第111話 話さない?
昼休み。
皆が思いも思いの時間を過ごしている、学校の自由時間。
そんな時間に、私は黒板に書かれた4限の授業の内容を消している。
今日の日直は私だからね。これは私の仕事だから。
あとちょっと消すの楽しいし。
そして、やっと消し終わった私は黒板消しを置く。
そして「さて、待ってくれるはずのみんなとお昼食〜べよ」と思いながら振り向く。
きっといつも通り、3人はまー君の席に集まって喋ってるはず。
しかし、そこには。
誰もいなかった。
まー君もゆー君もちーちゃんもいない。
……完全に置いていかれた。
ときどき私の扱いが酷いと思うんだ。
少し拗ねながらとりあえず鞄からお弁当を出す。
いっそのこと1人で食べようかな。
そう考えていると、「もしかして……置いていかれた?」と麻優ちゃんが話かけてきてくれた。
私は少し口を尖らせながら「多分」と返す。
「しかも何も言わずにだよ?酷いと思わない?」
「まぁ……ねぇ。でも無言でも由衣ちゃんが来ると思ってるってことじゃない?
それだけの強い信頼ってことだよ、きっと」
強い信頼……。
確かにまー君もちーちゃんも最初の頃よりは距離が近くなった。ゆー君は昔とそんなに変わらないし。
でもやっぱり何も言われず置いていかれるのは寂しい。
なので私は「それって……どうなの?良いことなの?」と麻優ちゃんに意見を求める。
「良いことだと思うよ?いいじゃん。言葉がなくても通じ合える友達って」
それは……そうかもだけど……。
……でも、まー君はまだ何か隠してる。それも大事なことを。
私にはそれが何かはわからない。
言葉がなくても通じ合えるって……なんだろう。
そう考えていた私は、麻優ちゃんの顔がどこか寂しそうだったのに、違和感を持てなかった。
……いや、そんな深い話よりもさ。
「……このままだと、ゆっくりお弁当を食べる時間が無くなっちゃう」
「由衣ちゃん、まだ食べてないもんね。私も途中だし……どうする?私達のとこ来る?」
そう言いながら、麻優ちゃんはお箸を持っていない左手で「おいでおいで」と手をひらひらさせてくれる。
そして麻優ちゃんの向こうには桜子ちゃん、佳奈ちゃん、乃々華ちゃんもいる。
どうやら今日も、4人でテーブルをくっつけて食べてるみたい。
そしてたぶんずっと聞かれたんだね……今の話……。
そんなことをちょっと思ったとき、桜子ちゃんが「そうじゃん」と口を開いた。
「置いて行かれたなら私達食べようよ」
「たまには由衣ちゃんも、私達と食べなよ~~」
「うん。最近、毎日陰星君達と行っちゃうし」
乃々華ちゃんと佳奈ちゃんも続いてそう言ってくれる。
凄く魅力的な誘い。
というかよく話す皆だし、1学期……特に4月は良くみんなと食べてた。
たまには麻優ちゃん達とも食べたい。凄く迷う。
でも今日は、置いていかれたことに文句を言いたいからまー君達を追いかけたいと思った。
なので私は「ごめん!」と口を開く。
「誘ってくれてありがと。でも文句も言いたいし、私やっぱり屋上でみんなと食べてくる!」
私はそう4人に言った後、教室を出る。
そして気持ち早歩きで廊下を進んで、屋上を目指す。
ここを曲がって階段を上れば屋上。
そう思いながら渡り廊下を渡って、廊下を曲がろうとしたとき。
いきなり目の前に人が現れた。
私は驚いて、反射的に数歩後ろに下がる。
なんとかぶつかりはしなかったけど危なかった……。
……いや、それより謝らないと。
私はドキドキしながらも頭を下げて「ごめんなさい!」と言葉を発する。
「私急いでて……ごめんなさい!」
「いやいや。私もちゃんと見てなかったから、お互い様だよ」
そう言われて頭を上げる。
そこで私は、ようやく相手の顔をちゃんと見た。
どこかで見覚えがある気が…………え。
「あ!矢持 満琉ちゃん!?」
そう。
矢を撃ってきて、澱みを一掃したあの射守 聖也君。
について回っていた女の子、矢持 満琉ちゃん。
そう言えばあの屋上のとき、満琉ちゃんが「鈴保ちゃんと高校も同じ」的なこと言ってた。
だからこうして学校で出会わない方が不思議だよね。
でも、私のこの反応は失敗だった。
「……どうして私の名前を知ってるの?
どこかで会ったことがあったっけ?」
満琉ちゃんは、怪しんでる声で私にそう聞いてきた。
……しまった。
名前を叫んでから思ったけど、屋上のとき私は最後まで星鎧を身に纏っていた。
もちろん私の名前は言ってない。
つまり、私は満琉ちゃんのことはわかる。でも満琉ちゃんは私のことわからない。
……どうしよう。何て言ったら私のことわかってもらえるかな……。
私は悩みながらも、「え……えっと……」と口を開く。
「砂山 鈴保ちゃんは知ってるよね……?」
「鈴保ちゃんの知り合い?
