第156話 桁が違う
「真聡君は面白い戦い方をするね。
それじゃあ……これはどうする?」
その言葉を残して、ペルセウス座の姿が消えた。
戦場である駐車場跡地を見渡すも、ペルセウス座の姿はどこにもない。
姿が消える兜の力だろう。
佑希はこれをフラッシュのカードで突破していた。
……どうやって突破するか。
いや、それ以前にどこから来る?
そう考えていると、左後ろに気配を感じた。
俺は反射的に全身を星力で守りながら振り向く。
そして杖で攻撃を受ける構えを取った直後。
両手、そして全身に凄まじい衝撃を感じた。
同時に俺の身体は吹き飛び、地面を転がる。
5人の戦いを見て覚悟はしていた。
だが実際受けてみると予想以上だ。
受けたのは恐らくシールドバッシュ。
ペルセウス座も本気ではないはずだ。
それなのにこの威力。
全身に響く衝撃がまだ抜けていない気がする。
流石は神話の英雄由来の星座、桁が違う。
4人が手も足も出ないはずだ。
だけど、俺はこんなところで止まるわけにはいかない。
もっと強くならないといけないんだ。
そう思いながら俺はとりあえず立ち上がり、神経を集中させる。
だが足音は聞こえない。
恐らく足音が立たないように歩いているのだろう。
そうなるとじっくり考えてる暇はない。
気づいたときには攻撃を受ける直前はもうごめんだ。
現在地はさっき吹き飛ばされたため、駐車場の端に移動していた。
座ってる仲間の位置は大体正面。
……あそこまで届かない威力まで絞ればいいか。
そう決意した俺はまた短く言葉を紡ぐ。
「電流よ。空気中に流れ、隠れし者の居場所を炙り出せ!」
そう唱えると同時に杖の頭を自分の身体の前側、大体180度を左から右へ振ってから杖先を地面につける。
すると俺を中心に半円を象った電気が空気中に流れ、広がり始めた。
そして俺は、電流の下に目を凝らす。
電流が通り過ぎるのはほぼ一瞬。
だが俺は駐車場中央、俺から見て斜め右前辺りを電流が通った際。
少しだけ地面が暗くなったのは見逃さなかった。
恐らく、ペルセウス座が電気を飛んで避けた際にできた陰だろう。
居場所を推測した俺は杖を消滅させて、地面を蹴る。
まずは一応、考えを悟られないために左斜め前に着地する。
そこからさらに右斜め前方向。
先程暗くなった位置の右辺りをめがけて再び地面を蹴る。
着地と同時に攻撃に入るために着地直前に言葉を紡ぐ。
「水よ。我が右腕に宿りて、全てを押し流せ!」
イメージするのは振りぬいた右腕を起点に正面を水流が押し流す光景。
それならペルセウス座が多少移動していても当たるはず。
そして着地して、右腕を振りぬく。
拳が当たった感触はない。
だがイメージ通りに右腕を起点に水流は発生した。
移動していても近くにはまだいるはずだ。
これなら、それもカバーできるはず。
俺は流れていく水の動きに気を配り、また目を凝らす。
すると水は俺の正面、5mほど奥で不自然な流れ方をした。
俺はもう一度距離を詰めて今度はそこに右足で蹴りを叩き込む。
その一撃は何かにあたった感触の後、動けなくなった。
これは恐らく手だ。
そう判断した俺は掴まれる前に後ろに下がって距離を取る。
するとペルセウス座が姿を現しながら、「なるほどね」と言葉を投げてきた。
「段階を踏んで場所を絞って攻撃を当てる。真聡君も実力はなかなかみたいだね」
「ありがとうございます」
「ところで……真聡君は他の星座の力を使わないの?」
「…他の5人は使えないのに俺だけが使ったらズルいじゃないですか」
「確かにそれはそうかもね。
……真面目だね、真聡君は」
……いや「自分が持てる力だけで戦う」という同じ条件で行わないと、本人の今の力は測れないだろ。
別に俺は真面目ではない。
そんなことを考えながらも、俺は「……どうも」と言葉を返す。
「そんな真面目な真聡君、こっちはどうする?」
そう言いながらペルセウス座は再び袋を生成し、その中からメデゥーサの首を取り出した。
そして、石化光線が飛んでくる。
俺はその色のない光線を右に避ける。
色はないが濃い神秘の力のため、光線が少しだけ景色を歪ませている。
そのため集中すれば、目視で避けれないことはない。
だが、それは疲れる。
だからこそ、俺は策を立ててある。
とりあえず、俺は次の光線が飛んでくる前に走り出す。
そんな俺の行動を読むように光線が飛んでくる。
俺はそれを避け、ときには氷魔術を撃ち返してペルセウス座の周りを走る。
光線とぶつかった氷魔術は石のような、氷のような塊となって地面に落下する。
……だがこれだけじゃ足りない。
そのため俺は、氷魔術を撃てる限り撃ちまくる。
駐車場には石化光線と氷魔術がぶつかってできた塊と氷魔術だけで作られた氷の塊が増えていく。
そして戦場は徐々に温度が下がっていく。
それでも俺は駐車場跡地をひたすら走り回りながら、石化光線を避けている。
どのくらいそれを続けたかはわからない。
だが、観戦している仲間たちが寒がっているのが一瞬だけ視界に入った。
それを見てそろそろ仕掛けるべきだと思った俺は、走りながらも杖を生成する。
そして「氷よ、全てを凍てつかせろ!」と短く言葉を紡ぎ、杖の頭をペルセウス座に向ける。
杖先から光線状になった冷気が放たれる。
ペルセウス座はメデゥーサの首を消滅させて、盾を生成して防いだ。
しかし、先程水魔術を受けて濡れていたのと、周りの温度が低いために少しずつだが凍っていく。
だがきっと長くは動きは止めれない。
俺は氷魔術を発動し続けながら、少しずつ移動する。
十数秒後。ペルセウス座はところどころだけだが、膝のあたりまで凍り付き始めた。
チャンスは今しかない。
俺は急いで地面を蹴って、言葉を紡ぐ。
「火よ。人類の文明の象徴たる火よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、我が前に立ちはだかる試練を焼き払い給え!」
唱え終わると同時に壁際に座っている仲間達の前に着地した。
そして、杖の頭をペルセウス座に向けて炎を放つ。
放たれた炎は、一直線にペルセウス座へと向かう。
同時に俺がずっと氷魔術で冷やされていた戦場の空気が暖められる。
すると急激に温度が上がったため、空気の膨張による爆発が発生した。
そして。
炎が
爆発が
爆風が
ペルセウス座を飲み込んだ。