第128話 空をも走れ!
時間は平原 志郎が白上 由衣と分かれたところまで遡る。
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しろ君が壁際に追い詰められているまー君を助けに行くために走って行った。
もちろん、私だってまー君を助けに行きたいとは思った。行きたかった。
でもきっとしろ君が私を止めて「自分が行く」って言ったのは、しろ君の考えがあると思う。
だから私は、しろ君にまー君をお願いすることにした。
2人で行くことも考えた。
でもすずちゃんやゆー君に1人で概念体を任せるのも嫌だった。
だから早く概念体を倒して、みんなでまー君を助けにいかないと。
ゆー君には「十二宮の概念と戦っている志郎と鈴保を優先してくれ」って言われてるし。
私は少し焦りながらも、しろ君が壁まで吹き飛ばした蟹座の方へ走る。
どんどん小さくなって見えなくなったから……。
そう考えながら、私は足元に気を付けながら進む。
すると、さっきまで大きな蟹が居たところに1枚のプレートが落ちていた。
私はすぐにそのプレートを拾い上げる。
……でも見てもこの並びが蟹座なのか自信がない。
とりあえず私は星鎧の一部を一瞬だけ消滅させて、蟹座のプレートを制服のスカートのポケットに仕舞う。
次に私はすずちゃんの方を見る。
もちろん空中を飛び回る、尻尾を繋がれた2匹の大きな魚。魚座の概念体と戦ってる。
すずちゃんは……毒を飛ばしてるのかな、あれ。
いや。今はとりあえず行かないと。
そう思って私は走り出す。
魚座の概念体が口から水を吐き出した。
すずちゃんはその水を避けて、何かを撃ち返している。
すずちゃんはまー君のお陰でちょっとした毒なら使えるようになっていた。
だからその毒を飛ばしてるんだと思う。
確か当たると……身体が痺れるんだっけ。
いつの間にか飛ばせるようになってたんだ。
でも、すずちゃんの毒は避けられている。
というか、2匹の大きい魚が尻尾をくくりつけられてるのに、動きぴったりなんだけど!
あれじゃあ攻撃当てられないじゃん!
そんな事を思いながらも、「助けに来たよ!」とすずちゃんに声をかけて合流する。
「助かる。……でも由衣、何とか出来そう?」
その指摘に、私の口から思わず呻き声が漏れる。
確かに来たのはいいけど、何とかできる方法が思いつかない……。
悩んでいるとすずちゃんが口を開いた。
「魚座の概念体。私は毒飛ばしても射程が足らないから当たらない。
そして跳んで近づいても、自由に飛び回るから逃げられるんだよね」
そこに魚座の概念体が突撃してきた。
私達はそれを左右に別れて避ける。
飛び込んで、地面を転がって、起き上がって、魚座の方を見る。
……本当にどうしたらいいんだろう。
そう思っていると、「由衣の羊って、空中走れないの!?」というすずちゃんの声が聞こえてきた。
でも私は、その言葉にすぐに答えられなかった。
だってやったことないからわからない。
そして考えている間に水が飛んできた。
それを走って、転がって避ける。
……とりあえず返事しないと。
すずちゃんと離れちゃったし、私は「わかんない!やったことないから!」と叫ぶ。
「そう!じゃあ他の方法考えないとね!」
そう返事をした後、すずちゃんは飛んでくる水を避けながら魚座に向かっていく。
だけど、すずちゃんが近づくと魚座は上に昇っていった。
すずちゃんは「あ~もう!」と怒りの声を発している。
飛んでるから直接攻撃ができない。
降りてきたところにやっと近寄っても、また飛んで逃げられるんでしょ?
……蟹座より大変じゃない?
それならやっぱり、私の羊に空中を走って追いかけてもらって……体当たりして降りてきてもらうしか……ないよね。
やったことないから出来るかわからない。
でも私もこれしか思いつかない。
それにやって出来なかったんじゃなくて、やってないからわからない。
だったらやるだけやってみるしかない!
私はまた飛んできている水を避けながら、すずちゃんに「さっきの話!やるだけやってみる!」と叫ぶ。
「わかった!じゃあお願い!」
そう言うとすずちゃんは魚座の攻撃を避けながら、また柱に向かって跳んだ。
そして空中から毒を飛ばしてる。
……また避けられてるけど。
一方、私はちょっと距離をとって深呼吸をして集中する。
そして目を閉じて、私が作った半透明の羊が空中を走る姿を想像する。
大丈夫、できる、いける!
私は目を開けて言葉を紡ぐ。
「羊が1匹、羊が2匹。眠れよ眠れ。空も走れ!羊の群れ!」
そう唱えるといつものように羊が現れた。今回は5匹。
そして5匹の羊達は魚座に向かって走り出す。
走ってくる羊を見た魚座はすずちゃんから離れて、さらに上へと逃げる。
すると羊達も空中を走って追いかけていく。空中を走るのが当たり前のように普通に。
上手く行った!
そして2匹の大きな魚と、5匹の透明な羊による地下貯水路空中追いかけっこが始まった。
巨大魚は羊を消そうと水の弾を飛ばすけど、羊達は上手に避ける。
その光景が数十秒続いた後。2匹の羊がそれぞれ左右別の方向に走り出した。
きっと先回りをするんだ。
しかも沢山ある柱を使って、上手に隠れてバレてないみたい。
そしてその羊達は魚座の前に左右から飛び出した。
その体当たりは不意を突かれた魚座に綺麗に決まり、少し動きが遅くなった。
その隙を逃さず、後ろから来ていた3匹の羊も次々に体当りして消滅していく。
5匹分の体当りを受けた魚座がふらふらと地面に落ちてくる。
それを見たすずちゃんは、既に魚座に向かって走り出した。
そして思いっきり槍で重なってる2匹の大きな魚を突いた。
渾身の一突きってやつ。
その一撃で魚座は壁まで吹き飛んで行った。
これで……倒せたのかな。
……何かいつもの羊を呼び出す時よりも疲れた気がする。
でも今はそんな事言ってられないよね。
とりあえず私はすずちゃんに「上手く行ったね!」と言いながら駆け寄る。
「うん。でも今までで1番疲れた……」
「私も〜……でもとりあえず、プレートを取りに行こ」
そして私達は吹き飛んだ魚座に駆け寄る。
やっぱり、蟹座と同じでプレートが落ちてる。
拾い上げると、後ろからすずちゃんが「無事に回収できてよかった」と言った。
私は「うん!」と返事をしながら振り返る。
そしてもう一度星鎧を一瞬だけ消滅させて、制服のスカートのポケットにしまう。
……よし。
「まー君とゆー君助けにいかないと」
「だね。……どうする」
すずちゃんがそう言ったとき。地下貯水路に轟音が響き始めた。
この音は……上から!?
見上げると、そこには。
……何あれ。
とりあえず見た目は黒い塊。
それが沢山、地下貯水路に降ってきている。
地下にある空間だから、空なんてないのに。
でもそれは、本当に降り注ぐ流星群とか隕石みたいだった。
……だいぶ見た目が怖いけど。
そしてそれはもちろん、私達に向けても。
状況が理解できないけど、私は咄嗟に全身を星力で守る。
一方、すずちゃんは私の方をちらっと見た。
そして降ってくる隕石に向けて槍を構えたあと、槍を投げた。
……何で!?
そう思った直後、私は衝撃で吹き飛ばされた。