第170話 仲直り
私達は、何とかとかげ座を元の人間に戻せた。
正体は、眼鏡をかけたスーツ姿の男。
……まぁお父さんの同僚らしいし、納得の恰好。
そんなことを考えていると、反対側の真聡と由衣と日和が男に近づいていくのが見えた。
志郎もそれに気づいたのか、「俺達も行くか」と行って男の方へ歩いていく。
もちろん佑希も歩いて行く。
そんな2人の後を追って、私も歩き出す。
そして前へ1歩、踏み出したとき。
突然、視界がまわった。
同時に、紺色と深紅色の光と共に星鎧が消えた。
そして私の身体は重力に負け、前へと倒れていく。
力を入れて踏ん張ろうとするも、地面が近くなってくる。
ヤバい。
そう思った次の瞬間、私の身体が止まった。
右側から身体の前を通って左肩を掴んでいる腕に支えられて。
次の瞬間「鈴保!?大丈夫か!?」という声が飛んできた。
その手と声の主は志郎だった。
顔を見えないけど、このうるさい声でわかる。
……ちょっと張り切り過ぎたのかも。
でも、大したことじゃない。
私は「大丈夫、ありがと」と言って立とうとする。
でも、上手く立てない。
足に力が入らない。
そのまま私は志郎の手をすり抜けて、しゃがみ込む。
すると志郎が「あぁ~もう無理すんなって!」と言って来た。
「ほら、肩貸すぞ?何なら背負うぞ?」
そう言いながら、志郎はまた私の目の前に手を出してくる。
……流石にそこまで手を借りたくない。背負われるとか絶対に嫌。
でも、やっぱり身体に上手く力が入らない。
1人で立てる自信がない。
なので私は「そこまでしなくていい」と言葉を返す。
「でもちょっと、立つのに手を貸して」
「……遠慮しなくていいんだぞ?」
「してない」
「ならいいんだけど……」
そう呟いてる志郎の手を取る。
すると志郎は私の手を引っ張って、スッと立たせてくれた。
私は「ありがと」と言いながら手を放して、もう一度みんなの方へ歩き出す。
するとみんなはちょうど、星鎧を消滅させて高校生の姿に戻ったところだった。
私は「ところで」と口を開いて、隣の志郎にさっきから気になってることを聞いてみる。
「何で志郎はもう戻ってるわけ?」
「いや、鈴保の星鎧が消えたからさ。俺も支えるなら星鎧ない方が良いかなって。
ほら、あると痛かったら嫌じゃね?」
……何それ。
志郎ってデリカシーないときあるのに、変なとこで気が利く。
何か少し恥ずかしくなってきたので、私は「そ」と返す。
そこで、もう1つ気になってることがあったのを思い出した。
「というかさ、何であんたが私が両親と揉めてるの知ってるの?
私言ってないよね?」
「あ……いや、それは……」
「それは私が教えちゃったの……本当にごめん!」
志郎が言い淀んでいると、由衣が会話に入ってきた。
いつの間にか、みんなのすぐ近くまで来ていたみたい。
いやそれより。
「何で勝手に言ってるの」
私はそんな言葉を投げようとする。
しかし、それよりも早く志郎が「いやいや!」と口を開いた。
「俺が由衣に聞いたんだよ!悪い鈴保!勝手に聞いちまって!」
「いや、私が先に言ったの!
もし何かあったら困るからさ!」
そのまま志郎と由衣は「俺が」「私が」と言い合う。
……何でこの2人はお互いをかばいあってるの?
そんなことを思いながらも「で」と口を開く。
「どっちが先に言ったの?怒らないから」
「「それ怒るやつ!」」
由衣と志郎が声を重ねて返してきた。
私はそれを気にせず「怒らないから早く」と急かす。
すると、志郎が目を逸らしながら「……俺が先に聞いた」と呟いた。
「だってよ。鈴保……なんか様子がおかしい気がしたからさ……」
やっぱり。
何となくだけど、由衣は許可がないとこういうことは他の人に言わない気がしてた。
だから「志郎が聞いたんだろうな」と思ってた。
……でもまぁ。
「ありがと、心配してくれて。
志郎がさっき時間をくれたから、両親ともちゃんと話せたし」
私のその言葉に「よかった~~!」と由衣が安堵の声を上げる。
……何で由衣が喜んでるわけ?
