第129話 触るなっ!!!
隕石みたいなのが地下貯水路に降ってきた。
それから……多分1分ぐらい。
ようやく煙が晴れていく。
私は派手に吹き飛ばされて地面に倒れてる。
でも星鎧は消えてない。
大丈夫。立てる。まだ、戦える。
それに私よりすずちゃんが心配。
私より隕石に近かったし、槍を投げてたけど……。
そう考えながらも私は何とか立ち上がって、辺りを見回す。
すると結構近くにすずちゃんが倒れているのが見えた。
制服の姿で、仰向けで。
すずちゃんの深紅の色の星鎧が、なくなってる。
私は「すずちゃん!?」と叫びながら走り出す。
そして「すずちゃん!!ねぇ!!返事してよ!!」と呼びかけながら身体を揺する。
するとすぐに呻き声が聞こえて、すずちゃんの目が開いた。
そして私を見た後、口が動いた。
「そんなに叫ばなくても、聞こえてるから……死んでないし、意識もあるから」
「よかった……」
とりあえず、一安心。
そして私はすぐに気になっていた言葉にする。
「……何で隕石に向かって槍を投げたの?」
「……私は、ずっと魚座と戦ってて結構毒も飛ばしてたから。正直ギリギリなの。
それであの攻撃が来たから。
明らかにあれはヤバい奴だったじゃん。
だから2人でやられるより、限界な私がまだ元気な由衣を守った方が良いと思ったの。
私はもう役に立てそうにもないから」
そして最後に「……でも、由衣はまだいけるでしょ」と呟いた。
心配なのと、ありがとうって気持ちが私の中でグルグルしてる。
そんな私は「すずちゃん……」としか呟くことができなかった。
するとすずちゃんは「大丈夫」と口を開いた。
「怪我してるわけじゃない。ちゃんと立てるし、歩けるから。
……それにしても、慣れてないことを主軸にするもんじゃないね」
すずちゃんはそう言いながら身体を起こした。
そして「ちょっと悪いけど、手を貸して」と言って来た。
私はすぐに立ち上がって、すずちゃんの手を引っ張って立つのを助ける。
でも立ったとき、すずちゃんは少しだけふらつく。
私が「大丈夫!?」って聞いたら「大丈夫だから」と返してきたけど。
……きっと私を心配させないために無理してる。
悔しさと申し訳けなさで自分の手をぐっと握る。
そのとき。
地下水路に誰かの声が響き始めた。
……悔しがってる場合じゃない。まだ戦いは終わってない。
みんなを連れて逃げなきゃ。
とりあえず私はその声を聞きながら、すずちゃんを連れてこっそりと移動を始める。
「山羊座は元気だね。まだその姿で居れるんだ。
あとは……何か2人ほど見当たらないけど、まぁいいか。
それに、その姿とはいえ山羊座ももう限界でしょ」
「やっぱ大したことないな」
からす座のその言葉に、へび座が「でしょ?」と返した。
そんなへび座とからす座、そしてみんな様子を私達は柱の陰から窺う。
ゆー君もしろ君も制服姿で倒れている。
立とうとしているけど、立てないみたい。
一方、まー君だけはまだ黒い星鎧が消えてない。
だけど、立ち上がる気配がない。
……星鎧を維持するだけで精一杯なのかな。
そしてひーちゃんや他の生物部の人達。
一応、大丈夫そうに見える。
隅っこにいたからかな。
そしてへび座とからす座、もちろん普通に立っている。
そして2匹の大きな蛇も見える。
……とりあえず、何とか隙を見つけないと。
ここなら私達からはみんなが見えるけど、堕ち星からは私達は見えないはず。
その証拠のように、へび座とからす座の会話は続く。
「元々は全員ここで殺すつもりだったんだけど……やっぱり仲間を増やそうかな」
「前に目をつけてた獅子か?それとも蠍か?」
「ん〜〜その2人はもういいかな。何も感じないし。
