第116話 3つのプレート
「と言う訳らしいぞ」
満琉と話して、へび座に襲わてた次の日の昼休み。
私達6人は屋上に集まっていた。
……集まっていたというか真聡に集められたの間違いだけど。
屋上でこんな話をしていいのかは疑問に思う。
でも真聡が何かしていたから多分大丈夫なんだと思う。
そしてお昼を食べながら私と由衣が昨日、満琉から聞いてきた話を共有をした。
「射守が6人目……ね……」
「やっぱあいつ仲間なのか……」
話を聞いて鈴保と志郎がとても嫌そうな雰囲気でそう呟いた。
まぁ、前回の屋上のときからそんな感じだったし。この反応は予想通り。
一方で佑希は「また黄道十二宮か……まぁでも、味方が増えるのは良いことだろ?」と言ってる。
そう都合よく行くかな。
だって射守の態度あれだよ?
そんなことを考えながら、私は焼きそばパンの袋のごみをビニール袋に入れる。
他のメンバーも、ほとんどお昼を食べ終わってる。
そんな光景を眺めながら、私は佑希と真聡の会話に耳を傾ける。
「それにしても生身で武器を生成できるなんてな。
……本当に生まれたときから射手座の力を使うように生きてきたんだろうな」
「多分な。こういう力は鍛えた年月が長ければ長いほど馴染んで強くなる。
……恐らく、射守は並ならぬ努力をしてきたんだろうな。それこそ俺達以上に」
この2人……というか真聡の発言はたまにおかしなところがある。
具体的に言うと聞いてる情報だけだと噛み合わないことがある気がする。
そんなことを考えていると「で、智陽」と真聡から言葉が飛んできた。
「射守は他にもプレートを持ってたか?」
「持ってた。たぶん3種類。
攻撃を防ぐ力と矢を増やした力、それと……多分堕ち星の居場所がわかる力かな」
「3つか……」と呟いた後、真聡はポケットから出したスマホを触り始めた。
多分星座の一覧を見てるんだと思う。
それにつられて私を含めて全員が自分のスマホを見る。
次に口を開いたのは由衣。
「はい!」と勢いよく手を挙げて。
……授業じゃないんだけど。
「盾座、オリオン座、レチクル座じゃない?」
「俺も1つ目は盾座だと思うが、オリオン座は違うと思う。それにレチクル座は科学館のときにからす座の堕ち星に回収されていると考えている」
真聡からの意見に由衣は「え~……」と口を尖らせながら、スマホとの睨み合いに戻っていった。
「……オリオン座じゃねぇの?」
「オリオン座は有名だろ。だから能力が矢を増やすだけと言われると……俺は違うと思うな」
「ケンタウルス座は?射手座も確かケンタウルスでしょ?
それかインディアン座。……先住民って弓矢とか使わない?」
志郎、佑希、鈴保が順番に自分の意見を口にする。
志郎はさておき。佑希と鈴保は星座についてしっかりと勉強しているのがわかる。
でも私も発言する隙間があって安心した。
「2つ目は矢座じゃない?」
私がそう言うと、佑希とがすぐに「それは俺も考えていた」と肯定してきた。
……鈴保が口を挟まなかったら私の発言チャンスは本当になかったのかもしれない。
「俺も2つ目は矢座だと考えている。
問題は3つ目だ。該当しそうな星座は全て俺達か堕ち星が持ってるはずだ。
そう言った後、真聡は最後に「……3つ目は何座だ?」と呟いてスマホとのにらみ合いに戻った。
そして全員、再び自分のスマホと睨み合う。
該当しそうな星座。
恐らく天文に関係する、六分儀、八分儀、望遠鏡、レチクルのことだと思う。
確かにこの4つは科学館のときに確認してる。
そして六分儀、八分儀、望遠鏡は私達が回収した。
一方、レチクル座のプレートがからす座がを持ち去った。
……本当にレチクル座かどうかは確認できていないけど。
そして、この沈黙を破ったのはまたしても由衣だった。
また元気よく「はいっ!」と手を挙げて。
……だから授業じゃないんだけど。
「羅針盤座じゃない?行き先を示す……って」
