第172話 道連れ
私とゆー君とすずちゃんは、とある秋の休みの日に小さな美術館に来ていた。
そこで、私達はお姉さんに絵を描く体験ができると言われた。
そしてお姉さんの案内で入った部屋で。
私達は、部屋の真ん中にある絵に吸い込まれそうになっていた。
慌てて足を踏ん張るけど、少しずつ絵に引き寄せられている。
「えっ……どうなってるの!?
これ本当に吸い込まれるの!?」
私がそんな声をを上げたとき、木に何か刺さる音が聞こえた。
何の音か考えてるうちに、ゆー君の「武器を生成して床に刺せ!」という叫び声が飛んできた。
そっか!
星鎧を生成しなくても武器は生成できる。
だから星鎧を生成できなくても武器だけなら!
私は両手を身体の前に出して、杖を生成する。
そしてそのまま、思いっきり木製の床に突き……。
「刺さらない!?」
そう。私の武器は杖。
ゆー君の剣やすずちゃんの槍と違って、相手を刺したり切ったりしない。だからそこまで鋭利じゃない。
つまり、私の武器は駄目ってこと。
私は慌てて、さらに力を入れて踏ん張る。
でも、私の身体は少しずつ後ろに下がっていく。
扉の前にいるお姉さんが、だんだん遠くなっていく。
パニックになってる私の口から「吸い込まれる~!?」という声が漏れる。
するとそこに、「由衣!!手!!」とすずちゃんの声が聞こえた。
私は左斜め前に視線を向ける。
すると、床に突き刺した槍に片手で掴まってるすずちゃんが私に手を伸ばしてくれていた。
私は必死に左手を伸ばしてすずちゃんの手を掴む。
するとすずちゃんは「こっち!早く!」と言いながら、槍を掴みながらも少し左に移動した。
私は右手の杖を消滅させてから、少しずつ移動する。
そしてすずちゃんの槍を掴ませてもらった。
「た…助かった……。
すずちゃんありがと!」
「全く状況解決してないけどね!」
確かに何も解決してない。
私達は引き続き絵に吸い込まれそうになっているのには変わりない。
とりあえず、重心は安定したけど。
「これどうやったら止まるの~!?」
「原因はあのお姉さんだと思うけどなんなの!?
本当に堕ち星なの!?」
さっきのお姉さんの言葉からして、この状況を起こしたのは間違いないと思う。
でもゆー君は「堕ち星か?」と聞いていた。
……全然分かんない。
いやそれより!
「でもとりあえずギアを喚ばないと!」
「それは……そう!」
そして私達2人はお腹に手をかざして、とりあえずギアを喚び出す。
ギアはこんな状況だけど、無事に紺色の光とともに現れてお腹に巻かれた。
でも星鎧を生成しようと手順を取ったら、絵に吸い込まれる気しかしない。
というか、ゆー君さっきから無言だけど大丈夫なの?
そう思ったとき。
お姉さんの「しぶといですね……」という声が聞こえた。
「この部屋からは逃げられません。
なので、早く絵に吸い込まれてください」
その言葉と同時に後ろに引っ張られる力が強くなった。
もう足浮いてない!?これ!?
「どうしようこれ~~!?」
「マズいのは分かってるんだけど、どうしたらいいのか……!」
その瞬間「メキメキメキ」という音が聞こえ始めた。
その音は私達の足元から聞こえてくる。
そして、「「え」」と私とすずちゃんの声が重なった。
足元を見ると、槍を刺してる床の木が剝がれ始めていた。
「ちょっ!!足!!踏んで押さえないと!!」
「足浮いてる~~!!」
私とすずちゃんは完全にパニックになってしまった。
もう事態の収束どころか自分の安全すら危ない。
2人そろって足が宙に浮き、傾いている槍に掴まっている状態。
そんな中、私は顔を上げて前を見る。
だってさっきからゆー君無言なんだもん。
自分自身が大ピンチだけど、心配という気持ちが勝手しまった。。
そして、ゆー君も私達と同じように足が宙に浮いて両手は自分が刺した剣に掴まっている。
背中に深い青のギアの帯が見えるから、ギアはもう喚んでるみたい。
でも私達よりも絵から遠いゆー君も駄目そう。
このままだと、全員吸い込まれる。
そう思ったとき、ゆー君は両腕を引き始めた。
身体と剣の距離が少しずつ近づいていく。
「ゆー君すっごい!!」
「感動してる暇あるなら、私達も!」
すずちゃんがそう言った。
私はゆー君の方を見ながら頑張って両腕を引く。
数秒後、「ダン!」と大きな音がした。
音がしたゆー君の方を見ると、床に足がついていた。
一方、私は腕が……引けない!
必死に引こうとしてるんだけど全然無理!
でもすずちゃんが頑張ってくれて、何とか槍が刺さってる床に足を下ろせた。
その次の瞬間。
ゆー君は鍔の部分に足をかけて、剣から手を離した。
そして前に跳んだ。
代わりに、踏み台になった剣が後ろに飛んでいく。
そして、紺色と黄色の光を放ちながら消えた。
だけど誰か1人でもこの吸い込む範囲から逃げれたら、なんとかなるはず。
私達は頑張ってこのまま耐えて、ゆー君が反撃の隙を作ってくれるのを待とう。
腕はだいぶ疲れてきたけど……。
でも、もう少しで、ゆー君の手がお姉さんに届く。
そのとき。
「本当に、しつこいですね。早く……吸い込まれてっ!!」
お姉さんが叫び声が聞こえた。
さらに吸い込む力が強くなる。
足が付けなくて、手だけで掴まっている私の気分は風に遊ばれている旗の気分。
すずちゃんも両足が再び地面を離れて宙に浮いた。
そして、槍が床から抜けた。
掴まるものがなくなった私達は、入り口から遠ざかっていく。
当然、それはゆー君も同じ。
あと少しでお姉さんに手が届きそうだったのに。
だけど、次の瞬間。
「吸い込まれるなら……お前も道連れだ!」
ゆー君の、そんな低くて怖い声が部屋に響いた。
その声で私は部屋の入り口に目を向ける。
すると、いつの間にか扉に刺さっていたカードが爆発した。
その衝撃でお姉さんは私達の方へ吹き飛ばされる。
その数秒後。
私は身体が引っ張られる変な感覚と共に、目の前が真っ暗になった。