第166話 何でまた
翌日。連休初日の朝10時前。
私は1人で街中の歩道を歩いていた。
その理由はとかげ座の堕ち星についての作戦会議のために、真聡から集合がかかったから。
連休中に予定されていた家族旅行は流石に中止となった。
堕ち星が私の家族を狙ってる以上、全員がいるこの街にいた方が不測の事態に対応できる。
って真聡が両親を説得してくれたらしい。今朝、藍斗から聞いた。
そして、私は結局両親とちゃんと話せていない。
ただ朝ご飯は一緒に食べた。
食べ終わる時に「私は辞めないから。私は自分で戦うって決めたから」とは言った。
だけど、両親からは何も言われなかった。
絶対言い返されると思ってたから少し気持ち悪い。
でもまた喧嘩をしたくはなかったから、着替えや貴重品を持ってそのまま出てきてしまった。
もちろん、それだけでは駄目ってのは分かってる。
でも結局、なんて言ったらいいかわからなくて逃げてしまった。
真聡が家として使ってるビルに着いた。
集合時間には少し早い。
だけど私は慣れてきた階段を上る。
そして、5階の扉を叩く。
扉はすぐに開いた。
開けてくれたのはもちろん真聡だった。
そして私の顔を見て「早いな」と呟いた。
私は中に入りながら「だって居づらいし」と返す。
座ろうとソファーに目を向けると、既に智陽が座ってスマホを見ていた。
朝の挨拶を交わしながら私も同じソファーに座る。
……でも何でもういるの?
というかテーブルの上に置かれているタブレットとゲーム機は何?
そんな疑問を抱いた。
でも聞く気分ではなかったのでそっと胸にしまった。
その代わりに正面に座った真聡が「ご両親とは話せたか」と聞いてきた。
……いきなり嫌なこと聞いてきた。
そしてちゃんと話さず、一方的に言ってきただけ。
でも、話してないとは言いたくない。
だから私は「うん。まぁ」と濁した返事をする。
「それ、ちゃんとは話してないだろ」
「……うるさい」
「……どうするかは鈴保の自由だが、後悔だけはするなよ」
本当におせっかい。
自分のことは何1つ話さないくせに、人にはわかってるような口を利く。
何よりも、間違ったことではない所がイライラする。
そして間違ってはないから言い返しづらい。
なので私は「わかってるわよ」とだけ返す。
駄目なのは私だってわかってる。
でも本当に、何と言えばいいのかわからない。
どうせ、わかってもらえないんだろうし。
そう思っていると扉が叩く音が聞こえた。
それに続いて「まー君~!!来たよ~!!」と元気な声が聞こえてきた。
すると真聡は立ち上がって、扉を開けにいく。
入ってきたのは由衣、日和、志郎の3人だった。
「一気に来たな」
「しろ君とは途中で会ったの!ね~!」
由衣のその言葉に志郎は「おぉ。偶然な」と同意の返事をする。
そして3人が入ってきて、全員が定位置に座った。
すると真聡が「さて」と口を開いた。
「じゃあ情報共有するぞ」
「佑希は……来ないんだっけか?」
志郎のその言葉に、由衣が「そ~」と返す。
「3連休中はいないんだって~」
「そういや10月の連休もそうだったよね」
今度はそんな智陽の言葉に、またしても由衣が「そうそう!」と返した。
「……わざわざ帰るの大変じゃないのかな?」
「大変だと思うけど、やっぱり大きな休みは家族で過ごしたいんじゃない」
由衣の疑問の言葉に日和がそう返した。
そしてそこから何度か聞いた佑希の双子の妹、佐希って子の話が始まった。
……何回か話に出てるけど、どんな子なんだろ。
そう考えていると、日和が「……お兄さんも一緒なのかな」と呟いた。
すると由衣が「そういえば……」と呟いた。
「ゆー君、全然和希さんの話しないよね」
「それどころか。戻ってきてから、あんまり家族の話しない気がする」
その日和の言葉で、由衣が「う〜ん」と呟きながら首を傾げる。
……もう完全について行けない。
そう思ったとき、真聡が「おい」と口を開いた。
「俺達しかわからない話はやめろ。話を戻すぞ」
正直助かった。
全く分からない話。それも思い出話をされると、どうしたらいいのかわからない。
真聡はそのまま「まずざっくりと伝えるぞ」と話を続ける。
「堕ち星に成った人間の名前は山影 俊彰。鈴保の父親の会社の同僚らしい」
「もう名前とかわかってるのか!
