第182話 人の動きとは
時間は陰星 真聡と画架座の堕ち星の戦闘が、彩光 風色美術館の中庭で始まった直後まで遡る。
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画架座の拳を払って、俺は返しの拳を叩き込む。
当たりはした。
しかし、反対側の腕で受けられた。
そして後ろに飛び下がる画架座。
追撃はしてこないのか……。
そう思ったとき。
後ろから風を切る音が聞こえてきた。
その直後、斬撃が俺の横を通り画架座に向けて飛んでいく。
しかし、画架座はその斬撃を横に移動して避けた。
すると今度は、そこに水弾が飛んでいく。
流石に避けれなかったらしい。
水弾は画架座に命中した。
画架座の黒いが木製のような身体に、水弾がぶつかって弾ける。
だが……今、絵に当たった一発が消えなかったか?
そんなことを考えていたとき。
今度は後ろから「だから!何で1人で始めるんだよ!」という苦情の叫びが聞こえた。
だが、今回ばかりは俺が勝手に始めたわけじゃない。
なので「避難誘導は必要だろ」と言い返す。
「そもそも、誰のせいでいきなり戦闘が始まったと思ってる」
俺のその反論に、苦情を飛ばしてきた志郎が「それは……」と言いながらも右側に並んだ。
同時に反対側の俺の左側に、日和が並んだ。
2人とも既に星鎧を身に纏い、それぞれの武器を手に持っている。
さて……3人なら押し切れるだろうか。
そこに、日和が「それより」と呟いた。
「由衣達はあの堕ち星に倒されたってことなの」
いつもより、真剣な声の日和。
だが、画架座が居た部屋に戦闘の痕跡はなかった。
なので俺は「……いや、それを違うと思う」と言葉を返す。
すると。
「じゃあ3人はどこに消えたの!?」
珍しく、声を荒げる日和。
それに対して「俺だってわからねぇよ!」という反論が口から出そうになる。
しかし、それよりも早く。
志郎が「今は言い争ってる場合じゃねぇって!来るぞ!」と叫んだ。
俺達は迫ってきている画架座を分かれて避ける。
確かに、今言い争っても仕方ない。
優先するべきは画架座の制圧だ。
「とりあえず、こいつを無力化するのが先だ。
俺と志郎が前に、日和は後ろから援護をしてくれ」
そう言い切って、俺は画架座との距離を詰める。
右腕を引きながら。
しかし、俺が拳を振るうよりも早く。
画架座は後ろに下がった。
下がった画架座を志郎が拳で追撃する。
だが、画架座はその追撃すら避けた。
そして飛んできた日和の水弾は腕で弾き飛ばした。
「何だよあいつ!襲ってきたと思ったら逃げてばっかじゃねぇか!」
「というか、由衣がいないと人間に戻せない」
志郎の文句に続いて、日和の指摘が飛んでくる。
確かに由衣が居ないと堕ち星を元の人間に戻して、プレートを回収することはできない。
だが、こいつを今までと同じ堕ち星だとは思えない点があった。
「……こいつはいきなり堕ち星に成った。だから概念体の可能性もある。
もし概念体ならば、由衣がいなくても無力化できる」
「んだけどこっちの攻撃全く当てられねぇって!どうすんだよ!」
……志郎の意見はもっともだ。
画架座は襲ってはくるが、こちらの攻撃を悉く避ける。
考えていると、また画架座が攻撃を仕掛けてきた。
志郎が「また来たし!」と叫びながら応戦する。
このままだと埒が明かない。
俺は何か使えるものがないか庭園を見渡す。
岩、石灯籠、松の木、橋、池……。
……池?
それなら……これでいけるか?
1つ策を思いついた俺は「志郎、日和。画架座を池に誘導してくれ」と2人に言葉を投げる。
「……どうするつもり?」
「池の水ごと画架座を凍らせる。
あまりやりたくないが、それしか思いつかない」
「ならやるしかねぇな」
そう言った後、志郎が「ほら、こっちだ!」と言いながら誘導を始めた。
日和も水弾を撃って、逃げ道を絞っている。
一方、俺は杖を生成しながらも美術館の屋根の上に移動する。
屋外の庭園とはいえ、あまり建築物を破壊はしたくない。
だが、今回ばかりは仕方ない。
場所が狭すぎる。
そう自分に言い聞かせながらも、位置に着いた俺は杖頭を池に向けて言葉を紡ぎ始める。
「氷よ。世界に永遠を与える氷よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、荒ぶり、人々に害を与える画架の座に」
そこで、俺は言葉を止める。
すると白色の魔法陣が杖頭に展開され、白色の光が杖先が行き先を求めて荒ぶる。
あとは志郎と日和が画架座を池の中に落としたら撃つだけだ。
池までは、あと少し。
画架座は志郎の拳から逃げている。
逃げた先に日和が水弾を撃ち、池の方向へ誘導する。
そして、画架座がバックジャンプした。
着地先は……この距離だと池の中だ。
今だ。
「永遠なる眠りを与え給え」
俺が最後の言葉を紡ぐと、杖頭から池に向かって氷魔術が放たれた。
色鮮やかな葉が浮かぶ池の水が、みるみるうちに凍り付いていく。
そして池に飛び込んだ画架座にも氷魔術は命中し、池の水と一緒に凍り付く。
はずだった。
画架座は落下中、空中で身体を捻った。
画架座の落下が、一瞬だけ遅くなった。
その影響で、氷魔術が凍らせたのは池の水だけだった。
そして画架座は凍った水面を蹴り、池から離脱した。
その後、画架座は土の上に無事着地した。
だが、氷魔術が掠った部分を気にしているようだ。
いや……。
「何だ今の!?」
「何が起きたの……?」
俺の驚きを代弁する可能酔うな志郎と日和の声が聞こえてくる。
いや、本当に何が起きた?
そもそも、今のはどう見ても人の動きとは思えない。
身体を捻った時に星力を放出して、タイミングをずらしたのか?
とにかく、次の策を練らないといけない。
今のが避けられた以上、不意打ち0距離でもない限り避けられるんじゃないのか?
画架座はまだ動いていない。
どう攻めればいいんだ?
そう思ったとき。
突然、画架座が苦しみだした。
身体中央にある絵を抑えるように。
俺達3人は状況がわからず、見ていることしかできない。
その数秒後、画架座の両手の隙間から光が漏れ始めた。
その直後、光と共に何かが日本庭園上空に飛び出した。
それは2人の人影。
その片方は。
行方が分からなくなっていて、俺達探していた3人のうちの1人。
白上 由衣だった。