第139話 あの笑顔を
2体の堕ち星と2種類のへびの概念体が戦闘態勢に入った。
同時に向かい側に居るまー君とひーちゃんも構えたのが見えた。
そして隣に居るゆー君達も構えなおした。
私も杖を持ちながら構えなおす。
だけど私は、羊の長と名前をつけた角のある羊を生成した影響で既に少しだけ疲れを感じていた。
というか無茶だと思うんだよね。
ひーちゃん助けたくて夢中で作った、自分でもよくわからない羊をもう1回やれって……ねぇ?
だからちゃんと出来て安心した。
出来なかったらいつものサイズの羊を作りまくることになってたかもと思うと……少しゾッとする。
でも、まー君がちゃんと私を頼ってくれてると考えると嬉し……いや、やっぱり困る。
昨日1日、練習時間はあったけどさ。
あとひーちゃんも星鎧も武器も生成できるようになるの速いし。
というか私以外みんな早いよ。
私だけ時間がかかったの恥ずかしいというか……自信がなくなる。
そのとき。
反対側から「みんな、やるぞ」というまー君の声が聞こえてきた。
うん。今そんなことを考えている場合じゃない。
私は気合を入れなおす。
そして私達それぞれの言葉で返事をして、事前に決めた相手に向かっていく、
まー君はへび座の堕ち星、しろ君とすずちゃんは蛇の概念体。
そして、私はひーちゃんとゆー君と一緒にからす座の堕ち星。
ひーちゃんが既に、反対側からからす座に水弾を撃ってる。
そこにゆー君がからす座の後ろから斬りかかる。
だけど、からす座は2人の攻撃をふらふらと避けてる。
ゆー君はそのまま何度も剣を振るう。
それに合わせてひーちゃんが水弾を撃って、今度は私も羊を1匹送り込む。
でもからす座はゆー君の攻撃を避けながら、羽根を飛ばして私達2人の攻撃を打ち消した。
そのままからす座は飛んで上へと逃げて、口を開いた。
「俺1人に対して3人がかりって……正義のヒーローなのに卑怯じゃない?」
「お前達だって2日前、真聡に3体がかりだっただろ」
ゆー君の言葉を受けて、からす座は「あ~」と呟いて黙ってしまった。
そして数秒後、「それは……そうだな!」と言った。
そしてそのまま、私達3人に突撃してきた。
私達がそれを避けるとからす座はそのまま上昇していく。
そしてまた届かないところまで行ってしまった。
そしてまた、言葉を投げてくる。
「だけどお前達は俺達に正義を振りかざしてるだろ?世のため人のため〜って」
「別に俺はそういうので戦ってるわけじゃない。ただ俺は、俺の目的で動いているだけだ」
ゆー君はそう言い切ってからす座に向けてカードを5枚投げた。
からす座は飛んでくるカードを羽ばたいた風で撃ち落とそうとする。
だけど、カードは落ちる前に爆発した。
その爆風はからす座を巻き込む。
落ちてくるからす座。
ゆー君はさらに距離を詰めて、追い打ちの蹴りを叩き込んだ。
蹴りを受けたからす座は後ろへ勢いよく吹き飛んで、柱にぶつかった。
そしてコンクリートの地面に落ちて、小さな水飛沫を上げた。
私達はゆー君を先頭にからす座との距離を詰める。
すると、からす座は立ち上がりながら「いった……というか殺意つよ」と呟いた。
「僕たちは、ただ苦しんでる人を救おうとしてるのにさ。
それなのに双子君は自分の目的で俺たちの邪魔をする。
それなら……君の方が悪だよね?
そして、そいつに手を貸してる牡羊ちゃんと魚ちゃんも同じく……悪だよね」
私はその言葉を受けて言葉を失った。
もし、本当にこの2体の堕ち星になった人達が苦しんでる人を救うなら。
それで救われる人がいるなら。
こうやって、私達が堕ち星の邪魔をすることが間違ってる?
