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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
8節 友達とは、親友とは
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第130話 私よりも

「山羊座も、射手座も。本当に邪魔だと思ってる。

 でもその2人以外は別に邪魔にもならないと思ってた。

 だけど、どうやら甘く見てたみたい。牡羊座。君も邪魔だ。

 ……もういい。全員ここで殺す」


 蛇なのに人間のような体付きをしている怪物のそんな言葉が、地下貯水路に響く。


 一方、由衣ゆいは制服の姿で私の目の前で膝をついてる。



 ……私なんかを守ってたばっかりに。



 結局助けに来てくれた人、全員やられてしまった。



 やっぱり、ここで死ぬんだ。



「のみこめ、エリダヌス座」



 蛇の怪物の周りから、黒く濁った水が周りに流れ出す。



 佑希ゆうきの、真聡まさとの、由衣の迷惑になりたくなくて、距離を置いたのに。



 結局、私なんかのために3人共やられてしまった。



 ……私にも力があったら良かったのかもしれない。



 その考えも、私の意識も。



 数十秒後に来た黒い濁流に押し流されていった。




 その濁流の中で、私は左手が燃えるように熱いのを感じた。




 その後、私は濁流の中で大きな魚を見た。


☆☆☆


 私は小さい頃、自分を表現するのが苦手だった。


 ……今も苦手だけど。


 だから幼稚園の頃はほとんど1人で遊んでた。

 そんな私に声をかけてくれた女の子がいた。


 あれは小学校1年生1学期のある日。


「家近いしさ、これから毎日一緒に学校行こうよ!」


 そう言ってくれたのがとても嬉しかった。


 でもその子には、既に一緒に学校に行く友達もいた。


 疑問に思った私はその子に聞いた。

 「どうして私を入れてくれるの?」って。


「だっていつも1人で寂しそうだから。

 だから、ーーちゃんがいいなら、ずっっっと友達でいようよ!」


 それからは、私はその子がいるグループに入れてもらった。

 その子の名前は……。


☆☆☆


 頭が重たい。



 記憶もぐちゃぐちゃ。



 そして、身体が痛い。



 左手が少し熱い。



 ここは……どこ?



 何があったの?



