第112話 ひとりぼっち
「で、どっちから話す?」
「えっと………」
数分後。
私達が注文した飲み物が運ばれてきたのでちーちゃんが本題に入ろうとする。
ちなみに満琉ちゃんはコーヒー、ちーちゃんはカフェオレ、私はカフェモカを頼みました。
でも私はどっちかと言うと、メニューにあったチーズケーキがとても気になってしまった。
でも真面目な話をしに来たので、我慢我慢。
話を戻すと、できるなら満琉ちゃん達の話を先に聞きたい。
でもこの前の屋上や今日の昼休みとかで、私も怪しい印象を持たれてると思う。
だから私達の話をから先にした方がいい気がする。
でもやっぱり先に満琉ちゃんの話を聞きたい。
だって気になるんだもん。
そうぐるぐる考えていると満琉ちゃんが「……私から先に話すよ」と呟いた。
私は反射的に「え……いいの?」と聞き返す。
「うん。先に攻撃に巻き込んだのはこっちだから。
それにマイナスイメージから始まるのって大変だし。聖也も敵を増やしたいわけじゃないはずだから」
「じゃあ……お願いします……」
だけど私の言葉を最後に、テーブルには沈黙が訪れた。
マスターさんが店内に流しているクラシックだけが小さく聞こえる。
……満琉ちゃんから言葉が返ってこない。
どうしたんだろう。
少し不安になっていると、満琉ちゃんはようやく口を開いた。
「……何から話したら良い?」
「あ~……」
そう呟きながら、今度は私が固まってしまった。
でも確かにそうだよね。
話す人は聞く人が何を知りたいって思ってるかわからないもんね。
……そういえば最初にまー君に教えてもらったときも私が聞いたっけ。
とりあえず、私は聞きたいことを整理しながら口を開く。
「えっと……満琉ちゃんも戦えるの?それとも射守君だけ?」
「聖也だけだよ。私は戦えないけどついて回ってるだけ」
その言葉に、ちーちゃんが「やっぱりそうなんだ」と呟いた。
私もこの前の屋上のときからそんな気はしてた。
もし満琉ちゃんも戦えるなら、あそこでわかりそうだもん。
でも聞いてみないとわからないからさ。一応聞いてみたってやつ。
そして次に、私は左手の甲に使ってる認識阻害の術を解除する。
そのまま手の甲を満琉ちゃんの方に向けながら、「射守君の左手にもこんなのある……?」と聞いてみる。
「うん、あるよ。完全に同じってわけじゃないけど」
「それって……こんなの?」
そう言いながらちーちゃんはスマホをテーブルの上に出した。
その画面を見た満琉ちゃんは「そうそう。それだった」と返事をする。
気になったので私もスマホを覗いてみる。
すると、ちーちゃんが私の方に画面を向けてくれた。
映っていたのは、星座占いで見たことあるマーク。
そのマークの下には『射手座』と書いてある。
「……何でわかったの?」
「矢が撃てる星座って少ないから。それに今いるメンバーは全員黄道十二宮だから、射守君も黄道十二宮かなって。それでその中だと射手座しか当てはまらないから」
ちーちゃんのその推理に、私は「凄い…」としか言えなかった。
それと同時にやっぱりちーちゃんについて来てもらって正解だったと思った。
……いや、ちーちゃんの凄さに感動してる場合じゃないよね?
私は気を取り直して次の質問をする。
「満琉ちゃんは射守君がいつからその力を持ってるか知ってる?」
「う~ん……実は詳しいことは知らないんだよね。聞いても教えてくれないし。
でも聖也が『俺の役目』とか『一族の使命』とか言ってるから、私は生まれたときからかなぁ〜って思ってる」
「一族の……使命?」
私はそう呟きながら首を傾げる。
すると、ちーちゃんが「矢持さんはいつ知ったの?」と質問した。
「確か……小学4年生ぐらいのことかな?」
ちょっと頭の中が混乱してきた私は、情報を整理する。
まず、私は4月末に牡羊座に選んでもらった。
だからしろ君やすずちゃんよりも早い。
そんな私よりも先に選ばれてたのはまー君。
あとたぶんゆー君も。
その2人は……あれ?いつ選ばれたか聞いてないよね?
……今わからないことは置いておいて。
転校する前は普通だった。
だから少なくともまー君は中学生より後で、ゆー君も小学4年生よりは後のはず。
それなら…………え。
「射守君が1番最初!?」
「由衣、声が大きい」
ちーちゃんのその言葉に、私は「あっ……ごめん……」と謝る。
「それは今考えても仕方ないでしょ。戦いに直接関係するわけでもないし。
……私からも聞いて良い?」
「いいよ」
快く返事をしてくれた満琉ちゃん。
そしてちーちゃんは小さく息を吐いてから、口を開いた。
「矢持さんと射守君はどういう関係なの?」
私もそれは気になってた。
だって戦えないのに怪物と戦う人について回ってるんだよ?