僕が今気になるのは……双子座」
そう言いながら、へび座はゆー君の方へと歩き出す。
そして、「ねぇ、その苦しみや怒りから解放されたくない?」と語りかける。
ゆー君が危ない。
私は走り出す。
でも、走れない。
腕を掴まれてる。
横を見ると、すずちゃんが私の腕を掴んでいた。
そして静かに首を横に振った。
……そうだよね。
今飛び出しても、私1人じゃ2体の堕ち星と2匹の大きな蛇には勝てないもん。
そして私達がそんなやり取りをしている間に、ゆー君はへび座に「……お前らの言葉を聞くつもりはない」と言い返していた。
低くて、ゆー君からは聞いたことないような怖い声で。
思わず視線を戻すぐらいに、ゆー君のそんな声は聞いたことがなかった。
それに対して、へび座は「そ」と呟いた。
まるで「つまらない」と言いたいような声で。
「じゃあ……君だ」
そしてへび座は、そう言いながら別の方向に居る誰かに向けて指を差した。
その先にいるのは……生物部の人達。
そしてその指が差すのは中でも……ひーちゃんだ。
そのままへび座はひーちゃんに向けて歩き出した。
それを見た私は気がつくと走り出していた。
今度は、すずちゃんが腕を掴むよりも早く。
飛び出すのは今じゃないかもしれない。
でも私は、戦えない人が襲われるのを黙って見てはいられなかった。
それが、大事な親友だから余計に。
「君も辛かったんだね。劣等感、孤独。その気持ち、よくわかるよ。
だからその苦しみから開放してあげる。君の本音、聞かせてよ」
へび座の手から黒い靄が出てる。
それを見た私は、さらに力を振り絞って走る。
だって、私も4月末の遠足のとき。
私はあの手に掴まれた。
暗くて、怖くて、死にそうになったあのとき。
あんな苦しくて怖いのを、ひーちゃんにもさせたくない。
そして私は、何とかへび座とひーちゃんの間に割り込めた。
私はそのまま、声を張り上げる。
「私の大事な大事な友達に!!!!!触るなっ!!!」
すると、その叫びに答えるかのように羊が。
いつもより大きくて、立派な角を生やした半透明の羊が私の隣に現れた。
その羊はすぐに走り出して、へび座の堕ち星に向かって突撃する。
流石のサイズ差で、へび座は吹き飛んでいく。
すると今度は2体の大きな蛇が羊に向かってきた。
2体は羊の周りをぐるぐると回り、すれ違う。
そして羊に噛み付こうと飛び掛かった。
だけど羊は惑わされずに攻撃を避けて、確実に反撃する。
後ろ足で蹴って1体目、そして頭突きで2体目の大きな蛇を吹き飛ばした。
そして立派な角の羊は消滅した。
それと同時に私は身体がとても重く感じて地面に膝をつく。
星鎧も消滅してしまった。
今ので力……星力を使い切っちゃったのかも。
だけどそこに、体勢を立て直したへび座が戻ってきた。
全然平気そうに見える。
そしてへび座は「……僕は」と口を開いた。
「山羊座も、射手座も。本当に邪魔だと思ってる。
でもその2人以外は別に邪魔にもならないと思ってた。
だけど、どうやら甘く見てたみたい。牡羊座。君も邪魔だ。
……もういい。全員ここで殺す」
私は重たい身体に気合を入れて、何とか顔を上げてへび座を見る。
するとへび座は、既に何かを持った手を突き出していた。
あれは……プレートだ。
「のみこめ、エリダヌス座」
そう唱えたと同時に、へび座の周りから黒く濁った水が周りに流れ出す。
逃げなきゃ。
みんなを。
ひーちゃんを守らなきゃ。
頭ではわかってるんだけど、身体が動かなかった。
その数十秒後、私達は黒い濁流に飲み込まれる。
私の意識もその濁流のような暗闇に落ちていった。
そしてその濁流の中で、私は大きな魚に食べられる夢を見た。