 考えても、わからない。



 ただ、声が聞こえる。



「……ちゃん!!…ーちゃん!!ひーちゃん!!!」


 この声、そしてこの呼び方をするのは由衣しかいない。


 そう思いながら目を開けると、やっぱり目の前に由衣がいた。

 その見慣れた顔は、既に何箇所か傷の手当がされてる。 


 ……そっか、怪物に襲われて地下貯水路に逃げ込んだ。


 そして出られなくなっていたら由衣達が助けに来てくれた。

 そのまま怪物と由衣達が戦いになって……最後に黒い濁流に飲み込まれた。


 そして、大きな魚の中にいる記憶。


 色々と思い出してる私に由衣は「ひーちゃん……?私の声聞こえる?わかる?」と聞いてくる。


 ……流石に返事をしないと。


 私は起き上がりながらも、「わかる。大丈夫」と言葉を口にする。

 すると由衣は「良かった〜〜!!」と叫びながら抱きついてきた。


 ……目が覚めた後すぐに抱きつかれるのは辛い。


 私は「……身体、痛いから離れて欲しい」とお願いする。


 由衣は「あっ……ごめん」と呟きながら離れてくれた。

 凄く落ち込んでる雰囲気で。


 私は話題を変えるのも兼ねて、「……みんなは?」と質問してみる。


「生物部のみんなは大丈夫だよ。みんなもう目を覚ましてるよ」


 その言葉を聞いて、私はようやく周りを見渡す。


 私が寝ていたのは川沿いの道に設置された救護テントの下だった。

 すぐ隣のテントでは桐生さんや先輩、大捕先生が椅子に座って毛布をかぶっている。


 私が1番気がつくのが遅かったらしい。


 さらに遠くをに視線を向けると、救急車やパトカーが見える。


 ……かなりおおごとになってたんだ。


 でもここは地下貯水路の外。



 助かったんだ、私。



 今になってやっとその実感が湧いてきた。



 でもその実感は突然響く大声でかき消された。


「おい由衣!大変だぞ!やっぱり真聡がどこにもいねぇ!」


 佑希じゃない別の星芒高校の制服を着た男子が、そう叫びながら私達がいるテントに飛び込んできた。


 確か……平原ひらはら君だっけ。


 1学期の頃、屋上に真聡を探しに来たのが平原君だったはず。

 あと星鎖祭りでも会った。


 すると由衣が「嘘!?まー君!?」と叫びながら救護テントを飛び出していった。

 そして平原君も由衣を追いかけて出ていった。


 ……やっぱり、行っちゃった。


 すると交代で桐生さんや先輩達、大捕先生、救急隊の人が話しかけてくる。


 でも私は、返事はするけどずっと上の空だった。

 目線は由衣を追って、頭の中はずっと由衣について考えていた。


 由衣はそのまま川の柵まで走っていき、身を乗り出す勢いで川を覗く。

 そして真聡の名前を呼びながら川沿いに走っていく。



 由衣が私の前に立って、怪物から守ってくれた。

 「大事な友達に触るな」って叫びながら、必死に守ってくれたのがやっぱり嬉しかった。



 でもやっぱり、由衣にとって1番の大切なのは真聡なんだ。



 ずっと一緒にいたのは私なのに。



 私よりも、真聡なんだ。



 そんな現実を突きつけられたようで心が痛かった。



 そのとき。

 何かが川の中から飛び出す音がした。


 その直後、水飛沫が上がると共に上半身が山羊、下半身が魚の生き物が宙を舞う。

 するとその生き物の姿は空中で全身が紺と黒の鎧の人型に変わった。



 そして着地と同時にその鎧が消えて、陰星 真聡が現れた。



 すると「まー君!!!良かった〜〜!!!」と叫びながら由衣が戻って来た。

 同時に散らばっていた佑希や2人の星芒高校の制服を着た人も集まって来た。


 そして由衣は「心配したんだから!」と言いながら、真聡の両肩を掴んだ。



 私は、真聡が4月に戻ってきてから由衣が取られた気がしていた。



 中学3年間、少し様子が変だった由衣と一緒にいたのは私なのに。



 そんな黒い濁った感情が心の中にずっとあった。



 でも真聡も、私の幼馴染で友達であるのも事実。



 やっぱり、心配だった。



 私は重たい身体を引きずるように、真聡のところへ向かう。

 周りの人の止める言葉も聞かずに。


「ほんともう駄目かと思ったんだから!!!」

「やめろ、揺らすな」


 真聡がそう言いながら肩を掴んでる由衣の手を払った。


 一応、今は雨は降ってない。

 でも地面は濡れてる。


 それでも真聡は地面に直接座って川の柵にもたれてる。


 ……全身びしょ濡れだし。

 本人は気にしてないみたいだけど。


 でも顔色がとても悪い。

 ……さっきの戦いの影響でもう一歩も動けないのかな。


 そう考えていると、髪に金色が混じっている女の子が「というかさっきの……何?」と真聡に言葉を投げた。


「完全に動物の形だったよね?」

「頭が山羊で下半身が魚。……星座の山羊座の姿だよな、あれ。

 真聡、そんなことも出来たのか」


 確か名前は……砂山さやまさん。砂山さんも星鎖祭りで会った。

 そして砂山さんに続いて、佑希も真聡に言葉を投げる。


「……山羊座の本来の能力はいつも使ってる術じゃない。どちらかと言えば、変身術だ。

 普段使わないのは俺が使いたくないのと、人間の身体を組み替えるのが大変だからだ。

 本当は今だって使いたくなかったが、死ぬ訳にもいかないから使っただけだ」

「……そんなやつ使って俺達を助けてくれたんだな。ありがとな」


 真聡の絞り出すような言葉に、平原君がそう返した。


 すると、真聡は「……いや」と口を開いた。


「お前らを助けたのは、俺じゃない。というか全員無事なのか」

「あぁ、生物部の人達も俺達も全員無事だ。ちなみに真聡が最後だ」


 佑希が簡潔に状況を真聡に伝えた。

 やっぱり、真聡が最後だったんだ。


「……じゃあ、あの巨大な半透明の魚は誰が出した」


 真聡のその言葉で、場は静まり返った。


 ……あの魚、みんな見てたんだ。


 でも私には何も無い、何もわからない。

 うっすらと見たような記憶があるだけ。


 そして怪物と戦ってる人達も誰もわからないらしい。全員困った顔で首を傾げている。


 ……特別な力があっても、できないことも、わからないこともあるんだ。


 そう考えていると、真聡が「……鈴保すずほ」と声を発した。


「魚座の概念体らしきやつはどうなった」

「倒したよ。プレートも私が持ってる」

「何で由衣が返事をするんだ……というかお前な」


 そう言いながら、由衣は真聡を睨んだ。

 ……いや、いつでも目つきは悪いけど。


 するとそこに平原君が「まぁまぁ」と割って入った。


「由衣が来てくれたから蟹座倒して、俺は真聡を助けに行けたんだから」

「それはそう。私も由衣のお陰で魚座が倒せたから」


 平原君に続いて、砂山さんも止めに入った。

 すると真聡はため息を最後に口を閉じた。


 一方、肝心の由衣は褒められたと思って照れてる。


 ……まぁ褒められてはいるのかな。


「で、プレートは」

「それが……1つしかなくて………たぶん無くしました!!!

 本当にごめんなさい!!!」


 由衣のその一言で、私と由衣以外の4人の驚きの声が響いた。

 そして由衣は見たことない勢いで頭を下げてる。


 真聡は上を向いた後、「とりあえず残ってる方のプレート渡せ」と呟いた。

 由衣は頭を下げたまま、スカートのポケットから取り出した何かを渡した。


 ……器用。


 真聡はその長方形のものを受け取った後、「蟹座か」と言葉を発した


「スカートのポケットに入れてたのか……あと頭上げろ」

「そこしか入れるとこなかったから……流されたときに落としたのかな……」


 由衣が頭を上げながら答える。


 真聡は口を開かない。

 たぶん考え事をしてるんだと思う。



 そのとき。

 自分の左手の甲が目に入った。



 そこには、見慣れないものがあった。



 反射的にこすっても、消えない。

 まるで皮膚に刻まれているみたい。


 私は思わず「何これ」と呟いてしまった。


 その声を聞いた5人が私の方を見る。

 そして由衣が「ひーちゃん?どうしたの?」と声をかけてくる。


 私は「これ……」と言いながら由衣に左手の甲を見せる。


「え!?これって!?」


 次に真聡が「何だ」と言った後、立ち上がった。


「というか日和、大丈夫なの……嘘だろ」


 喋りながら近づいてきた真聡は、私の左手の甲を見て言葉を失った。


 そして佑希も「どうした?」と言いながら近づいてきた。

 でも真聡と同じように左手の甲を見て、「日和も……か」と呟いた後に言葉を失った。


「何だ何だ?何があった?」

「ちょっと、見えないし。説明してくれないとわからないんだけど」


 そう言いながら、私の前に居る幼馴染3人の後ろから平原君と砂山さんが覗いてくる。


 すると、真聡が静かに口を開いた。



「……水崎みずさき 日和ひよりは、魚座に選ばれた」

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