第134話 最接近までに
「つまり、一応今は川の水は元の水量に戻ってる。
でもまだ奥にはへび座とからす座の堕ち星がいて、まだ何かやろうとしている。
そして、へび座はみずへび座とうみへび座とエリダヌス座をからす座はしぶんぎ座の力を使ってきた。
あとそれと別に蟹座と魚座の概念体もいて、その2体は倒して回収してきた。
そして、魚座はそのまま水崎さんを選んだ……ということ?」
智陽が確認する可能用に、俺達の話を簡潔に纏めて聞き返してきた。
必要な情報はきっちり拾ってある言葉に、俺は「纏めるとそうなる」と返す。
地下貯水路で何かをしようとしている2体の堕ち星。どうせ碌なことをしないのは間違いないだろう。
それに、人を堕ち星にしているかもしれないやつらだ。
倒さないといけないのは間違いない。
そう考えていると、由衣が「あのさ」と口を開いた。
「そもそもなんだけど……エリダスヌって何?」
「それは俺も気になってた。……エルダヌスじゃね?」
志郎も続いてそう聞いてきた。
まぁ……普通は馴染みのない言葉だからな。知らなくても仕方ない。
そして2人とも微妙に間違っている。
しかし、俺よりも先に智陽が口を開いた。
「エリダヌスね。エリダヌスは川の名前でプトレマイオスの48星座の1つ。神話としては太陽神の子供が暴走した馬車と共に落ちた川のこと」
「怖!」「こっわ!」
そんな由衣と志郎の声に鈴保が「そんなことないでしょ」と突っ込みを入れた。
そのまま鈴保は「それより」と話を続ける。
「私はしぶんぎ座の方が気になるんだけど」
「いやマジで。流星群ってなんだよホントに」
志郎のその言葉を、鈴保は「それもあるけど」と流す。
「そこより、しぶんぎ座って88星座には存在しないでしょ」
「え、そうなの!?
……でもテレビとかでもしぶんぎ座流星群って聞くよ?」
由衣はそう言いながら首を傾げる。
確かにこれは説明しないといけない。
そう思っていると、俺よりも先に佑希が口を開いた。
「確かにしぶんぎ座は、星座が今の88個になったときに採用されなかった。
だけど、流星群が来る地点が隣の牛飼い座とりゅう座の間でちょうどしぶんぎ座の地点だった。
だから流星群の名前としてはしぶんぎ星座の名前が残ってる……だろ?」
そう言い切った佑希は、由衣越しに俺を見ている。
……なんで俺を見るんだ。簡単な説明としては十分だと思うが。
そんな俺たち2人の無言のやり取りなど気にせず、由衣と志郎は佑希の説明に「凄い」と感動している。
すると鈴保がまた口を開いた。
「88星座として残ってないのに何でプレートがあって、力が使えるわけ?」
何故88星座以外の消えた星座のプレートが存在するのか。
俺だって知りたい。
そして、1番何かを知ってそうな焔さんはまたいない。未だにスマホを持ってないし。
…………次に帰ってきたときに聞くか。
考えてもわからないことを今考えても仕方ない。
とりあえず、今は質問以答えないといけない。
まず俺は素直に「それは……わからない」と口にする。
「ただ、この状況から考えると、科学館でからす座に盗まれたのはレチクル座としぶんぎ座だったのかもな」
初めてからす座と戦った科学館のとき。
からす座は2枚のプレートを持ち去っていた。
今ある情報から推測しなおすと、2つのプレートはレチクル座としぶんぎ座だと考えた方がよさそうだ。
そうなると、からす座はプレートが体外に出てなかったということになる。
実際、からす座は平気そうに今日まで俺達の前に現れている。
……それならばどうやったらからす座、そしてへび座は倒せるんだ?
