第151話 喋った!?
土曜日、昼過ぎ。
俺はいつものメンバーに家に押しかけられていた。
理由はもちろん俺が智陽に澱み出現情報を口止めしていたことについてだ。
お陰で凄まじく部屋の空気が悪い。
……原因の俺が言うなという話だが。
ほぼ全員が俺のことをじっと見つめている。
まぁバレれたらこうなることは分かっていたが。
だがここまで早くバレるとは……そこは本当に予想外だった。
そして遂に、全員が座ったのに俺が何も話さないことに痺れを切らしたのか。
隣に座っている由衣が「何で」と呟いた。
「なんで、ちーちゃんに黙ってるように頼んでたの」
「……堕ち星の出現情報もなく、澱みの出現回数も量も減っている。
これ以上、お前らを付き合わせる必要がないからだ」
「だからって私たちに隠さなくてもいいじゃん!」
由衣が凄い勢いで詰めてくる。
そして、向かいのソファーに座っている志郎が「そうだぞ!」と続く。
「水……臭う?ことするなって!」
「水臭い。何でそこで間違えるの。
あ、でも私も志郎と同意見。なんで今更そんなことするの」
志郎の隣に座る鈴保も同意見らしい。
……どうやら味方はいないようだ。
まぁ予想通りだが。
そして由衣を挟んで反対側に座る日和が「というか、佑希も佑希」と口を開いた。
「気づいてたなら、なんで私たちに教えてくれないの」
「真聡が何考えてるかわからなかったからな。
少し探ってからにしようと思ってたんだ。」
「私も佑希に聞かれたときに『皆に言わなくていいの?』って聞いたんだけどさ」
智陽はそう言った後、ため息をついた。
……恐らく佑希は取引の内容を守って、由衣達には黙っていたのだろう。
どちらかというと、自分について詮索されたくないからだろうが。
そして智陽の言い方的に……あの高架下に3人が居合わせたのは偶然じゃなく智陽が仕組んだな?
律儀に頼みを聞いてくれてると思ったが、実はそんなことない気がする。
その件について聞きたいが、ここで聞いたら俺が不利になるだけだ。
それに確証もない。
そんなことを考えていると、由衣が「今になって、変な気を使わないでよ」と呟いた。
「私達みんな、仲間なんだから」
いつもの元気な声ではなく、真剣なトーンで。
……こうなるから、嫌だったんだ。
そんなどうしようもない言葉を飲み込み、口を開く。
「堕ち星が現れなければ、お前らの手を煩わせる必要はない」
「だ~か~ら~!そんなこと気にしないでって言ってるじゃん!」
「というか『堕ち星が出なければ~』って言ってるけど、出たらどうするつもりなの」
鈴保のその言葉に、智陽が「可能性は0じゃないでしょ」と続く。
「地下貯水路の戦闘が終わってからは堕ち星が出たって噂は拾ってないけど」
堕ち星がまた出る可能性。それは十分ある。
だがいつ現れるかわからない相手のために、こいつらの青春を犠牲にしたくない。
智陽の言葉的に今はまだそんな情報はないようだが。
どう返すか考えていると、日和が「私」と口を開いた。
「また出たときのために1人でもちゃんと戦えるようになりたい。強くなりたい」
その言葉で、完全に流れが変わった。
志郎が続くように「俺だってもっと強くなりたいぞ!」と乗った。
「1回目の地下貯水路みたいに負けるのはもう嫌だからな。
……というかあの流星群っていうの、俺達は使えないのか?」
「それ私も考えてた!」
そこから志郎と由衣主体で流星群談義が始まってしまった。
……話がそれてきている。
まぁ俺的にはこのまま有耶無耶にしたいが。
そのとき。突然フロアの扉が開いた。
同時に「おぉ!全員お揃い…また増えたのか?」という声が部屋に響く。
俺達は一斉に扉の方を向く。
「「焔さん」!」
日和以外の声が重なって、部屋の中に響く。
それもそのはず。
1カ月ぶりに現れた鳳凰 焔が、部屋の入り口に立っていた。
そのまま昨日もあったような顔と言葉と共に扉を閉めて、部屋の中に入ってくる。
また連絡なしで来たなこの人は……。
そして予想通り、日和が由衣に「……誰」と焔さんについて聞いている。
その説明は任せて俺は焔さんにいつもの文句を投げる。
「だから、来るなら連絡してくださいって何度言ったらわかるんですか」
「悪い悪い。でもまぁ頼まれていた物はちゃんと運んできたから」
まったく反省してなさそうな言葉と共に、焔さんはテーブルの上に大きな黒いケースを置いた。
言っても無駄なのはわかってるので俺はすぐケースを引き寄せて、中身を確認する。
数週間前にレヴィさんにお願いした通り、中にはレプリギアが2つ入っていた。
……もうこれ以上、使う必要がないといいんだがな。
俺が確認している間に、焔さんはメンバーに何を話していたかを聞いていたらしい。
焔さんの「なるほどなぁ……」という呟きが聞こえてきた。
「真聡が澱みが出たのを口止めして教えてくれなかったと」
そんな焔さんに志郎が「そうなんすよ!」と訴える。
「俺、もっと強くなりたいのにこのままだと体がなまってしまいそうっす」
「そうか、ならちょうど良かった。助っ人を連れてきたんだ。
へび座とからす座の堕ち星を倒したって聞いたときには遅かったかと心配してたんだが……」
そう言いながら焔さんは自分が背負っていた鞄に手を突っ込んでいる。
いや助っ人って人じゃないのか。
……なら助っ人ってなんだ?
気が付けば、全員の視線が焔さんに注がれていた。
そして、ただ焔さんが自分の鞄をごそごそしているのを、全員で見つめる。
何故か、時間が立つのが妙に早く感じる。
だが実際は恐らく十数秒後。
「あったあった」と言いながら鞄の中から手を引き抜いた。
出てきたのは小さな黒いケース。
レプリギアのケースの3分の1ほどの大きさ。
そして焔さんは「お待たせしました。ようやく出番ですよ」と言いながら黒いケースを開けた。
するとそのケースの中から、プレートが勝手に出てきて宙に浮かんだ。
まるで、意思があるかのように。
重力の影響を受けてないように。
「現代って不便なんだな……。
身体があったらもう少し便利なのだろうけど……」
「ぷ……プレートが……」
「「喋った」!?」
プレートが喋った。
その事実に俺を含めたメンバー全員が驚きの声を上げた。
その声は、余裕で部屋に響き渡った。