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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
11節 蠢く気配
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第173話 暇じゃない

 昼過ぎ。

 授業の提出物を午前中に終えた俺は簡単な昼食を取った。


 そして家を出る前に、超常事件捜査班が作成したとかげ座の事件に関する資料をもう一度手に取る。



 とかげ座の堕ち星と成っていたのは山影やまかげ 俊彰としあき

 推測通り、鈴保すずほの父親の会社の同僚だった。


 動機は嫉妬。

 同期で入った鈴保の父親がどんどん昇進するのに対し、自分はスローペース。

 それに加え休憩時間には幸せそうな家族の話を聞かされる。

 それ故の犯行……。



 つまり、その感情が堕ち星に成ったことで増幅されて……ということだろう。



 「それだけで?」と思うかもしれない。

 だが人間とはそんなもんだ。



 人間は、己よりも秀でてる相手に一方的に嫉妬し、恨む。



 もちろんそれは一部の人間だけということもわかってる。



 だがそういう勝手な人間にいつ牙を剥かれるかわからないのもまた、事実だ。



 ……こんなことを考えていても仕方ない。


 俺は無意識に外れていた視線と意識を資料に戻す。


 結局、山影 俊彰を堕ち星にした相手は分からなかった。


 最後の記憶は居酒屋の帰り道。

 それも酔っていてうろ覚えらしい。


 ……当てにならない。


 結局、堕ち星に成る明確な原因は今回もわからなかった。


 ちなみに彼は依願退職するそうだ。

 堕ち星に成ってる間の意識や記憶が全てないとはいえ、社会や人間の精神構造はそう簡単ではない。


 試料に目を通し終えた。

 しかし新しい発見も、違和感もない。


 ……これ以上見ていても仕方ないな。


「さて……出かけるか」


 由衣ゆい佑希ゆうきと鈴保と美術館見学に行っている。

 恐らく今日は久しぶりに自由に動けるだろう。


 あいつらがペルセウス座のアドバイスを受けて特訓を始めてから、1人で特訓する時間を確保するのが難しくなっていた。



 そのため、蟹座の力は未だに使えてない。



 だが、今日こそは1人でとことんできるはずだ。



 そう思ってソファーから立ち上がる。

 そして斜め後ろにあるプレートやギアを保管してる棚へ向かおうとする。



 そのとき。

 誰かが部屋の扉を叩くのが聞こえた。



 ……まさか由衣か?



 時計を見ると、針は13時過ぎを指している。


 まさか見学が終わってそのまま来たのか?


