第136話 地下貯水路、再び
「本当に大丈夫なのか〜?」
「丸岡刑事いないからってやめてください。後で報告しますよ」
「なっ……」
2日後、午前9時過ぎ。
私と真聡は、私が3日前にへび座の堕ち星に襲われた場所に来ていた。
川の水量はそこそこ。
まだ増水の心配はない。
あと末松って名前の刑事さんが真聡に変な絡み方してる。
嫌われてるのか仲がいいのか……どっちなんだろう、これ。
一応、昨日1日で星鎧と武器は生成できるようになった。
……由衣が何か拗ねてたけど、真聡が「気にするな」って言ってた。
何があったんだろう……。
お陰で最低限戦えるようにはなったと思う。でも肝心の私の特殊能力が上手くいくかは、実戦で試すことになってしまった。
まぁ、昨日も雨は降ってたから少しは発揮されてたと思うけど。
そして佑希達下見組は無事に帰ってきた。
ちゃんと職員通路を通る許可も取れた。
つまり作戦が上手くいくかは私達しだい。
……頑張ろう。
そして真聡がスマホで時間を確認した後、「よし」と呟いた。
「話した通り、突入前から星鎧を生成して行くぞ」
真聡の言葉に「うん」と返事をしながら、私はレプリギアを喚び出す。
次に私は時計盤の11時の位置に左手をかざして、プレートを生成してレプリギアに差し込む。
そしてもう一度11時の位置に左手をかざして、時計回りに一周させる。
最後に左手で山と谷を作るように下げてからまた上に戻す。
「「星鎧生装」」
その言葉と同時に、私は右手でギア上部のボタンを押して両手を下ろす。
ギア中心から星座が飛び出し、私達の身体は紺色の光りに包まれる。
その光の中で私は紺色のアンダースーツと紺色と青色の鎧を身体に纏う。
そして光は晴れる。
すると、星鎧を纏った私達に末松さんが「学生2人」と話しかけてきた。
「その……お前たちに何かあったら俺が丸岡刑事に怒られるんだからな。……無事に帰ってこいよ」
何故か照れ臭そうにそう言って来た末松さん。
……この人は本当に何なんだろう。
そう考えていると、真聡が「……善処はします」と返した。
私は続いて「ありがとうございます。行ってきます」とお礼を言う。
末松さんに別れを告げた私達は柵を越えて、川に飛び降りる。
水しぶきを上げながら、私達は川の中に着地する。
3日前に私達が逃げ込んだ川への排水口は、静かに少量の水を吐き出してるだけ。
真聡は「行くぞ」と呟いてから、暗闇へと続く地下貯水路へ入っていた。
私も後に続いて、地下貯水路に再び足を踏み入れる。
そして2人で水の音だけが響く地下貯水路を歩いて進む。
やっぱり水量は前よりも多い。
あと星鎧を維持するのは少し大変。
でも足首ほどの水も、この空気中の……澱み?も気にならない。
この前は息苦しくて仕方なかったのに。
星座の力って本当に凄い。
今回は地図を借りてきて、先に2日前のあの広い空間までの最短ルートを調べてきた。
どの方向に何回曲がるか覚えてきたので、記憶したその通りに進む。
そして数十分程歩き続けると、見覚えのある広い空間に出た。
奥の方に船の後ろのようなものも見える。
角度的に船の頭が地面に埋まって、後ろだけが地上に出てる感じ。
真聡の考え通りならあれは普通の船ではないらしいけど。
そんな事を考えながら、さらに気を引き締めて広い空間を進む。
少し進むと予想通り、「何、また来たの?」という声が聞こえてきた。
「……というか何で毎回タイミングが悪い訳?