その疑問にたどり着いたとき。
ゆー君の言葉が地下貯水空間に響き始めた。
「化け物に成って人を襲うのが、まともな救いなわけないだろ。
被害者の気持ちもわからない癖に、適当なことを言うな」
ゆー君のその言葉には、怒りが込められていた。
仲間の私でも怖いと思うぐらいには。
ゆー君、再会してからは時々すごく怖い時がある。
前はそんなこと、なかったのに。
私がそんなことを考えていると、ゆー君は既にからす座に斬りかかっていた。
でもからす座はゆー君の剣をふらふらと避けてる。
「怒りに支配されてる君に俺の言葉は響かないか。残念」
「口を閉じろ、化け物」
そう言い放った後、ゆー君は剣を突き刺すように振った。
でも、からす座はその攻撃も避けた。
そしてゆー君の手を叩いて、剣を落とさせた。
さらにからす座は剣を遠くに蹴り飛ばした。
でも、ゆー君は止まらない。
ゆー君はそのまま、剣も持たずに殴りかかる。
……私も、援護しなきゃ。
そう思って、動こうとしたとき。
ひーちゃんが私の手を掴んだ。
そして「由衣は、迷わなくていい」と呟いた。
「確かに、抱えてる苦しみから解放されたいと思ってる人は、沢山いると思う。
でも人じゃない姿に成って、誰かを傷つけてまで解放されたいと思う人は多くないと思う。私だって、そんなことしたいとは思わないし。
それに、私はあのとき。由衣がへび座から守ってくれて本当に、嬉しかったし」
そうだ。
そうだよ。
私は自分の身勝手で関係ない誰かの笑顔を奪うのが許せない。
私はあの名前を知らない女の子の泣いていた顔を。
「ありがとう」と言ってくれたあの笑顔を、覚えてる。
だから堕ち星と成った人が暴れて、誰かを傷つけるなら私はそれを止める。
そう思ってたのに、なんで迷ったんだろ。
ひーちゃんのお陰で、大事なことを思い出せた。
流石ひーちゃん。
いつも私が困ってるときに助けてくれる、私の大好きな親友。
私はそんな思いを噛みしめながらも「……ありがと」と呟く。
「うん。……いける?」
「もちろん!」
私はそのまま立ち上がって、走り出す。
そして後ろに下がるゆー君と入れ替わるように前に出て、パンチを繰り出す。
いきなり後ろから出てきた私の攻撃。
そのパンチが決まって、からす座を後ろに下がった。
からす座は私の拳が当たった胸の辺りをさすりながらも「全員戻ってきちゃったか」と呟いた。
「確かに、少し迷ったよ。でも、私は決めたの。誰かの笑顔を守りたいって!」
自分の思いを叫びながら、私はまた距離を詰める。
そしてまた、右手でパンチを繰り出す。
止められたので次は左。
また止めれたので今度は脇腹辺りを狙って蹴りを入れる。
するとその蹴りが決まって、からす座はまた後ろに下がった。
「山羊に着きまわってるだけの癖に、大口を叩くようになったね。
……そんなにあいつがいいのか」
「確かに、私はまー君に色々影響されたよ。
でも、この思いも、あの時貰った笑顔も!私だけのものだから!」
確かに私は最初、まー君の力になりたくて戦いと思った。
それは今も変わらない。
まー君の力になりたくて、1人で背負わせたくないって気持ちは変わらない。
でも私は、それとは別に私だけの理由をちゃんと見つけてる。
今改めてそれを思い出した。
だからもう、迷わない!
一方からす座は「ハハ……可愛くないなぁ」と呟いてから、また上に飛んだ。
可愛くないってどういうこと!?
そう思っていると、水弾がからす座に向かって飛んだ。
からす座はその水弾から逃げるように飛んでいく。
そこに今度は、「目を閉じろ!」というゆー君の声と一緒に、カードが逃げるからす座へと飛んだ。
私は咄嗟に目を閉じる。
その直後、一瞬だけ凄く眩しくなるのを感じた。
同時に「スタングレネードかよ」というからす座の声が小さく聞こえた。
光が収まったので、私は目を開ける。
そしてすぐにまた走り出す。
からす座は目元を抑えながらもふらふらと立ち上がってる。
だけど、足音で気が付いたのかな。
からす座は既に翼と両腕で身体を守ってる
きっとパンチなら受けられてしまう。
……だったら!
私はからす座との間合いに入ってから、どこかへ行ってしまった杖を生成する。
そして、足を狙って思いっきり振る!!!
その一撃は受ける体勢を取っていた、からす座を吹き飛ばした。
からす座はそのまま地面をバウンドしながら転がっていく。
あまりにも痛かったのか、からず座はすぐに動かない。
一方、私はいきなり攻撃方法を変えたからな。どこか捻りかけてるのかも。
少し身体が痛い。
痛がっていると、後ろから「やったじゃん」というひーちゃんの声が聞こえてきた。
私は振り返って「うん!」と返事をする。
すると後ろにはもちろん、ひーちゃんと一緒にゆー君もいた。
「その使い方は……杖じゃなくてバットだろ」
「そ、そんなことないもん!」
ゆー君の突っ込みに言葉を返したそのとき。
地下貯水空間に凄い音が響いた。
音の方を見ると、からす座が吹き飛んだ先に2体の蛇の概念体とへび座の堕ち星も吹き飛ばされて合流していた。
そして私達の方にも。
「やっぱり1人で概念体と戦うのキツイな……」
「堕ち星の方が強いんだから文句言わない」
「雑談するな。まだ終わってない」
しろ君、すずちゃん、まー君が合流してきた。