「羅針盤座か……なるほどな、よく思いついたな」
真聡が驚きながらも由衣をストレートに褒めた。
……珍しい。
由衣は「えへへ〜」と照れてる。
だけどすぐに、気まずそうな声で「でも……」と口を開いた。
「私が思いついたんじゃなくて……望結先輩に聞きました。
なので褒めるのは望結先輩に……」
なるほどね……。
天文部で星座オタクの見鏡先輩なら、私達とは違う視点とオタク知識があるから答えが出せるかもと思ったんだ。
人との繋がりを大事にする由衣らしい解決方法。
私が少し感心してると「誰?」と鈴保が呟いた。
佑希が「さぁ?」と首を傾げている。
鈴保と佑希は科学館に行ったときはいなかったから知らなくて当たり前。
そんな2人に志郎が簡単に見鏡先輩について説明を始めた。
そして由衣はそんな3人をチラッと見た後、また「でもさ」と口を開いた。
「羅針盤って方位磁針でしょ?……違うんじゃないの?」
「確かに方位磁針だ。だから羅針盤座そのものには堕ち星を探す能力はないかもな。
だが、こういう力は後から違う力が与えられたりする。方位磁針は行き先を示す。それが転じて行き先、つまり澱みや堕ち星の場所を示すようになった……ありえない話ではない。
そもそも俺や由衣、それに佑希は本来の伝承から少し違う力を得てるだろ」
「確かに。牡羊座に眠りの話はないし、双子座にもカードの話なんてない。山羊座は……」
そこまで口にして、私は固まってしまった。
……山羊座の力って?
その疑問について考えていると、真聡が「どちらかと言うと」と口を開いた。
「変身術の方が近い。少なくとも、7属を扱う力なんてない」
「確かに言われてみれば……」
由衣が頷きながらそう呟いた。
でも私は、真聡の発言に出た「7属」という言葉が気になった。
……いつも使ってる火や水のこと?
確かに全部数えると7つに分類できる……か。
だけど、発言に引っかかっている私を置いて、真聡の言葉は続く。
「それに射守が幼い頃から星座の力に触れていたのなら、新たな意味を与えている可能性だってある。
だから俺は、射守が持っている星座の力を射手座、盾座、矢座、羅針盤座の4つと仮定したいと思う。反論があるやつはいるか」
「ありません!」
由衣が元気よく返事をする。
そしちょど、見鏡先輩の話から戻ってきた3人もそれぞれ「反論がない」という言葉を口にする。
もちろん、私もそれでいいと思うので「ない」と言葉を投げる。
そもそも真聡が1番強くて、星座の知識もあって、歴も長いんだから余程のことがないと誰も反対しないでしょ。
そのまま真聡は「じゃあこれで」と話を締めようとする。
その言葉に重なるように、タイミングよくチャイムが聞こえてきた。
そして志郎が「これって……予鈴か?」と全員に尋ねる。
それに由衣が「うん。予鈴だと思う」と言葉を返した。
「教室に戻るか。
あと由衣、見鏡先輩にお礼を言っておいてくれ」
「もちろん!」
全員が自分の荷物を持って校舎内に戻ろうとする。
そのとき、鈴保が少し焦った声で志郎に話しかけた。
「……次の授業、私達体育だよね?」
「……あっ、やっべ!!急がねぇと!」
「最悪!これ着替える時間ある!?」
そう言いながら、2人は走りだす。
そして「じゃあまた後で!」と言いながら校舎内に飛び込んで、階段を駆け下りていった。
体操服持ってきてたのに忘れてたんだ……。
でも誰も指摘しなかったし、頭使って考えごとしたら忘れるか。
そして残ったのは3組の4人。
次の授業は……。
「日本史だっけ?」
「そうだな。普通に教室だから、遅れないように戻るか」
「だね〜」
佑希を先頭に由衣が続いて校舎内に戻っていく。
その後ろに私、そして真聡が続く。
こうして私達の昼休みを使った会議は終わった。
だけど、私達は大事なことを忘れていた。
へび座の意味深な発言について。
私も由衣も、多分真聡の頭からもすっかり抜け落ちていた。