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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
11節 蠢く気配
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第171話 芸術鑑賞

 午前中の気持ちのいい秋晴れの空の下。学校も休みでお出かけ日和の今日。

 私は星雲せいうん市の邸宅街を幼馴染のゆー君と歩いてる。


 「ここは?」

 「右!そして次に左に曲がったらすぐだよ!」


 私はゆー君の質問にそう答えながら右に曲がる。


 そして、次の曲がり角はもう見えている。



 そのとき。

 同時に曲がり角から私達の待ち合わせ相手が出てきた。


 私はびっくりして思わず「すずちゃん!?」と声を上げる。


「何で……?家まで行くって……」

「待ってたら2人ともいろいろ言ってきて、うるさかったから出てきたの」


 そんな会話をしながらも、私達はとりあえず合流する。


 本当はすずちゃんの家の前で待ち合わせの予定だった。

 でもどうやらお父さんとお母さんに色々言われるのが嫌で、外で待っていたみたい。


 そんなすずちゃんの言葉に、私とゆー君の口から何とも言えない声が出る。


 だけどすずちゃんは気にしてないみたいで、「だから悪いけど」と普通に話を続ける。


「ちょっと回り道していくよ。こっち」


 そう言った後、すずちゃんは私達が来た道を戻り始めた。

 そんなすずちゃんを私とゆー君は追いかける。


 そして追いついた私達は世間話を始める。



 ちなみに私達は今から、星雲市邸宅街にある小さな美術館見学に行く。

 その美術館は星雲市で活動していた「彩光さいこう 風色ふうしき」って女性の作品を集めてるらしい。


 つまり芸術の秋らしく芸術鑑賞に行くってこと。


 じゃあどうして行くことになったか。


 それはすずちゃんのお父さんがまー君に「すずちゃんと仲良くしてくれているお礼」って入館券をプレゼントしてくれたから。


 ……すずちゃんは嫌そうだったけど。


 それならなんで、私とゆー君とすずちゃんの3人なのか。


 理由は入館券が3枚しかなくて、じゃんけんで決めたから。

 結果として私達3人が勝った。


 ……まー君とちーちゃんは、負けたのに安心したような顔をしてた気がするけど。


 それともう1つ……。


「というかさ、何で私なの?私何回か来てるんだけど……。

 せっかくなんだから初めての人が行くべきじゃない?」


 話題がひと段落したところですずちゃんがそう言った。


 というか決まった時も同じことを言ってた。

 何回か行ったことあるから、そこまで乗り気じゃないみたい。


「でも知ってる人がいると安心するよ?」

「それに行ったことあるなら。ある程度、彩光 風色について知ってるだろ?

 だからいろいろと教えてもらえると絵の見方とかもわかるだろうし」


 私とゆー君の言葉を受けて、すずちゃんはため息をついた。

 そして「……わかった」と呟くすずちゃん。


 そんなすずちゃんに向けて、私は「それに」と言葉を続ける。


「そのあとは駅前に戻ってポップアップストア行くって話じゃん!」


 すると私のその言葉にすずちゃんは「そうだったね」と呟いた。


 私がお気に入りで、すずちゃんも好きなキャラクターのポップアップストアが今、駅近くの建物でやってる。

 せっかく遊び行くなら1日遊び行きたいってことで、美術館を見た後はそっちも行く予定になってる。


 だってこの前、すずちゃんと遊びに行こうとした日はずずちゃんの家族と会ったり、堕ち星が現れたりして大変だったから。


 つまり、今日はリベンジと()()()()()約束を兼ねてる。


 ……そうなると、まー君とちーちゃんには逃げられた気がするけど。



 そこで、すずちゃんは「でも」と呟いた。


佑希ゆうきは本当にそれでいいの?」

「あぁ。付き合うから気にしなくていい」


 ゆー君は昔から、嫌いなところ以外は結構色々付き合ってくれる。

 小学生の頃も、私とさっちゃんに付き合って……。


 そこで私はいいことを思いついてしまった。

 その思いついた嬉しさから、私の口から思わず「そうだ!」と声が飛び出す。


「さっちゃんにお土産に……いや!私からのプレゼントにしたいんだけど……良いかな?」


 私にしては、本当にいいこと思いついたと思った。


 だってさっちゃんは進学校で連絡もできないくらい忙しいって聞いてる。

 そんなさっちゃんに可愛いストラップとか送ったら、きっと喜んでくれると思った。


 だけど。


「……あぁ。きっと喜ぶだろうな」


 ゆー君の声は、なぜか暗かった。



 そして同じタイミングですずちゃんが「着いたけど……」と呟いた。


「大丈夫?」

「あぁ。何でもない。

 気にしないでくれ」


 すずちゃんとゆー君がそんな会話をしている。

 でも私はそれよりも美術館の外観に驚いていた。


 後ろの山も建物の一部じゃないのかと思うぐらいの自然との一体感。

 だけど周りの家に負けないくらいの存在感と高級感。


 ……なんかこういう場所、慣れてないからそわそわしてきた。


「じゃあ入るよ」


 そう言ってすずちゃんが建物の中に入っていく。

 私は置いて行かれないように、続いて行ったゆー君の背中を追いかける。 


 中に入ってから気が付いたけど、木造建築なのかな?

 床も柱も壁も木が使われてるし。


 そんなことを考えながら、受付のお姉さんに入館券を見せる。


 そして受付を抜けると、ガラス越しだけど凄い中庭が視界に飛び込んできた。


 感動した私は思わず「中庭すっごい!」と声を上げる。


「日本庭園だな」

「彩光 風色は日本庭園も好きらしいから」


 ゆー君とすずちゃんがそう返してくれた。

 私は「そうなんだ……」と呟く。


 あ、彩光さんは御存命らしいです。


 近代画家って言うんだっけ?

