第115話 必要ない
私達を襲ってくるへび座を、星鎧を纏った真聡がヒーローキックで吹き飛ばした。
そして私達の目の前に着地した真聡は、そのままへび座を見たまま「怪我は」と声をかけてきた。
私はすぐに「私は大丈夫。ありがとう」と返す。
メッセージ送れてなかったけど来てくれた。
送ってないから来てくれないと思ってたから、凄く驚いている。
でもひとまずは助かった。
そして真聡は「そうか」とだけ言って、完全に前を向いた。
「じゃあその2人を連れて跡地まで行け」
「そのつもり。あとお願い」
「……あぁ」
会話が終わったのと同時に、へび座が立ち上がりながら「山羊座まで来たよ。君もいつも邪魔ばかり」と呟いた。
「お前達を邪魔するのが俺の役目だからな」
「ほんっとうに邪魔。
……でも君にはこぎつね座が倒されてるんだよね。ならここで君も潰すか」
「やれるもんならやってみろ」
そう言って真聡とへび座の戦闘が、山際の住宅街の道路で始まった。
一方、私は傷だらけの射守を満琉と2人で両側から肩を貸そうとする。
しかし、射守は「離せ」と言いながら抵抗してくる。
「駄目。これ以上は怪我じゃ済まないから。陰星君が来たんだし、ここは逃げよ」
「化け物を倒すのが俺の使命だ。その戦いで命を落とすなら惜しくなどない……!」
そう言いながら射守は私達を振り解いて、立膝の状態で左手に弓を生成した。
右手はさっきとは別の腰につけた入れ物から、何かを取り出した。
今の……プレートじゃない?
そして射守はそのプレートを持った右手で弓を引いて、矢を放つ。
放たれた矢は1本だけ。
だけど、飛んでいく間に次々に分裂していく。
真聡のところに辿り着くころにはまるで、ガトリング砲のような弾幕に成っていた。
でもあの量でこのままだと、また真聡まで巻き込まれる。
そう思った私は咄嗟に「真聡!」と叫ぶ。
すると私の声を聞いた真聡はへび座の足元を凍らせた後、その場を離脱した。
そしてそのまま私達の前まで下がってぉた。
一方、分裂した矢を避けれずに受けたへび座は、言葉になってない怒りの声をあげている。
「両方、本っ当に僕の邪魔をするよね!!
いいよ、ここで喰い殺してやる!」
その叫び声と同時に、へび座の周りに黒い靄が集まり始める。
へび座は、また巨大な蛇の姿へと変わっていく。
その途中、羊の群れがへび座に向けて突撃した。
その突進を受けたへび座は呻き声をあげながら変身を中断した。
そして「牡羊座……早かったね」と呟いた。
「私だって、あのときよりは強くなってるから」
その言葉と別の路地から紺色と赤色の星鎧、白上 由衣が現れた。
そして由衣は真聡の隣、私達の前に移動してきてへび座と向かい合う。
「どいつもこいつも………本っ当に………!!!!」
凄い怒りが伝わってくる叫び声が、住宅街に響く。
物理的な影響は受けていないはず。
それなのに身体が重く感じ、油断したら押しつぶされてしまいそう。
同時に再び黒い靄がへび座に集まっていく。
だけど真聡も由衣も動けないみたい。
このままだと、またへび座は巨大なヘビになってしまう。
しかし、突然黒い靄と怒りは収まった。
そしてへび座は「…………やっぱりやめた」と呟いた。
「ここで焦って君達を潰しにいって、もし計画が失敗した方が腹が立つ。
もう僕の計画は最終段階なんだ。だから今日はこれで勘弁してあげるよ。
最後に「じゃあね」と言った後、へび座は黒い靄をこちらに流してきた。
それを真聡が風を起こして吹き飛ばす。
由衣は私達の前に出て私達を庇う。
数秒後、黒い靄が無くなったときには。既にへび座の姿はなかった。
すると、膝をついていた射守が3つ目の腰の袋のような入れ物からプレートを取り出すのが見えた。
そしてそのプレートを右の掌の上に乗せた。
……いくつプレートを持ってるの?
そんなことを考えながらも、射守の行動を見守る。
すると射守はしばらくそのプレートを見つめたあと、首を横に振った。
「何故逃がした……何故ここで倒さなかった……!!」
そう言いながら射守はプレートを元の袋に直して立ち上がる。
そして元の姿に戻った真聡と由衣に向かっていく。
だけど、怪我のせいかすぐに膝をついた。
真聡はそんな体勢の射守に視線を向けた後、静かに口を開いた。
「へび座の堕ち星は強い。俺1人では3人を庇いながら倒すのは厳しい。全員生きてるだけで良しとしろ」
「……やはり1人では何もできない弱者か」
また喧嘩売ってる。
だけど、真聡は冷静だった。
視線を逸らした後、「……何故そこまで強さにこだわる」と呟いた。
「人の世に仇なす怪物共を、1匹残らず倒す。そのために、俺は強くあらねばならない。俺に強さ以外のものは、必要ない」
「……でも私達は同じ力に選ばれて、同じ目的で戦ってるんだよ?
だったらさ、協力しようよ!」
由衣の元気な言葉が、戦いが終わった静かな道路に響く。
だけど数秒後、射守は静かに「……必要ない」と呟いた。
「俺は生まれたときからそう定められている。お前達のような後から選ばれた半端者とは違う」
吐き捨てるようにそう言った後、射守はおぼつかない足で立ち去っていった。
満琉が「ちょっと聖也!」と叫ぶ。
だけど射守は振り向かない。
そのままふらふらと歩いて、路地を曲がって消えていった。
その後、満琉は「……ごめんなさい。助けてもらったのに」と真聡に頭を下げた。
「……気にするな。これが俺の役目だ」
「……ありがとうございます。
今日は私もこれで失礼します」
その言葉の後、満琉は私と由衣の方を向いて「じゃあ2人共、また学校でね」と作ったような笑顔で言った。
「うん。また学校でね!」
「気を付けてね」
だけど満琉は私達の返事を聞く前に、射守が消えていった路地へと消えていった。
……真聡と射守って違うようで似てる、でもどこか違う気がする。
そんな事を考えていると、真聡が「で、由衣は何をしていた」と口を開いた。
「澱みを出されて……その澱みを倒してる間に、へび座に逃げられました……。
で、でも澱みはちゃんと全部倒してきたよ!」
「…そうか。……まぁ、よくやった。
……それと、智陽は無茶をするな。お前は戦えないんだ」
その言葉で私は、自分の行動を思い返す。
……確かにあれは無茶なことをした。結局、射守や真聡に助けられたし。
あんなこと、以前の私なら絶対しない行動だった。
……そう考えると私は真聡や由衣に影響を受けて変わり始めてるのかも。
「ごめん。ありがと」と返事をする。
そのまま私は、さっき持った疑問を真聡にぶつける。
「そういえば私、ちゃんと連絡できなかったと思うけど、何でここがわかったの?」
「連絡が来なくても近くで戦闘をしていたら気づく」
本当に気づくか少し疑問に思った。
でも私には特別な力はない。
星座に選ばれた人しか分からないこともある、そう思って気にしないことにした。
「で、2人とも。矢持 満琉と何をしていた」
「あ」
由衣のその呟きで、私と由衣の視線が合った。
そして由衣の口から「えっとぉ………それは………」と言葉が漏れる。
この後、もちろん私達はさっきまでの会話を全て話すことになった。