第157話 ズレている
空気の膨張による爆風が廃墟横の駐車場に吹き荒れる。
俺は後ろにいる由衣達を守るために、その爆風と衝撃波を土壁で防ぐ。
そして爆風が吹き止む。
それとほぼ同時に、俺は身体から力が抜けて膝をついてしまった。
視界に映る紺色の覆いも無くなった。
どうやら星鎧も消滅したらしい。
最近は星雲市に戻って来た時よりは星力切れにならない。
だが、今日は少し張り切って魔術を撃ちすぎてしまったかもしれない。
もう動けそうにない。
そんな反省をしていると、ペルセウス座の「いやぁ……凄いね、真聡君」という声が聞こえてきた。
「あんな範囲攻撃ができるなんて驚いたな。流石にあれは避けれないよ」
まだ舞い上がった砂埃や、溜まっていた魔力や星力が散っているため見通しが悪く、ペルセウス座の姿は見えない。
だが言葉的に、どうやらちゃんと当たったようだ。
俺の口から、深い息が吐き出される。
……いや、あの範囲攻撃を避けられたと言われたら完全にお手上げだが。
そうしている間に、少しずつだが駐車場跡地の見通しが良くなってきた。
すると、先程までペルセウス座がいた位置にプレートが浮かんでいるのが見えた。
同時に後ろから由衣の「姿が!」という叫び声が飛んだ。
「流石に6連戦はよくなかったね。力を使い切ってしまったみたいだ。
今日はもう人型には戻れないかもね……」
ペルセウス座はそんな声を発しながら、ふよふよとこちらに向かって飛んでくる。
そこに今度は鈴保の「というかさ」という声が飛んできた。
「真聡だけ規模が違うのズルくない?
私達はちまちま近接で戦ってるのにさ。あんな広範囲の攻撃で一撃って……」
……そう言われてもな。
俺がたまたま魔術が使えるからこそ、こんな戦い方ができる。
別に山羊座の力自体は強いわけではない。
むしろ、山羊座の力の影響でこの戦い方になっているんだ。
そんなことを考えていると、ペルセウス座の「まぁまぁ」という声が近くで聞こえた。
「そもそも俺に勝たないとダメとは言ってないから」
「そう言えば……言われてない」
「……ほんとだ!『勝ち』とは言われたけど『勝て』とは言われてない!」
確かに日和と由衣の言うとおりだ。
……まぁ「全力で」と言われたので全力を出した結果だ。
今の自分の限界も見えたのでそこは気にしないことにする。
そのままペルセウス座は俺と仲間たちの間まで移動して「さて、模擬戦をして見えた僕なりの意見を言わせてもらうね」と言った。
中途半端な座り方をしていた俺は、座りなおしてペルセウス座の方を向く。
「まず初めに、実は僕は実力以外にも君達の中に見たいものがあったんだ。
その点から今の君達を3つに分ける。1つ目は志郎君、由衣さん、日和さん。2つ目は鈴保さん。そして3つ目の佑希君と真聡君。
1つ目の3人の方はまだ実力とか経験もまだまだ。だけど僕が見たいものは十分にあった。だから、これからもその調子で頑張ってね。
特に志郎君は1番良かったよ。最後の一撃は想いも星力も乗ってて、とても良かった」
すると志郎が「ほ、ほんとすか…!?」と顔を上げて聞き返した。
その言葉にペルセウス座は「嘘を言う必要なんてないからね」と言葉を返す。
「もちろん、他の2人も良かったよ。これからも努力し続けるときっともっと強くなれる」
その言葉を聞いた志郎は立ち上がり、喜びの声を上げながら両手を上に挙げた。
そしてそのまま由衣とハイタッチをしている。
褒められたのがそんなに嬉しかったのか……どんだけ落ち込んでたんだ。
だが志郎は模擬戦が終わってから、ずっと口を閉じていて虚ろな顔をしていた。
自分が駄目だと思っていたが、むしろ評価は逆で褒められた……というところだろうか。
