第152話 ギリシア神話の英雄
「現代って不便だな……。身体があったらもう少し便利なのだろうけどな……」
「ぷ……プレートが……」
「「喋った」!?」
プレートが喋った。
その事実に、俺を含めたメンバー全員の驚きの声が俺の部屋に響いた。
「わかります。不便ですよね~」
「君は身体があるからいいだろ。僕は身体がないんだぞ」
プレートが宙に浮いて焔さんと会話している。
優しいが芯の通った印象がする男の声で。
……いやなんで喋ってるんだ?
星座の力自体に意思はある。
しかし、「力を分け与える現代人を選ぶ以外には現代社会に直接干渉してこない」って話じゃなかったのか。
いや、そもそも何座だ?
俺がそこまで思考したとき、俺達全員が固まっていることにようやく気づいたらしい。
プレートが「……もしかして、驚かせてしまった?」とこちらに話しかけてきた。
そんなプレートを見つめながら由衣が「ほ……本当に喋ってる……どうなってるの……?」と呟く。
続いて日和が「ま、真聡。説明して」と説明を求めてくる。
いや、俺もさすがにこれは聞いてないんだが。
なので俺は「俺だって流石にこれは知らん。焔さん」と話を返す。
「いやぁ……俺も最初は驚いたよ……という訳で説明お願いします」
「丸投げか……まぁいいか。
初めまして、星座に選ばれし者たち。僕の名前は……」
そこで、プレートが言葉に詰まった。
……自分が何の星座かわからないのか?
そう思っていると、焔さんが「道中でも言いましたけど」と口を開いた。
「現代ではペルセウスって名前になってますよ」
「あぁ、そうだったね。だからペルセウスって呼んでくれ」
「え!?ペルセウスってあのギリシア神話の!?」
智陽が身を乗り出して、そう食いついた。
その目は、輝いてるように見える。
……ここまで興奮してる智陽は初めて見たかもしれない。
そんな智陽にペルセウス座は「あぁ……まぁそうみたいだね」と返す。
「嘘……マジ……!?」
そんな興奮収まらない智陽に志郎が「有名なのか?」と疑問を投げた。
すると智陽は「嘘!?知らないの!?」という言葉の後、「仕方ないなぁ」と言ってペルセウスの神話を話し始める。
智陽の知識が凄い。
しかし、俺は中等部時代に神話基礎を受けてるから驚くような情報はない。
生き生きと語る智陽の説明を聞きながら、俺は考察に入る。
ペルセウス座とは言うが星座の力の成り立ちから考えると、恐らくペルセウス本人ではないだろう。
それなら焔さんと普通に話しているのも納得がいく。
だが、確かに喋っているプレートに描かれている星の並びはペルセウスだ。
だからペルセウス座の力ではあるんだろう。
……いや、問題はそこじゃない。なぜ喋れるかだ。
俺は智陽の話を邪魔しないように、「聞いていいですか?」とペルセウス座に質問をする許可を求める。
するとペルセウス座は「もちろん」と快く承諾してくれた。
「なんで喋れるんですか?
星座の力は現代社会には干渉しないって聞いてたんですけど」
「どうやら僕は特殊らしくてね。何故かこうやって君たちと話せるんだ。
なんでか……と聞かれると僕にもよくわからないんだ。質問に答えられなくて申し訳ない。
でも、こうして話せるからには君たちに力になるよ」
それはありがたい。
心置きなく頼れる力があるのは助かる。
そう考えていると、智陽の説明が終わったらしい。
志郎が「それって……俺達に力を与えてくれるってことすか!?」と話に入って来た。
「でも真聡以外は選んでくれた星座以外の力は使えないでしょ」
「どうして彼以外は使えないんだい?」
鈴保の言葉にそう返すペルセウス座。
そのまま由衣や日和、智陽も加わって「何故、俺以外は星座の力が1つしか使えないのか」という説明が始まった。
理由は他の星座の力を引き出せるリードギアはまだ1つしかない。
そのため、ペルセウス座の力をプレートから引き出せるのは俺だけだ。
……俺にリードギアを人数分つくるように頼めと?
それは……無しではないが気が乗らない。
そう考えていると話を聞いたペルセウス座が「そうか……」と呟いた。
「そうなると……とりあえず、全員の今の力を見たい……かな」
☆☆☆
俺達はペルセウス座が喋った驚きで忘れていた自己紹介をした後、全員ジャージに着替えていつもの研究所跡地に移動してきた。
どうやらペルセウス座に自分にできることを探すためと、俺達の実力を見るために模擬戦をして欲しいようだ。
そして、いつものように手荷物を建物の陰に座っている智陽に預ける。
……というか何で全員ジャージ持ってきてるんだよ。用意良すぎだろ。
そんなことを思っていると鈴保が「で」と口火を切った。
「どういう組み合わせでやる?ちょうど偶数だし割り切れるでしょ」
「だね!じゃあグーチョキパーでやる?」
「よっしゃ!やるぞ」
「あ~~ちょっと待って。その必要は無いかも」
やる気満々の由衣と志郎が利き手を振りかぶっているところに、ペルセウス座からストップの声が飛んできた。
俺を含めて全員が声がした方向を見る。
すると、さっき迄ペルセウス座のプレートが浮いていた焔さんの隣には。
男が立っていた。
その男は頭には兜、足には羽が付いたサンダルを身に着け、そして鏡のように磨かれた盾と鎌のような剣を手に持っている。
服装も相まって、立っているのはまさに神話などで聞くペルセウスだった。
「やっと実体のある身体だ……これなら、僕自身が君たちと戦える」
「え……ど、どうなってんだ!?」
「いやなんか、急にプレートが光ったと思ったらいきなりあの姿に成った……」
志郎の驚きの声に智陽がそう返した。
本当に驚いたのだろう。さっきまで座ってたはずだが今は立ち上がっている。
その言葉から考えるに……いきなり実態を得た。
つまり、概念体に成ったということか?
「じゃあこれからは一緒に戦えるんですか!?」
「いや、残念ながらそれはできない。この姿は恐らくここでしか無理だ」
ペルセウス座のその返事に由衣は「そんなぁ…」残念そうな声を上げた。
その言葉から察するに……恐らくこの研究所の地下を通っている地脈から魔力を吸い上げて概念体を生成しているんだろう。
そのため、ここから離れると魔力供給が途絶えて概念体を保てなくなるんだろう。
現状についてさらに考えていると、ペルセウス座が「じゃあ模擬戦を始めよう」と急に本題に戻った。
「それで、誰から来る?」
「じゃあ、俺からお願いします!」
間を開けずに立候補したのは、志郎だった。