……鈴保ちゃんがあなたに私の話をしたの?」
……知り合いってだけでそこまで仲良くはないんだ、この感じ。
これは逆に怪しい人度が高くなってしまったかもしれない。
私は悩みながらも強硬手段に出る。
誰が聞いてるかわからない場所で、あんまりこういう話はしない方が良いとはわかってるけど……仕方ないよね。
だって、もし満琉ちゃんと仲良くなれたら聖也君も仲間になってくれるかもしれないもん。
「えっと……その…前に怪物と戦ったときに鎧人間と……」
「待って、何でそのこと知ってるの」
満琉ちゃんの声のトーンが一気に変わってしまった。
もう完全に私のことを怪しいと思ってる声。
嫌な汗が出てる気がするけど、私は挫けずに言葉を続ける。
「私その鎧人間で……ほら!聖也君と喧嘩になりそうな鎧人間を止めてた鎧人間のが私で……」
「……あの紺色と赤色の鎧があなたなの?」
「そうなの!私、白上 由衣っていいます!満琉ちゃんと同じ学年のはず!」
何とか私の自己紹介まで来れた。
ど……どうなるかな。
ひやひやしていると、満琉ちゃんは「鈴保ちゃん以外にも高校生がいたんだ……」と呟いた。
チャンスだと思った私はそこで、「……あの鎧人間、実は全員高校生でこの学校にいます」とさらに押してみる。
すると満琉ちゃんは「……え」と呟いた後、固まってしまった。
……とりあえず、私の怪しい人感は無くなったよね?
つまりそれなら……あとは約束をするだけ!
「えっと……もし良かったら……もっとちゃんと話さない?」
☆☆☆
その後、「流石に昼休みはお互い時間がないから放課後」ってことになって、私達は連絡先だけ交換して解散した。
ちなみにまー君達に無言で先に言ったことの文句を言ったら「言ったのにお前が返事をしなかった」って言われた。
つまり私が消すので夢中で聞こえてなかった……ってこと!?
それはさておき。私達は改めて放課後に集まった。
そして「場所はどうする?」と満琉ちゃんに聞くと「良い場所があるから着いてきて」と言われた。
という訳で私達は今、満琉ちゃんを先頭に住宅街を歩いている。
ちなみにちーちゃんも一緒です。私が呼びました。
そして私と満琉ちゃんの雑談が一段落したところで、ちーちゃんが「……結局」と呟いた。
「何で私は呼ばれたの」
「だって1人はちょっと……ちゃんと説明できるか怪しくて……」
「誘ったのは由衣なんでしょ」
確かにそう。
鋭すぎる正論に、私は「そうなんだけど……」としか返せない。
「というか、私じゃなくても良かったでしょ」
「だってしろ君とすずちゃんはそれぞれ用事があるでしょ。ゆー君もなんか無理らしいし、まー君を呼ぶのも……ちょっと……」
私だって一応、皆に今日の予定は聞いたうえでちーちゃんに頼んでるんだよ。
……まー君だけには聞いてないけど。
そして私の言葉を聞いたちーちゃんは「だから私……か」と呟いた。
「それに女子会みたいで良くない?」
私の返事に、ちーちゃんは「女子会……」と呟きながら顔を背けてしまった。
……ため息をつかれてる気がする。
というか呆れられてない?
そんな話をしていると、少しだけ前を歩いていた満琉ちゃんが振り返った。
そして「着いたよ」と教えてくれた。
目の前にあるのは、住宅街に馴染んでいるけど凄くおしゃれそうなカフェ。
凄く私が好きな感じかもしれない。
ところで……ここ私の家からそう遠くないんだけど。
こんなお店あったの、全く知らなかった。
そんな事を考えながら、先に入った満琉ちゃんに続いてお店の中に入る。
まず感じたのはコーヒーのいい香り。
店内は知る人ぞ知るって感じの凄くお洒落な雰囲気。
ただ……私1人だと入りづらいって思ったかも。
満琉ちゃんはお店の人と話してる。
マスターって言った方が良いのかな?年齢は40代……?以上の男性。
話してる感じ……満琉ちゃんは常連さんなのかな?
そして、私達は1番奥の席に案内された。
とりあえず私達は席について鞄を置く。
私は満琉ちゃんの向かい、ちーちゃんの隣に座った。
そして、最初にちーちゃんが私が思っていたことを聞いてくれた。
「ここは良く来るの?」
「うん。たまにだけどね。お父さんも私もここのコーヒーが好きでさ。
あと……常連さんぐらいしか来ないから、秘密の話をするにはちょうどいいかなって」
確かに店内を見渡すと、夕方にしてはお店の中にお客さんが少ない。
というかほとんどいない。
満琉ちゃんがここを選んだ理由も納得。
でも私……何も入れないコーヒーは苦手なんだよね……。
そう思いながらも、私はちーちゃんと2人で満琉ちゃんが渡してくれたメニュー表に目を通し始めた。




