第161話 嘘でしょ!?
時間は砂山 鈴保が家族の元から走り去った時点まで遡る。
☆☆☆
最悪。
由衣と真聡と智陽と遊んで、時間を潰す。
そして家族3人が旅行に出発するまでやり過ごそうと思ってたのに。
……まさか、学校まで迎えに来てるなんて。
私はそんな文句を心の中で呟きながら、駅前の人込みをすり抜けていく。
この後どうしよう。
あれ、絶対私を連れていくつもりだよね。
そうなると家は帰りたくない。
だから誰かの家に……でも候補がない。
そんなことを考えながらも、私は駅近くの歩道を進む。
とりあえず、少しでも早く家族がいる駅前から離れたかった。
そのとき。
制服のブレザーに入ってるスマホが少し震えたのを感じた。
たぶん、メッセージが来たんだと思う。
……絶対両親のどっちかでしょ。
そう思いながらも、他の人の邪魔にならないように歩道の柵の傍で立ち止まる。
そしてポケットからスマホを取り出して、メッセージを確認する。
しかし、その内容は予想外の物だった。
『智陽 駅前近く 真聡と由衣が戦闘中 相手は堕ち星』
「嘘でしょ!?」
思わず声が出た。
真聡と由衣が堕ち星と既に戦ってる。
つまりそれはさっきの場所かその近くに堕ち星が出たってことでしょ!?
……急いで戻らないと。
でも戻って戦ったら、絶対家族に怪物と戦ってることがバレるじゃん。
うちの両親は過保護すぎるから、知られたら何言われるかわからない。
だから絶対にバレたくないし、今まで何とかバレないようにしてたんだけど……。
……待って?堕ち星?
もう出ないかもしれないって話じゃなかったの?
あぁ~もう!わけわかんない!
何でこんな面倒なことになってるの!?
そう思いながらも、私はスマホをポケットに入れる。
そして歩いてきた道を、今度は逆方向に走り出す。
相手が堕ち星なら、文句なんて言ってられないから。
☆☆☆
走って数分で、さっき両親と喧嘩した広場近くまで戻ってきた。
衝撃音とか色々な音が聞こえてくる。
私は一度、近くの建物の陰に隠れて周りを確認する。
両親も藍斗も、それどころか誰もいない。
ここなら大丈夫。
そう思いながら私は左手でお腹の上をなぞって、レプリギアを喚び出す。
続いて、生成したプレートを差し込む。
そしていつもの手順を取って、左手を引いて右手を突き出して構える。
「星鎧生装」
そう口にすると同時に、右手でレプリギア上側のボタンを押す。
するとギアの中央真ん中から、蠍座が紺色の光を放ちながら飛び出した。
その光に私の身体は包まれ、私は紺色のアンダースーツと紺色と深紅色の鎧を纏う。
そして、光は晴れる。
大丈夫、戦闘が終わったら家族にバレる前に去ろう。
そう自分に言い聞かせ、私は再び走り出す。
広場では話の通り、既に黒色の星鎧と赤色の星鎧、真聡と由衣が戦っている。
相手は黒い身体の色に鱗のような皮膚と尻尾がある怪物。
まさか、へび座!?
……決めつけるのには早いか。
とりあえず、真聡と由衣に合流しないと。
様子を窺って、戦闘に参加するタイミングを待つ。
堕ち星が真聡に飛び掛かった。
真聡は後ろに下がってそれを避けた。
そして真聡は着地すると同時に左手を付いて「草木よ、捕らえよ!」と叫んだ。
堕ち星の周り3カ所から蔓が生えてくる。
その蔓は堕ち星を捕まえようと迫る。
だけど堕ち星は真聡との距離を詰めて、それを避けた。
真聡は急いで地面から手を放して、さらに後ろに下がろうとする。
由衣は真聡を助けようと走り出してる。
でもきっと、避けるのも助けるのも間に合わない。
一方、私は堕ち星が距離を詰めたその瞬間に、私の武器である槍を生成していた。
そして既に真聡の目の前を目掛けて投げていた。
堕ち星が真聡に襲い掛かる。
その瞬間、私が投げた槍が堕ち星に命中した。
堕ち星は横向きに吹き飛んで地面を転がる。
私はその隙に真聡と「すずちゃん!」と嬉しそうに叫ぶ由衣と合流する。
「名前で呼ばないで。
……あの人達、近くにいるんでしょ」
「さぁな。逃げるようには言ったが」
じゃあ、近くにいないことを祈るしかないか。
私は真聡の言葉に「そう」と返事をしながら質問を続ける。
「で、あれ。もしかしてへび座?」
「違うって。
えっと……いもり座?やもり座?」
「とかげ座な」
真聡が由衣にそう突っ込んだのと同時に、とかげ座が立ち上がるのが見えた。
「考えるのも話すのも後だ。とりあえず先に無力化するぞ」
「うん!」
「わかった。
私が前行くから」
2人にそう言って私は槍を再生成しながら、とかげ座との距離を詰める。
真聡がなんか言ってる気がするけど気にしない。
何でまた堕ち星が現れたのかわからない。
でも、とりあえず早く家族にバレる前に終わらせたい。
それにやっぱり真聡と由衣は近接向きじゃないと思うし。
武器とか能力的に。
間合いに入った私は、槍でとかげ座を突く。
だけど、残念ながら避けられた。
反撃のようにとかげ座が飛び掛かってくる。
私はそれを後ろに下がって避ける。
そこに、後ろから水と半透明の羊が飛んできた。
するととかげ座は水に濡れながらも羊を避けて距離を取った。
多分真聡と由衣の援護。でも避けられた。
……意外と素早い。
どうやって攻めよう。
そう考えていると、とかげ座が「すズ……」と言葉を発した。
「おまエ……砂山ノ……むすメ?」
何?