そう思っていると、志郎が「鈴保……変わったな」と呟いた。
だけど、理解が出来なかった私は「……は?何言ってるの?」と返してしまった。
「いや、前はもっと……こう……ツンツンしてただろ?
あと何考えてるかわからなかったし。
でも今は、全然そんなことねぇじゃん」
「前って……いつの話してるの。
というか何。志郎、私のことそんなに見てたの」
そこまで長い付き合いじゃないはずの志郎にそう言われた。
その驚きから私は辛辣な返事をしてしまった。
すると志郎は「いやほら!」と慌ててるような口調で言葉を続ける。
「体育委員一緒だっただろ!?そんときの話だよ!
あのときの鈴保、何考えてる変わらなくて怖かったんだよな……」
「あぁ……そういえば……」
「私も最初にあったときのすずちゃん、ちょっと怖かったなぁ……」
由衣までそんなことを呟く。
でもよく考えれば、今は11月。
由衣達とはもうすぐ知り合って4ヶ月、志郎に至っては7カ月になる。
短いようで、もう長い付き合いになってる。
そう思っていると「すずほちゃん!」と私の名前を大声で呼ぶのが聞こえた。
この声と呼び方は間違いない。
確信を持ちながら声がした方へ身体を向ける。
その瞬間、私は抱きしめられた。
「すずほちゃん大丈夫!?怪我はして……あぁ!ここも!こっちにも擦り傷が!」
そう言いながら、お母さんは少し離れて私の全身を確かめるように触る。
私は我慢にできずに、後ろに下がってさらにお母さんから離れてから「だから!」と口を開く。
「そういうところが嫌なの!それにこのくらいの傷は普通だし!」
「まぁ!でもやっぱりママは可愛いすずほちゃんが怪我するのは嫌だわ……」
「だからこのくらいは……お父さんは?」
いつもなら絶対2人一緒に心配してくる。
なのに今はお母さんだけ。
嫌な予感がした私は辺りを見回す。
するとお父さんはすぐに見つかった。
真聡と何か話してる。
私はさらに嫌な予感がして思わず走り出す。
色々話している間に星力も体力も少しは回復したらしい。
普通に走れる。
「これからもどうか、うちの可愛い娘を頼む」
「……はい。必ず守ります」
「ところで……何かお礼がしたいんだけど……何がいい?」
「ちょっと!?何してるの!?」
私はそう叫びながら2人の間に割り込む。
そして真聡を押しやって、お父さんと向き合う。
「鈴保!!大丈夫か……ってあぁ……あっちもこっちも怪我して……」
「それはいいから!というか真聡を困らせないでくれる!?」
「いやでも鈴保。大事な娘をお願いするんだ。その相手が年下としてもパパは父親としてね」
「だから!!そういうのが嫌なんだって!!」
私のその返しに、お父さんは「そ……そうか……」と少し寂しそうに呟いた。
何か、気持ち小さくなった気がする。
……確かに、私にも悪いところがあるかもだけどさ。
本当にお願いだからもうちょっと反省して欲しい。
やられる身にもなって欲しい。
なんかまた一気に疲れた気がしてきて私は、思わずため息をつく。
一方、お父さんは追いついてきたお母さんに慰められている。
……恥ずかしい。
そこで、真聡が「でもまぁ」と声をかけてきた。
「良かったな。仲直りが出来て」
「できたように見える!?」
「見えるよ?
だってすずちゃんの顔、この前よりも明るいもん!」
気が付くと置いてきた由衣が真聡のすぐ横まで来ていた。
その由衣は真聡に「ね~!」と言っている。
真聡はそんな由衣に「あぁ」と返す。
……でも、確かに。
高校入学前の私はきっと想像できない。
梨奈と颯馬、そして両親ともまたちゃんと話せることに。
そして、新しい友達もできたことに。
人って本当に短い期間で変わる。
良い方向にも、悪い方向にも。
少し感傷にふけっていると、真聡が「とりあえず」と口を開いた。
「ここから移動するぞ。現場検証が始まるし俺達も捜査協力しないといけないからな」
「ほらすずちゃん!行こ!」
由衣に促されて、私は歩き出す。
チラッとお父さんを見る。
するといつの間にか来ていた警察から事情を聞かれていた。
というか既に他にも警察官がいて、現場を調べ始めてる。
これは確かにもう移動しないといけない。
……お父さんとお母さんとは、また後で。
もうちょっと話そう。
そう思いながらも、私は先に歩いている仲間たちの背中を追いかけた。