第133話 ついて行った
「悪いな鈴保」
「別に。由衣や智陽じゃ日和抱えれないでしょ。だからといって男子だと本人が嫌かもしれないし」
日和と由衣の仲直りのあと、遅めの昼食を取った。
そして食べたあと、日和は安心したのか気が付いたら寝ていた。
だが日和は、約1日飲まず食わず眠らずで地下貯水路を彷徨って堕ち星との戦闘に巻き込まれた。そして魚座に選ばれて、すぐに力を使って俺達を助けた。
そんな後だ。安全な場所で食事を取ったら、眠くなって当たり前だろう。
そして流石にソファーに寝かしておくわけにもいかないので、俺のベッドを貸すことにした。
日和の両親にも一応連絡入れたし大丈夫だろう。
……何かあっても家は近いし。
あとベッドを簡易的にカーテンで囲っててよかったと今日ほど思った日はない。
さっきは更衣室として活用されていた。
……まぁ女性陣が着替えるその間だけ、俺達男性陣は外まで追い出されたが。
そして戻って来た鈴保は元の位置に座って、テーブルに広げられているお菓子に手を伸ばす。
代わりに口の中に入っていたものを飲み込んだらしい由衣が、「でも大丈夫なの?私達の声で起きない?」と聞いてきた。
……というか何でお菓子パーティーが作戦会議と並行して開催されているんだ。
そんなことを思いながらも、俺は「それは問題ない」と返す。
「遮光と防音の術を合わせて結界を張った。光は問題ないし、音は大声を出し続けない限り大丈夫だ」
日和を運んでもらうよりも先に、カーテンに魔術を使う形で簡易的に対策を取っておいた。
だから問題ないはずなんだが……。
そう思っていると、由衣が「……なんで私をじっと見てるの?」と聞いてきた。
つい由衣を見てしまっていたことに突っ込まれてしまった。
だが、由衣は驚いたりするといきなり声が大きくなる。
……釘を差したくもなるだろ。
だが、言い争いをするつもりはない。
俺は目を逸らしながら「何でもない」と返す。
しかし、由衣は「言いたいことがあるなら言ってよ!」と聞いてくる。
同時に「なんで鈴保はさっきから俺を見てるんだよ」という志郎の声が聞こえた。
どうやら鈴保も志郎に対して同じ事を考えたらしいく、志郎と言い合いをしている。
そんな2組の言い合いを、日和と交代でこちらのソファーに移動した佑希が「はいはい」と止めに入った。
「遊んでる場合じゃないだろ。で、智陽。何があったんだ?」
「何があった……と言っても、あの場所に澱みが湧いた。そこに射守 聖也と満琉が来て全部倒した。そして私はそれについて行った。それだけ」
なるほどな……。
俺が地下貯水路への封印を解いたから、澱みが外へ漏れ出した。
だから人型の澱みが湧いたのか?
その辺り、考えてなかったな……。
脳内1人反省会を開いていると、志郎が「……何であいつについて行ったんだ?」と質問を投げた。
「由衣と真聡ならわかると思うんだけど、射守は地下とか閉所とかでは戦わせないほうが良いと思ったの。
だからわざとあそこから離した。行くなんて言わせないためにね。まぁ実際、他の場所にも澱み湧いてたし」
……他の場所でも湧いていたのか。
いや、地下にあれだけの澱みが貯められていたからこそ、地上にあれだけの頻度であの量の人型の澱みが湧いていた……?
そんな考察をしていると、今度は佑希が「星鎧がないから……か」と呟いた。
「何でギアを使わないだろうな?」
「満琉に聞いてみたけど理由はわからない。満琉にすらあんまり自分のこと話さないらしいから」
「ほんと何だあいつ」
また志郎が射守に悪態をついてる。
本当に苦手のようだ。いや、性格の相性か?