 そんなことを思いながら、俺はまっすぐ扉へと向かう。



 まったく。

 せっかく1人で心置きなく特訓ができると思ったんだが。

 これは文句を言ってもいいだろ。



 そう思いながら扉を開ける。

 ほぼ同時に「あのなぁ」と口を開く。



 しかし。

 「俺だって」とまで口にしたとき、扉の向こうにいる顔が見えた。



 見えたのは由衣達ではない。



 日和ひより智陽ちはる志郎しろうの3人だった。



「何、どうかした?」


 言葉の途中で固まってる俺に対して智陽がそう聞いてくる。


 ……いや。

 相手の予想は外れたが、返す言葉は変わらない。


「俺だって暇じゃないんだ。帰れ」


 俺はそう言い切って、扉を閉めようとする。


 すると、日和が「いいでしょ別に」と呟いた。


「たまには用事なく集まっても」

「そうそう。志郎」

「おう!」


 智陽の指示で志郎が扉に手を滑り込ませてきた。

 扉に2人の男子高校生の力が加わる。



 扉は開けようとする力と、閉めようとする力がつり合って動かなくなった。



 もし俺と志郎が戦うと、戦ってきた期間の長さで俺が勝てるだろう。

 だが、何もなしの力比べだと俺が圧倒的に不利だ。



 その結果。

 抵抗虚しく、残念ながら俺の家の扉は開いてしまった。


「それじゃ、お邪魔しま~す」


 そう言いながら智陽が入ってくる。

 もちろんそれに続いて、日和と志郎も。


 ……何でこうなるんだよ。


 だが、入られてしまっては仕方ない。

 貴重な1人の時間が潰れるのは残念で仕方がないが。


 とりあえず俺は目の前の疑問を片付けるために、突然の訪問者達に向けて「何で来た」と質問を口にする。


「というか、何で一緒に来た」


 日和と智陽と志郎。

 この3人、普段はそこまで会話してる記憶はない。


 ……志郎がそれぞれ話しかけてる記憶はあるが。


 少なくとも見かけたら話すが、わざわざ何もない休日に会うような仲ではないはずだ。


 そう考えてる間に、3人は思い思いの場所。

 いつもそれぞれの定位置と成っているソファーに座る。


 俺もとりあえず、ソファーに座りなおす。


 そして。


「偶然「「本屋で会った」」んだよな!」


 3人、声を揃えて返事が返ってきた。


 ……意外と仲いいなお前ら。

 というか……。


「なんで3人全員本屋に居たんだ」


 俺の質問に日和が「それは思った」と返してきた。


「凄い偶然だよね」

「まぁ駅前のあそこが星雲市《この街》で1番広い本屋だから。私も驚いたけど」

「だよな~。

 意外と俺達、知り合う前に街ですれ違ってたりするのかもな」


 日和に続いて智陽、志郎の順番で言葉が返ってくる。


 流石に全員驚いたらしい。


 ……いや、そこじゃない。


「何で本屋に居たんだ」

「私は雑誌を買いに行ってたから。買ったのはこれ」


 そう言いながら、同じソファーに座る日和が鞄から取り出したのは雑誌。

 俺はとりあえず受け取ってタイトルを確認する。


「『月刊 海の生き物』……か」

「そう。これの今月分買えてなかったから」


 日和は小学校の頃から魚とか好きだったが、本当に変わっていないな。


 そんなことを思いながら俺は雑誌を日和に返す。

 そして「で、2人は」と言葉を投げる。


「私は何となくうろうろしてただけ。面白そうな作品無いかなって」

「で、俺と漫画のコーナーで会ったんだよな!」


 志郎のその言葉に智陽は「うんうん」と頷く。


 ……俺は最近の流行とかは知らない。追ってる暇がない。


 なのでタイトルを聞くべきか、面倒なので「そうか」で流すか。


 悩んでいると答えを出すよりも早く、志郎は「買ったのはこれな」と書籍を取り出した後、そのまま話し始めた。


「最新刊まだ買ってなくてさ。暇だったから買いに来てたんだよ」


 テーブルの上に出てきた漫画は、予想通り知らないタイトルだった。


 ……何と返すべきか。

 有名なのかどうかすらわからない。


 そう悩んでいると智陽が「もしかして……」と口を開いた。


真聡まさと、知らないの?」

「……知らん」

「マジか!?

 ……面白いぞ?笑いあり涙ありのバトル系!」


 志郎のその言葉に、日和が「……アニメもやってた?」と聞き返す。


「やってたやってた!

 もしかして日和も見てるのか?」

「聞いたことあるなって。見てはいない」


 その言葉に、「そうか~……」と呟く志郎。


 ……そんなに面白いのか?


 だが、この言葉を口にすると大変なことになる。

 そんな予感がしたので、口にせず飲み込む。



 しかし、それは無駄だったようだ。



 志郎は「あぁ、そうだ!」と勢いよく口を開いた。


「俺、これで最新刊まで揃ってるから1巻から貸すぜ?」

「私も最新刊まで揃ってるから貸せるよ。日和も読む?」

「「いや、いい」」


 俺と日和の拒否の声が重なった。



 ……残念ながら俺は娯楽を楽しんでる余裕はない。



 そんな暇があるなら、俺はお前達を普通の高校生に戻す方法を探さなければいけないんだ。



 だが、そのことを言っても意味がない。

 むしろ逆効果だろう。



 そう思って俺は話題を逸らす。


「お前らが一緒になった理由は分かった。

 で、何で俺の家(ここ)に来た」

「3人ってさ、奇数じゃん」


 俺の言葉に智陽がそう返してきた。


 だが、答えになってない。


 なので俺は「いや、理由を答えてくれ」と返す。


「まぁまぁ。最後まで聞いてよ。

 3人って奇数だからさ、話してると自然と1人溢れるんだよね。

 だからどうせなら4人になったほうが、それぞれ1対1で話せるでしょ?」

「……だから、今日行ってない俺のところに来たと」

「そういうこと。あと、ここなら夜までいてもお金取られないでしょ」

「嫌な言い方するなお前」


 智陽のその言葉に、日和と志郎は苦笑いのような表情を浮かべている。



 正直、凄く追い返したい。



 だがとかげ座の堕ち星以来、堕ち星は出ていない。

 外に逃げ出す理由がない。



 ……どうにもならないか。



 諦めた俺は「好きにしろ」とため息交じりの言葉を口にする。



 こうして、俺の貴重な休みは友人達と過ごすことになってしまった。

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