まぁそれだと……喜ぶか。
……俺的には、強くなり過ぎられると困るんだが。
一方、ペルセウス座はそんな喜んでる2人を置いて「次に鈴保さん」と話を続ける。
「基本的には先の3人と一緒なんだけど……君からは少しだけ迷いを感じたんだよね。
別に迷うなってことではないよ。でも、迷いは戦うときに邪魔になることが多い。だから解決できる問題は解決しておいた方が良いと思う」
その言葉に対し、鈴保は「わかり……ました」と歯切れの悪い返事をした。
俺はそのとき、鈴保が両手をぐっと握ったのを見逃さなかった。
そんな鈴保に、すぐに由衣が「悩みがあるなら聞くよ?」と志郎と共に声をかける。
しかし、少し鬱陶しそうに断られている。
鈴保の悩み……人に言えないものなのだろうか。
するとそんな4人を置いて、ペルセウス座は俺のすぐ近くでまで飛んできた。
それを見た佑希も近くまで寄って来た。
そして少し声量を落として「最後の君達2人」と話し始めた。
「2人は先の4人よりも頭1つ抜けて強い。今までたくさん苦しんで、努力をして戦ってきたのがよく伝わってきたよ。
でも、僕が見たいものが少し足りない……というより、少しズレているように感じたんだよね」
「それはどういう意味ですか。俺達に何が足りないんですか」
その言葉に、佑希が質問を返した。
瞬間的に、鬼気迫る声で。
眼付きが、狂気すら感じるような眼に変わっている。
まただ。
時々感じる佑希の中の何か。
佑希はやはり、堕ち星を倒すことに異常に執着している。
それが、ズレとでもいうのだろうか。
だが俺も、俺の中の何がズレているのかは気になる。
そのため、言葉を発さずペルセウス座の言葉を待つ。
智陽を含めた、5人の他の仲間達が何か話しているのが聞こえる。
そして十数秒の静寂の後、ペルセウス座は 「……答えは」と言葉を発した。
「君達が自分で考えた方が良いと思う。試練は自分の力で乗り越えるからこそ、成長できる。
だから、僕ができるのはヒントを伝えることだけだ。『本当にこのままでいいのか』とね。もちろんどうするのかは君達の自由だ」
……何が言いたいんだ、ペルセウス座は。
俺の、何がズレていると言いたいんだ。
そう考えているとき。
「2人はどうだったの!?」という言葉と共に、由衣の両手が俺の両肩に置かれた。
「4人より選ばれてからが長いから、その分の努力は感じれたって言われたよ。
でも、これで満足してはいけないとも言われた」
そう返した佑希の声は、既にいつものような声に戻っていた。
眼付きも、いつもの幼馴染の佑希に戻っていた。
そんな佑希に、由衣は「そっか~……」と返す。
「2人は|羽根の付いたサンダルでの急接近《あの攻撃》を避けれたもんね……」
「やっぱり戦ってる期間が長い人ほど強いよね……」
由衣の言葉がどんどん力弱くなっていく。
そしていつの間にか隣にいて、会話に参加していた日和の言葉もいつもよりテンションが低い気がする。
……2人も、自分の実力不足を感じているんだろうか。
いや、ペルセウス座の強さは桁外れだ。
そこまで気にする必要は無いと思うが。
と言っても、きっと由衣から反論が飛んでくるのが目に見えたので、俺はその言葉を頭の隅に追いやる。
そこに鈴保が「ほら」と志郎を急かしながらやって来た。
「話し終わってるからさっさと聞いてみなさいよ」
「言われなくても自分で聞くって。というか何で急かされなきゃなんないんだよ」
そんな会話をする2人の後ろには智陽もいる。
この3人は何を話してたんだ?
「ペルセウスさん。俺に流星群を教えてください!お願いします!」
そう言いながら志郎は頭を下げた。