第012話 私の本音
真っ暗で何も見えない。
何も感じない。
私は……何してたんだっけ。
今日は、遠足だった。楽しかった。
帰るときに……泥人形が現れた。
みんなと一緒にバスまで逃げようとして、私は……。
そう。乗らなかった。
担任のタムセンに言い訳して乗らなかった。
なんて言ったっけ。思い出せないや。
そこから……まー君が心配で茂みに隠れて……。
さらに怪物が現れて……。
まー君が勝ったと思ったらピンチになって…。
助けなきゃと思ってたら……そうだ。
私が捕まってピンチなんだ。
私……このまま死ぬのかな。
結局、まー君とちゃんと話せなかったな……。
……もしかして、まー君はこうなると思ってたから話してくれなかったのかな。
そうだとしたら私、最低だ。
まー君の親切を聞かないで死にそうになってるんだから。
謝っても許してくれないだろうなぁ。
「さぁ!君の本音、聞かせてみろ」
私の本音……なんだろ。
やっぱり、まー君とちゃんと話したかったな。
……じゃあ、諦めてる場合じゃなくない!?
そう思った瞬間。私は左手が凄く熱いことに気がついた。
そして、いつの間にか何かを握っていたことにも。
いつから熱かったのか、いつからそれを握っていたのかはわからない。
でもそれに気がついた瞬間、頭の中の靄が晴れていく感じがした。
そうだよ。私はこのまま死ぬわけにはいかない。
だって「まー君が話してくれるまで待つ」って決めたんだから!
「私の本音は……まー君とちゃんと話したい。また仲良くしたい。
命がけで戦う、まー君の力になりたい。まー君の隣で!私も!戦いたい!」
私は思っていたをそのまま叫ぶ。
すると、私を包んでいた黒い靄が吹き飛んだ。
一緒に私の首を掴んでいた怪物も吹き飛ばされた。
そして私は自分の足で地面に立つ。
今、何をすればいいかは《《何故か》》わかった。
怪物が起き上がるまでに行かないと。
私は少し駆け足でまー君に近づく。
「これ、借りるね」
そう言って、私は彼のお腹に巻かれている深い青色をした箱のような、ベルトのようなものを外す。
そして、それを自分のお腹につけて、怪人の方を向き私の思いを叫ぶ。
「ありがと。私が本当は何がしたいのか気が付かせてくれて。
だけど、私とまー君をこんな目に合わせたあなたを私は許せない!
ここからは、私が相手になる!」
左手だけじゃなくて身体中が熱い。
でもエネルギーに満ち溢れてる気がする。
私はいつの間にか左手で握っていたそれをベルトのようなものに入れる。
そこに、まー君の「上側のボタンを押せ!『星鎧生装』って言え!」って叫び声が聞こえた。
私は言われた通りにボタンを押す。
「星鎧、生装!」
すると、今度は全身に激しい痛みを感じた。
今まで感じたことがないぐらい痛い。
立ってられないくらい、私はなんとか気合いで立ち続ける。
すると、ベルトようなものの中心から何かが飛び出した。
なんだっけこれ。見覚えはある気がする。
考えていると私の身体が光りに包まれた。
でも、前にまー君が鎧を纏うのを見てたし怖くはなかった。
私の全身は鎧に包まれて、光が晴れる。
身体はまだ痛い。
でも、ここで私があれを倒さないといけない。
そう思って痛みを我慢して、構える。
すると怪物が言葉を投げてきた。
「驚いた。山羊座に嫌がらせをしようと思ったのに、まさか敵が増えるなんて。これはとんだ失敗だ。今日はここまでにしておくよ」
そう言って怪物は上の山の中に消えていった。
私は追いかけようとするけど、ついに痛みに耐えれなくなった。
全身から力が抜けて、膝から地面に崩れ落ちる。
鎧もほぼ同時に消えて、私は元の姿に戻ってしまった。
「由衣、大丈夫か」
「ぜ、全身が…痛い……」
聞き慣れた声に振り返ると、まー君が隣にいた。
でも、まー君も限界みたいで私の横に倒れるように座った。
私はなんとか身体を動かして、まー君と同じようにちゃんと座る。
そして私よりも怪物と戦っていたまー君の方が心配なので、「まー君こそ大丈夫なの?」と聞き返す。
「……なんとかな。少し休めたから、なんとか動けるまでには回復できた」
「そっ……か」
気まずい。何を話せばいいのかな。
結局わからない。
だけど、私はさっき考えていたことを思い出した。
「まー君」
「なんだ」
「えっと……その……ごめん。
まー君は今日みたいなこと起きないように、私に関わるなって言ってくれてたんだよね。なのに私、全然わかってなくて……。本当にごめん」
だけど、まー君からの返事はない。
……え、怒ってる?
流石にちょっと怖いんだけど……。
私はこれ以上なんて言えばいいかわからなくて黙り込んでしまう。
少しの間の後。ようやくまー君は口を開いた。
「謝るのは……俺の方だ。お前の気持ちを考えず、俺が楽な方に逃げてた。お前の性格だと、先に話しておいたほうが良かったと今更気づいた。……悪かったな」
予想外の言葉に、私は固まってしまった。
まー君が謝ってくれるなんて思ってもなかった。
「仲良くしようよ!」と文句は言ってたけど、まー君が何も教えてくれないことには何も考えてなかった。
驚いて返事に困っている私に、まー君の言葉が続く。
「だから……お互い様だ。それにお前がいたから、俺は助かったんだ」
怖かったし、痛かった。
でも、まー君にそう言ってもらえるなら頑張ってよかったと思えた。
「じゃあ……これからは……?」
「あ〜……。その、えっと……。もし、由衣さえよければだが、これからも友達でいてほしい」
「……あったりまえじゃん!というかいまさらだよ!
私達は、今も昔もこれから先もずーーーーっと友達だよ!」
私はその言葉を待ってたのかもしれない。
嬉しくなって思わずまー君の背中をペシペシ叩く。
「おい、痛いって。やめろ」
「あ、ごめん!嬉しくってつい……」
顔を見合わせる。私はなぜか笑いだしてしまった。
そんな私を見てまー君は呟くように言った。
「やっぱりお前、眩しいわ」
「ねぇ、それどういう意味〜!?」
気がつくとまー君も少し笑っていた。
戦いが終わった駐車場には、2人の高校生の笑い声だけが響いていた。