色々と考えていると、由衣が「それよりさ」と口を開いた。
「また行ってもさ、エリダヌスの力使われたら私達流されるよね……」
「というか、水が増えてるときに使われたら川が増水しない?」
鈴保のその指摘に、会話に参加してる全員が固まった。
そう。今、星雲市には台風が近づいている。最悪直撃コースで。
一応、丸岡刑事からは川の水は元に戻ったという連絡があった。
しかし、気にはなる。
……だがまぁ、することは決まってる。
「台風が最接近するまでにへび座を倒して、エリダヌス座の力を使わせない。それだけだろ」
すると佑希が「だから力を使われたら」と言葉を返してきた。
しかし、途中で言葉が止まった。
「って……そうか、お前は一応平気なのか」
「俺はあの姿になれば泳げる。あと日和も平気のはずだ」
予想通り、由衣が「え。ひーちゃんも連れてくの……?」と聞いてきた。
俺だって連れて行きたいわけじゃない。
だが、今回はこちらから打って出る。
それなら1人でも多く戦力を連れて行った方が、勝算が上がるだろう。
俺はそう思いながら「戦えるになったからにはな」と言葉を返す。
「それに一説によると、神話で山羊座と魚座が飛び込んだのがエリダスヌ川とも言われてる。……相性がいいんだ」
「そう言われると……でも……」
「まぁ、そこは本人の意志だ。今回、一緒に行くかどうかは起きてから聞く」
ようやく由衣は納得したのか「……そうだよね」と返事をした。
「それで……私達は普通に入る?」
「いや、真正面から行ったら、また今回と同じ目に合うだろ」
「それなら別の入口から入った方が良いよね」
佑希と鈴保の言葉で再び部屋は静まり返る。
とはいえ……別の入り口なんてあるか?
あの広い空間に行くには、貯められる水と同じように水路を通る必要があるだろ。
そのとき。
さっきから静かにスマホを見ていた智陽が口を開いた。
「河川事務所の職員通路は使えないの?」
その一言に、部屋にいる全員が驚きの声を上げた。
俺だってその発想はなかった。
……いやだが、普通はそうだ。
整備や点検などで職員が使う通路があるはずだ。
何故思いつかなかったんだ……。
そこに由衣が「でも……使えるの?」と口を開いた。
「台風近づいてる今、入らせてくださいって言って……怒られない?」
「……無理やり入るか?」
志郎のそのとんでもない言葉に、鈴保が「見つかって怒られて私達が警察に補導されて終わり」と返した。
すると志郎は「じゃあどうすんだよ〜……」と呟きながら、ソファーに沈んでいった。
……いや、これこそ俺達は簡単に済むだろ。
「超常事件捜査班に頼んで入れてもらえればいいだろ」
その言葉に、会話に参加してる全員がそれぞれ「その手があったか」と呟いた。
……誰も思いついてなかったのか。
「じゃあ善は急げ……だよな!」
「だね!行こ!」
志郎と由衣が「今すぐ行こう」と言わんばかりに立ち上がった。
俺はそんな2人を止めるために「いや、待て」と言葉を投げる。
「しばらく時間を空けたい。というか俺の体力と星力が回復していない」
「あ……そうだよね…………じゃあ…明日?」
由衣はそう言ったが、俺は出来るだけ時間を空けたい。
確かに時間を空ければ向こうにも回復されるだろう。
だが、それを引いても俺は万全で行きたい。
星力が万全に回復していれば魔術やリードギアなどの手数が増える。
俺は日付を決めるために「台風の最接近日っていつだ」と呟く。
すると智陽がすぐに「明後日の夜中以降」と返してきた。
……いや自分で調べろって話なのはわかってるが。
だがそうなると……。
「……なら突入は明後日午前中にする」
「明日じゃないの!?」
「日和を、最低限戦えるようにないといけないからな」
すると今度は鈴保が「……一応聞くけど、台風が去ってからは?」と聞いてきた。
だが、それは駄目だろう。
「台風で川の水が増えてるときに、エリダヌスの力を使われて住宅街が浸水したら困る。……やつの目的が何かはわからんが」
「じゃあ、突入は明後日だな」
佑希はそのまま「なら……真聡と日和以外の俺達は明日下見にするか」と呟いた。
「あぁ。捜査班には俺から連絡入れておく」
「……私もまー君と一緒にひーちゃんの方について行ってもいい?
やっぱり、ひーちゃん心配だから」
こういう由衣は止めたって無駄だ。
俺は「好きにしろ」と言葉にする。
その直前、由衣に聞こうと思っていたことを思い出した。
きっとあれは、何か突破口を作れる。
そう思い、俺は「いや」と口を開く。
「お前にも頼みたいことがある。着いてきてくれ」
「やった〜!……って何?」
……まぁ隠す事でもない。ここで説明するか。
そう思ったとき、鈴保が「明日の話の前にさ」と口を開いた。
「まだ1つ、話し合ってないことあるよね?」
「なんかあったか?」
「あの真ん中に刺さってた、船の後ろみたいなやつって、何?」