言葉……本気で……」と言葉が零れる。



 やっぱり、()()じゃなかったんだ。



 そこに、稀平の「……うん。ごめん、嘘ついて」という声が聞こえてきた。


「でも、今は僕もいる。

 神遺保持者が2人。属性魔術の君と精神干渉魔法の僕。

 今なら、できると思わない?」


 異形の姿のまま、まっすぐ俺を見ている稀平。



 確かに、この学校に入って酷い目にあって来た。

 特に最初の1か月は酷かった。



 恨んでないかと言われると嘘になる。

 俺はこの学校に入って、結構人間が嫌いになった。



 それでも、仕返し(それ)はよくない。



 俺は誰かを守りたくて。

 自分のように、大切な人を突然失う人を増やしたくないから。



 星雲市《あの街》を出て、この学校に来た。




 それなのに、俺が誰かを傷つけたら意味がない。




 意図的だなんて論外だ。




 そんなことしたら。

 父さんに、母さんに、そして焔さんにあわす顔がない。



 だから、俺は。



「それは……できない」

「え?」

「俺は、誰かを守るためにこの学校に来た。

 だから、誰かを意図的に傷つけるのは許せない。

 それが、稀平であろうとも」


 稀平からの言葉は返ってこない。



 寒風が、木を揺らす音だけが中庭に響く。



 その数秒後。

 稀平のため息と「……そう」という言葉が聞こえた。


「真聡も、わかってくれないんだ」


 その瞬間。

 突然身体がありえないほど重くなった。



 俺は倒れるように地面に引き寄せられ、膝をつく。



 身体が、動かない。



 呼吸すらするのも辛い。



「……僕だって、真聡と戦いたくはないんだ。

 だから、終わるまではそこで待っててよ」


 そう言い残して、怪物の姿と成った稀平は中等部棟に入っていった。



 相変わらず身体は重たい。




 意識が、飛びそう。




 でも、ここで負けられない。




 だけど、魔師としての腕や歴は稀平の方が上。

 勝てるビジョンが見えない。



 だけど、やらなきゃいけない。



 とりあえずは、魔力を用意しないといけない。

 いくら星力を借りれて、魔力を星力に変換できるとは言え魔力が尽きたら戦えない。



 でも、そんな莫大な量の魔力なんてすぐに用意できない。



 だけど学院の下には大きな地脈が流れている。

 地脈とは地球が生みだした魔力が溜まる場所である。



 そしてそんな地脈から魔力を貰う方法を、俺はこの学院で学んだ。



 俺は左手を地面に当てて、身体の重さに抗いながらも言葉を紡ぐ。


「地脈よ。我が言葉に応え給え。

 我、夜空に輝く星座の力を分け与えられし者也。故に我、神遺を宿すもの也。

 我、その神遺を以て人々に害をなす存在と戦う者也。

 そのため、願わくば流れたる魔力を与え給う!」


 そう唱え終わった瞬間。

 左手に、そして全身へと熱い力が流れ込んでくるのを感じた。


 より多くの魔力を貰うため、詠唱内に定義を組み込んだ。

 無事に効果が出たみたいで少し安心した。


 そして俺は呻き声を上げながらも、力を振り絞りながら立ち上がる。


陰星いんせい……あんた……」

「俺が……俺が稀平を止めなきゃいけないんだ」


 そう言いながら、落としてしまったケースを開けてギアを取り出す。


「ケース、預かってて」



 俺は清子にそう言って、まだ重たい身体に鞭を撃って歩き出す。



 清子が必死に俺の名前を叫んでいるのに、聞こえないふりをして。

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