……何でわかったんだ?」
「昨日、逃げられる直前に俺がとかげ座が吹き飛ばしたんだ。
そこに社員証が落ちていた。落としたんだろう」
志郎の言葉に真聡がそう返した。
……確かに、昨日もそんな話をしてた気がする。
そう考えていると、今度は日和が「……そんなことある?」と呟いた。
「知らん。だが実際に落ちていて、今も本人の居場所がわかっていないとなるとそういう考えにもなるだろ」
そういう状況なら……成った人だと考えてしまうと思う。
他に怪しい人がいないならなおさら。
そして私は、「動機は?」と聞いてみる。
「まだそこまでは分からん。
というか、それこそ鈴保がとかげ座との戦闘時間が長かっただろ。何か言ってなかったのか」
私にパスが回って来た。
でも確かに、私の方がとかげ座と戦ってる時間は長かった。
私は昨日の戦闘を思い出す。
確か……。
「私を鈴保って名前から苗字が砂山かどうか確認した後に襲ってきた。
あと、幸せが憎いから壊すとかも言ってた」
「そうなると……恨みか?
……まぁこっちは超常事件捜査班の仕事だ。俺達はとかげ座の対策を立てて、次に出たときに倒すだけだ」
「……そうね」
私がそう呟いた後、隣に座ってる志郎が「なぁ……」と私の方を向いて口を開いた。
「鈴保の父親って誰かの恨みを買うような人なのか……?」
「知らないわよ。
……ただ、暇さえあれば職場で家族の話はしてそうだけど」
「まさか……それを聞いて?」
日和のその一言で全員が首を捻り、沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは智陽だった。
「動機は今考えても仕方ないでしょ。それよりもっと重要な問題があるでしょ」
「え……何?」
向かいのソファーの由衣が首をさらに捻りながら聞き返す。
「堕ち星。へび座もからす座も倒した。それなのに何でまた現れたの?」
「そうじゃん!普通に作戦会議してたけど……何で?
というか澱みの量も凄かったよね!?」
そう言い切った由衣は、そのまま隣に座ってる真聡の方を向く。
それに続くように私を含めた全員が、真聡の言葉を待つ。
すると、真聡は何とも言えない顔になった。
そして少し目が泳いだ後、「あのな」と口を開いた。
「俺だってすべてがわかってるわけじゃない。
むしろ俺が聞きたいぐらいだ。あの山影 俊彰はどうやって堕ち星に成ったのか」
「……じゃあ澱みは?」
「前にも言ったが、澱みの発生原因は人の負の感情と言われている。
それなら、人間がいる限り無限に湧いてもおかしくはない」
質問した由衣は「そっか……」と呟いて口を閉じた。
その代わりに、今度は日和が口を開いた。
「何で人は堕ち星に成るの?私達だって星座の力使ってるけど成らないよね?」
「……明確な違いはわからない。ただ、何かしら澱みが関係しているのは間違いないと俺は考えている。堕ち星によって澱みが出現することもあるからな」
「じゃあ……私達も堕ち星に成る可能性がある……ってこと?」
由衣のその一言で、部屋の中に再び沈黙が訪れた。
真聡はため息をついた後、左手で顔を隠してしまって表情が見えない。
でも真聡にしか答えられないから全員で真聡の言葉を待つ。
すると数十秒後、真聡はようやく「さぁな」と口を開いた。
「それは俺にだってわからん。
ただ……全員、成ってはくれるなよ」
そう言ってソファーから立ち上がる。
「話は終わりだ。俺は今から見回りに出るからここの鍵を閉める。
だからお前らも出ろ。用事があるやつとかいるだろ」
私の3連休の予定は家族旅行から逃げることだった。
そして家族旅行は堕ち星の影響で中止になった。
なので「いや、ないけど」とすぐに言い返す。
すると志郎も「俺もないぞ」と口を開いた。
「というか、せっかく来たから流星群の特訓したいんだけど……」
また、部屋が静かになった。
そして少しの間が空いた後、真聡は言葉を投げてくる。
「……何でもいいから早く出ろ。鍵を閉める」
「いや、私ここにいるつもりだけど。街中走り回りたくないし、家帰っても誰もいないし」
今度は智陽がそう答えた。
テーブルの上に置いてあるタブレットやゲーム機、真聡のじゃないとは思ってた。
やっぱりこれ、智陽が持ってきたんだ。
……初めから居座る気だったんだ。
そんなことを考えていると、真聡がまたため息をついた。
そして「……勝手にしろ」と呟いた。
「鍵は置いていく。最後のやつはしっかり閉めて、メッセージで誰が持ってるか連絡しろ」
真聡は吐き捨てるようにそう言って、鍵をテーブルの上に置いた。
そしてスマホと上着だけを持って出て行ってしまった。
由衣の「ちょっとまー君!?」という声も、聞こえてないかのように。
扉が閉まり、また沈黙が訪れる。
しばらくしてから由衣が「あれ……怒ってる?」と呟いた。
「さぁ。真聡、最近また様子が変だからわからない」
「だよね?まー君……何でまたあんな感じに……」
そんな会話をする、由衣と日和。
また現れた堕ち星だけでも大問題。
それなのに、私達にはもう1つ問題がある。
そう感じた作戦会議だった。
……というか、ちゃんとした作戦は話してないよね?