そんな感想抱いていると、智陽が「話戻すけど」と口を開いた。
「みんながまた地下貯水路に行くなら、私は射守と満琉と行動するつもりだから」
「地上に湧いた澱みを倒すのと射守を地下貯水路から離すってことだな」
「そういうこと。ただ結構量多いから、そこがね……。
今日も追いかけられて疲れた」
佑希の確認に肯定したあとに智陽の口から出た言葉。
俺はその言葉を、無視できなかった。
射守 聖也は弱い訳では無い。むしろ状況によっては俺より強いだろう。
しかし、あいつの戦い方だと近づかれたら危険であることは間違いない。
……何人か澱み退治に派遣するか?
そう思い俺は「……誰か智陽についていくか」と言葉を発する。
「……それ、地下貯水路に行く人数減らすってことでしょ」
鈴保のその言葉に、俺は「まぁそうなるな」と言葉を返す。
「それは絶対に」
「駄目!!」「やめろ!」「「やめて」」
まさかの佑希を除く全員から口々に反対の言葉が飛んできた。
…………そんなに揃って言わなくてもいいだろ。
というか大声を出すな。日和が寝ているんだぞ。
しかし、俺が突っ込む前に話は進んでいる。
由衣が「でもちーちゃんも心配だなぁ……」と心配そうな声で呟いた。
しかし智陽は「まぁ頑張って逃げるから」と返す。
……人数は増やせない。
それ以外にできることがあるのなら……智陽にも自衛ができるくらいの力を持たせることだ。
しかしそんな都合の良いものが……
ある。
がしかしあれは……。
……いや、悩んでいるだけ時間の無駄だ。
聞くだけ聞いてみるべきだ。
それに、智陽だって弱くはない。
そう決断し、俺は「智陽」と声をかける。
「何」
「自衛できるくらいの道具ならあるが……使うか」
「え、そんなのあるの」
「あるにはある……が……」
そう言いながら俺はソファーからを立ち上がる。
そしてギアやプレートを補完している棚から黒いケースを取って戻る。
戻りながら「テーブル、少し開けてくれ」と言葉を投げる。
由衣達がお菓子を移動させて空いたスペースに、黒いケースを置く。
そして俺は「ただ……これだ」と言いながら、黒いケースを開ける。
すると智陽は「これって……」と呟いた。
「あのときのスタンガン!?なんで持ってるの!?」
「由衣」
「あっ……えへ」
驚いて声が大きくなった由衣が佑希にツッコまれている。いやそれはどうでも……よくはない。
が、今はそこの話をしてる場合ではない。
このスタンガンは以前、智陽が誘拐されて俺達のギアやレプリギアを奪おうと襲ってきた連中が使っていたもの。
レヴィさんに解析を頼んだが「俺が使わなくても他のやつに必要なことがある」的なことを言われて、3つのうち1つだけ手元に残っていた。
……まさかレヴィさんはこれがわかってて……いやそれはないな。
そして智陽に視線を戻すと、まだ考えていた。
……まぁ、自分を誘拐した奴らが使ってた道具なんて使いたくはないよな。
そう思い俺は「聞いただけだ。無理に使わなくていい」と声をかける。
しかし、智陽からの返事はない。
そして数秒後。
智陽は「…………いや、使う。貸して」と呟いた。
すると由衣がすぐに「大丈夫?無理してない?」と聞き返した。
「大丈夫。それに私だって逃げ回るの疲れたし。
……でも私でも使えるの?」
「そこは何とかする。だが、澱みを一撃で消滅とかは無理だぞ。恐らく落ち着いて逃げれる隙を作るぐらいだ。あと人間には向けるなよ」
俺がそう言うと智陽は「わかってる」と返事をした。
……少し鬱陶しそうじゃなかったか?
ごく普通の注意しただけなんだが。
そう考えている間に、智陽は「で、そっちは何があったの」と聞いてきた。
「まだほとんど何も聞いてないんだけど」
「……俺達の間でも情報共有しないとな」
佑希のその言葉で、先程の戦いの振り返りが始まった。