 そういえば、なんか小学校の地域学習で名前を聞いたような気がしてきた。


 そんなことを考えていると、今度はすずちゃんが「絵画はこっち。行くよ」と言って左に歩いていく。

 私はすぐに追いかける。


 どうやら美術館は2階がメインで絵を飾ってるみたい。


 そして私達は木製の階段を上がって2階に移動する。


 階段を上がった先は大きな部屋で、あちこちに絵が飾られている。

 私は気になった作品に吸い寄せられるように近づいていく。


 描かれているのは色々なものがある。

 でも、星雲市とその周りの地域の風景が結構多いのかな?


 私はそんなことを考えながら見てまわる。


 紅葉の中の星鎖神社、再開発前の星雲市駅前、遠足で行ったダムの建設中の風景、星雲市の夜景と星空。


 他にもたくさん絵が飾られている。

 もちろん、見たことある風景もまだある。


 でもどの絵も色が綺麗でなんというか……引き込まれる?感じがする。


 そう思いながら見て回っていると「ちょっと由衣ゆい」と声と共に肩を掴まれた。

 後ろを向くと、すずちゃんがちょっと怖い顔をしていた。


「まったく私の話聞いてないじゃん」

「あっ……」


 そこでようやく、私はすずちゃんが彩光さんの話をしてくれるって話だったことを思い出した。


 2階に上がってすぐ、絵に夢中になってしまって頭からその話が抜けてた……。


 私が「……ごめん」と謝ると、すずちゃんはため息をついた。


 ……呆れられてる?


 するとそこに、今度はゆー君が「まぁまぁ」と口を開いた。


「静かに楽しそうに見てるからさ。

 それこそ小学校の頃に行った美術館では……」


 そこで、私は今から私のとんでもない恥ずかしい話が始まる気がしたので「待って!?」と焦って口を開く。


「それ以上は言わないで!?絶対私の恥ずかしい話だよね!?」


 少し言われたから思い出したけど、小学校の遠足で行った美術館。

 遠足ってことでいつもよりテンション高かった私は美術館で走るし、大声でまー君達を呼ぶから先生に5人で怒られた記憶が……。


 駄目!思い出しただけで恥ずかしい!!

 何か顔が熱くなってる気がする!


 そんな私を見て気になったのか、すずちゃんはゆー君に「…何があったの?」と聞いてる。


「本人から禁止が出たからこれ以上は俺からは言えない。

 まぁ……由衣はだいぶ大人しくなったってことかな」

「なんかその言い方嫌なんだけど……」


 ゆー君、私のことを子供だと思ってない?



 するとそこに、今度は「お客様」という女性の声が聞こえてきた。


「彩光 風色の作品はいかがですか?」


 声のした方を見ると、受付のお姉さんがすぐ近くにいた。


 ……今の会話、下まで聞こえてた!?

 注意しに来たってこと!?


 そう思った私は咄嗟に「すみません!騒いでしまって!」と言いながら頭を下げる。

 だけど、受付のお姉さんは優しい声で「いえいえ」と言ってくれた。


「今日の入館者は皆さんだけですから。

 ところで……皆さんは学生ですか?」


 どうやら、怒られるわけじゃないみたい。


 安心した私は「はい!私達3人とも高校生です!」と返す。


「そうですか。彩光 風色の作品はどうですか?」

「どの絵もとても色が綺麗で……あとこの街が好きってのがとても伝わってきます!」

「そう言って貰えると彩光 風色も喜ぶと思います。

 ……せっかくですので、特別な体験をしていきませんか?」

「……特別な体験?」


 後ろでずっと口を開いてなったゆー君がそう聞き返した。


 ……というかずっと私が1人で話してた。


 そんなことを考えてる私を気にせず、お姉さんは「はい」と話を続ける。


「彩光 風色の作品のような色合いの絵を描くワークショップをおこなっております」


 お姉さんのその言葉にゆー君とすずちゃんは返事をしない。


 ……考えてるのかな?


 でも私はそんな楽しそうな体験、できるならしないと後悔すると思った。

 なので私は「やりたいです!」と返事をする。


「わかりました。

 では、着いてきてください」


 笑顔でそう言った後、お姉さんは奥へ歩いていく。

 私はその背中を追いかける。


 大きな部屋を出て廊下を歩き、さっきとは別の階段の横を通る。


 お姉さんはその先の木製の扉で止まった。

 そして扉を開けて「お入りください」と言ってくれた。


 私達はその部屋の中に入る。


 中はそこそこ広い。


 でもカーテンが閉め切られていて薄暗い。

 テーブルも椅子も道具も何もない。



 あるのは、部屋の真ん中にある画架に置かれた色鮮やかな絵画だけ。



 でもその絵は色鮮やかなんだけどさっきまでの絵とは全然違う。



 色遣いは好きなんだけど……何て言うか、明るさが感じられない気がする。




 それになんか空気も悪い。




 あまりにも不審に思った私は疑問を口にする。


「あの……本当にここでやるんですか?」

「道具も何もないですけど。せめてカーテン開けません?」


 私に続いてすずちゃんがそう言った。


「それもある。

 だけどそれよりも気になるのは、この部屋は澱みが濃い。

 お前……堕ち星か?」


 ゆー君のその低い声で、私達は振り返る。


 扉の前に立ってるお姉さんは下を向いていた。

 そして、呟くような声で「そう」と言った。


「あなた達が話に聞いた邪魔者なんですね。

 ……でも、この部屋に入ってしまったからには、私の絵の贄と成ってもらいます」



 その言葉と同時に、急に身体が後ろに引っ張られる。



 私は驚いて、踏ん張りながらも振り返る。




 すると、私達は。




 部屋の真ん中の絵に吸い込まれそうになっていた。

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