砂山の娘って聞くことは私の両親のどっちかの知り合い?
……今両親の話なんてしたくないんだけど。
私は少しイラつきながらも口を開く。
「別に私が誰で、親が誰だろうとあなたには関係ないでしょ」
「憎イ……幸セ……壊ス!!!」
そう言ってとかげ座はまた飛び掛かってきた。
でも、さっきよりも早い。
私は反応が遅れて、相手が間合いに入るのを許してしまった。
咄嗟に槍で迎え撃つ。
しかし、槍を掴まれて止められてしまった。
力比べが始まる。
意外と力が強い。
少しずつ、槍の先端がとかげ座から逸れだした。
このままだとマズい。
そう思ったとき。
とかげ座の足元が膨らむのが見えた。
私は反射的に槍を離して後ろに下がる。
そのすぐ後。足元の地面が盛り上がって、とかげ座は吹き飛ばされた。
右を見ると、両手で杖を持った真聡が地面に杖の先を付けていた。
「無茶するな」
まだイライラしてる私は「うるさい」と返す。
もちろん感謝はしてる。
というか「無茶するな」って真聡が言えた事じゃないし。
するとそこに、後ろから来た由衣が「とかげ座……落ちてこないね」と呟いた。
……確かに。
そんなに高く打ちあがったわけじゃないでしょ。
由衣の言葉にそう思いながら上を見上げる。
そのとき「邪魔ヲ……するナ!!!」という声が広場に響いた。
その叫びと同時に空中から、私達の周りから澱みが湧きだした。
由衣が「嘘でしょ!?」と驚きの声を上げる。
その言葉に、すぐに真聡が「焦るな」と返す。
「以前と同じなだけだ。まずは落ち着いて近くのやつから倒せ」
私も驚いたけど、真聡の言う通り。前と一緒。
最近が平和すぎただけ。
そう思いながら、私は近くの澱みを殴る。
視界の端で真聡と由衣も既に澱みと戦っているのが見える。
とりあえず2体倒したとき。
私は違和感を覚えた。
そして何か少し暗くなった気がする。
いや違う。
私は反射的に前に飛び込んで、その場を離れる。
その直後、私がいた場所に土埃が舞う。
私は転がりながらも態勢を整える。
すると「さやマ……壊ス……」という呟きと同時に、土埃の中からとかげ座が現れた。
上から落ちてきたんだ。逃げてなかったんだ。
でも何とか気づけたから、間一髪避けれた。
私は「だったら何!」と叫びながら、走り出す。
そして間合いに入った私はとかげ座を蹴る。
両手で受けられた。
だけど、衝撃が抑えられなかったのか。とかげ座は蹴りを受けて吹き飛んだ。
でも吹き飛びながらもとかげ座は体勢を整えて、着地した。
そしてその瞬間に踏み切って、距離を詰めてきている。
でも、ペルセウス座ほどじゃない。
全然目で追える。
何とか横に飛んで直撃を避ける。
私だって、このままではいけないって思ってる。
だから、これぐらいでやられるわけにはいかない。
でも、どうやって攻めよう。
地味に早い。
考えながらも、立ち上がって後ろを向く。
その直前、背中に衝撃を感じた。
同時に私は地面に押さえつけられる。
「まずハ……ムスメカラ!!!!」
そんな憎悪の籠った声が、私の上から聞こえた。
どうなってるかわかんない。
ただわかるのは、私がピンチだってこと。
……最近、悔しい思いばっかり。
真聡にはよくわかんないけど距離を置かれてる。
ペルセウス座には手も足も出なかった、おまけに「迷ってる」とか言われたし。
そして今も、やられてる状況。
これでも、頑張ってるのに。
……私は、どうしたらいいの。
そのとき。
「させるか!!」という声が聞こえた。
そしてその声と同時に、私の背中から重さが消えた。
次に聞こえたのは何かが壁に激突した音。
「……蠍、立てるか」
顔を上げると目の前に真聡がいた。私に向けて手を差し出している。
……また、助けられたみたい。
私は「ありがと」とお礼を言いながら、その手を取って立ち上がる。
真聡は私が立つと、土埃が待ってる方に視線を戻した。
「イライラするな。今は落ち着け。
あと、堕ち星から目を逸らすな」
「……うるさい。わかってるわよ」
真聡の呟くような言葉に、私はそう返してしまった。
私はとかげ座の突進を避けて安心してしまった。
でもとかげ座は止まらずに切り返して、もう一度私に突撃してきたんだと思う。
ちょっと考えれば警戒するべきなのはわかるはず。
でも、攻撃を受けてしまった。
私は悔しさのあまり、星鎧の下で唇を噛む。
その間に、土埃が晴れた。
それが見えた私は気を取り直して、戦闘を続けるために構える。
でもそこには、誰もいなかった。
それを見た真聡が「逃げられたか……」と吐き捨てるように呟いた。
……終わったなら、私は両親に見つかる前にここを去りたい。
「私、行くから。また連絡して」
そう隣にいる真聡に言って、私は広場から出るために歩き出す。
でも、そう上手くいかなかった。
広場から出る階段を上り始めたとき。
広場の上、私の進行方向に人が現れた。
「なぁ……あんた、姉ちゃんだろ?」
弟の藍斗が、私の前に立ちはだかっていた。