せっかくこの前使った分だけの澱みが溜まったのに…………というか生きてたんだ」
声がするのは船尾の上、2体の堕ち星がいる。
そして真聡は堕ち星の方を見ながら「あぁ。残念ながらな」と言葉を返す。
「の割には……2人だね。しかも誰、それ。もしかして、お友達はみんな死んじゃった?」
「お前のせいで……な」
「そ。じゃあ、君たち2人もすぐに向こうへ送ってあげないとね!エリダヌス座!」
そう言いながらへび座の堕ち星は右手を掲げた。
すると船尾の周りで黒い靄が渦巻き始めた。
その次の瞬間、黒い水が波のように襲ってくる。
私はその波を避けながら、そのまま船尾の方へ向かう。
まず私はへび座とうみへび座、みずへび座の相手をする。
真聡は作戦を立てた割には、凄く気が進まなさそうだった。
だけど色々な話を聞いて、考えて。
その結果、私がやるべきだと思った。
……でもやっぱり怖いから早く終わって欲しい。
ちなみに真聡はリードギアでわし座を使って、空へと逃げた。
作戦ではそのまま、からす座との戦うことになってる。
それとほぼ同時に私に向かって、2匹の蛇の概念体が口を開けて襲ってくる。
私はそれを少し速度を上げて避ける。
私を選んでくれた星座は魚座。つまりは魚。
陸上より水辺や水中の方が早く動けるのが魚座の特殊能力らしい。
「エリダヌス座の水だとさらに相性が良いかもしれない」って真聡が言ってた。
そして私は2匹の蛇を避けながら、船尾の上にいるへび座が見上げれる場所まで来た。
船尾の上に登ればいいかもしれないけど「澱みが濃すぎるので近づき過ぎるな」と真聡に言われている。
実際にこれ以上近寄ると、気分が悪くなりそう。
そのため私はある程度の距離を保ちながら、船尾の周りを走り回る。
……滑ると言った方が正しいかもだけど。
そして私は滑りながらも銃を右手に生成して、へび座に向かって撃つ。
銃口から飛び出すのは銃弾、ではなく水。なので水弾って感じ。
だけどへび座はその水弾を避けて、そのまま下に降りてきた。
そして「なるほどね。君は魚座か」と口を開いた。
「実験として実体化させてたのが倒されたのは知ってたよ。でもまさか、すぐに人を選んだなんてね」
「だったら何」
「確かにそうだね。だったら何って話だ。
どうせ今から君もここで死ぬ。牡羊座を始めとした他のやつと同じようにね!」
へび座がそう言いながらへび座は左手を上げた後、前へと振った。
するとまた2体の蛇が襲ってきた。
私は船尾から離れる形でまた避ける。
私は囮。でも役割は戦うことじゃない。隙を作ること。
そう思いながらへび座に向けてもう一度引き金を引く。
へび座は水弾を避けてまた蛇を私を襲わせる。
その場を動かず。
私は2匹の蛇を、滑るように動き回りながら避ける。
蛇は私の速さに追いつけないので避けやすくて助かる。
魚座の能力は完全に水中ではなくても、足だけ水に浸かっている場所や雨の時でも少しは発動するらしい。
そこからしばらくは撃って、蛇から逃げて、また撃っての繰り返し。
でも、なかなか隙が出来ない。
そう思ったとき。
「すばしっこいなぁ!!」とへび座が大声を出した。
そして、右手を掲げた。
すると足元の水が、右手の上に集まっていく。
その水は周りの黒い靄の澱みを吸い上げながら、水の球に成って大きくなっていく。
流石にあれに当たると駄目なのはわかる。
でもあの大きさは避けても無駄な気がする。
それでも何とかできないかと考えながら距離を取る。
無駄とわかってても「危険を感じたら逃げろ」と真聡に言われてるから。
だけど、解決策が浮かばないまま時間が来てしまったみたい。
へび座が「さて、じゃあさよならだ」と声を発した。
水球の1点が膨らむ。
そして大量の水が私に向かって放たれる。
その直前、一つの影がへび座の右手を横切った。
同時に水は力を無くしたかのように下へ落ちる。
当然、真下に居たへび座はその水を全て受けた。
そして、大量の水でへび座の姿が見えなくなった。
数秒後。
びしょ濡れになったへび座の姿が再び見えた。
そして「やってくれたね………山羊座!!!」と怒りの籠った叫びが、地下貯水路に響いた。
「ずっと狙ってたからな。悪いがエリダヌス座は貰うぞ」
へび座の声に答えるように飛んだ声。
私はその声がした方向を向く。
するとへび座から少し離れた場所に、真聡が立っていた。
そしてその手には、何か四角いもの。
エリダヌス座のプレートが握られていた。