……言葉にすると何か身に覚えがある気がする。
でもなんか……聞きづらくて聞けなかった。
だけど満琉ちゃんは「あ、それ聞いちゃう?」と返した。
……別に聞いちゃ駄目な話ではなさそうでよかった。
黙って安心していると、満琉ちゃんは「実は私、昔怪物に襲われてさ」と口を開いた。
「そのとき助けてくれたのが、聖也だったの。それがさっき言った小学4年生の頃。
あの時はたぶん……まだ力を使いこなせてないのに必死で助けてくれてさ。それがきっかけ」
「……その怪物って泥のようなやつ?それとももっとしっかりしたやつ?」
ちーちゃんがすかさず質問の言葉を口にした。
でも大事だよね。
だって怪物には人間じゃない澱みと、人間が成ってる堕ち星の2種類いるんだから。
……え。そもそも、そんな前から怪物いたの?
私が1人でグルグルしていると、満琉ちゃんは「泥みたいなほう」と答えてくれた。
「あの時は今ほど多くなくて、1体とか2体ぐらいだったけどね」
「そんな前からいたんだ……」
私の口から、気が付くとそんな言葉が出ていた。
私が初めて澱みを見たのはまー君に助けてもらった入学式の日。
あの後、スマホで調べたけど何もでなかったのは覚えてる。
でもそんな前から居るなら……何で私は知らなかったんだろ。
ずっとこの街で暮らしてるんだけどな……。
そう考えていると、ちーちゃんがまた質問していた。
「……話戻すね。でもその襲われたのと今ついて回ってるの、関係ない気がするけど」
「まぁ、それはきっかけだから。
その頃の聖也は……いや今もだけど、クラスから浮いてたんだよね。ずっと1人で本読んでるし、行事ごとにも消極的。休んでた日もあったかな。
私も最初は気にしてなかったんだけど、助けてもらってからはなんか気になってさ。
『だってあんなに必死でよくわからない怪物と戦ってるのに、ひとりぼっちっておかしくない?』って思ったんだよね。
だから助けてもらってからは、私から積極的に話しかけるようにしたんだ。
まぁ……あの頃も今も鬱陶しがられてるけどね。
で、今は弓道部のマネージャーをやってるってわけ。弓道はやってみたけど……私には無理だった」
「あはは……」という雰囲気で苦笑いを浮かべる満琉ちゃん。
一方私は、気が付くと「……なんかドラマみたい」と呟いていた。
……でもドラマみたいじゃない?
だけど、当事者としてはやっぱり違った。
「そう?襲われた方としては怖かったし嫌だったけどね……」
そう言われて、私はへび座に襲われたときのことを思い出した。
今は牡羊座に選ばれて戦えるからもう怖くない。
でも確かに、あの時は本当に死ぬかと思った。
……あのとき牡羊座が私を助けてくれなかったらと考えると少しゾッとする。
慌てて私は「ごめん」と謝る。
すると満琉ちゃんは「まぁ、終わったことだから」と言ってくれた。
私は「ありがと」と言ってから、質問を続ける。
「……冷たくされて嫌じゃないの?」
「う〜ん……あれでもだいぶマシになったんだよね。最初の頃なんて無視させれてたし……」
ちーちゃんの「えぇ……」という呟きが聞こえた。
うん。流石に無視は酷いと私も思う。
流石のまー君も無視はしなかったし。
……まー君はまー君で大変だったけど。
でも、満琉ちゃんはまた違うみたいだった。
「どっちかと言うと、聖也のお父さんの私への印象の方が嫌かな……」
「……どう思われてるの?」
「『息子について回る悪い虫』って言われたことがある」
「……嫌な父親」
ちーちゃんが吐き捨てるようにそう言った。
確かに……嫌だよね、その言葉は。
「ま、まぁ。その代わりにお母さんには優しくしてもらってるから」
「そっ……か……満琉ちゃんも大変なんだね……」
私がそう呟いた横で、何かちーちゃんが怖い顔をしているのが見えた。
でも気にしないことにした。
……怖いもん。
でも今の話を聞いて、射守君も射守君でとても大変で、苦しみながら戦っている。そんな気がした。
あと何かまー君と射守君、私と満琉ちゃんは似てる気がする。
だけどその考えは、同時に感じた疲労感と空腹感に押し流されてしまった。
私が色々考えていると満琉ちゃんが「こんなところ……かな?」と口を開いた。
ちーちゃんが「たぶん」といった後、「由衣は?」と私に聞いてくれた。
凄いピッタリすぎるタイミングで回ってきた発言権。
私は我慢するつもりだったけど、やっぱり我慢が出来なかった。
「えっと……質問はもうないんだけど……私達の話をする前に1つ……良いですか?」
「どうしたの?」
「……チーズケーキ、頼んでも良いですか」
私のその言葉を聞いた満琉ちゃんは少し固まった後、笑いだした。
でも隣のちーちゃんは呆れたような顔をしていたのは、言うまでもないよね。