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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
第1章 1年生  1節 再会
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第011話 俺の過ち

「やれるもんならやってみろ。逆にここでお前を倒す」 

「ふ~ん。ま、楽しませてよね」


 堕ち星が距離を詰めてくる。



 勝てるかはわからない。

 ハッタリでも何でもいい。俺はやらなければならない。



 俺が戦わないと誰が戦うんだ。



 まずは様子見として追尾魔弾で迎え撃つ。

 堕ち星はそれを手で払い除けて消滅させた。


 ……これは不味いかもしれない。


 ひとまず横に移動して距離を取る。堕ち星は追いかけてくる。


 俺は地面を杖先で1度だけ叩いて土壁を出し、更に距離を取る。

 すると、堕ち星は土壁の上に立った。


 ひたすら距離を詰めようとしてくる。

 ……ということは遠距離攻撃手段はないのか?

 そんな疑問を堕ち星に投げる。


「お前、ただのへび座か?」

「正解。やけに逃げるね?そんなに毒が怖い?」


 怖いに決まってるだろ。

 神遺しんいの力で生み出された毒なんて、碌なものでないことは間違いない。

 毒を入れられたら死ぬと思ったほうがいいだろう。

 ならばやはり、近距離は避けて中距離で戦う方がいいだろう。


 その一方でうみへび座でないことに一安心する。

 しかし、へび座もトレミーの48星座ではあるため油断はできない。

 すぐに決着をつけた方がよさそうだ。


 確か……蛇は急激な温度変化が苦手なはず。

 だが、一気に焼き切るためには詠唱をする必要がある。


 俺は魔術を使ってへび座との距離を保ちながら、使えるものがないか辺りを見回す。

 すると駐車場の斜面の下の林が視界に入った。


 ……林を利用するか。

 俺は走って移動して、斜面の下に飛び降りる。

 へび座も俺を追って飛び降りてきているようだ。


 簡単に俺を見失ってくれれば楽なのだが、そうもいかないだろう。

 ある程度の消耗は覚悟したほうが良さそうだ。

 俺は走りながら、ひたすら土壁を生成しながら追尾魔弾を撃つ。



 それを繰り返しながら走り回って数分後。林にへび座の声が響いた。


「大口を叩いた割には逃げてばかりじゃない?」


 時間と星力は使ったが、どうやら見失ってくれたようだ。

 ならば次の段階だ。


 俺は木の枝に飛び乗り、さっき飛び降りた斜面の下を目指す。

 そして木の枝を飛び移りながら言葉を紡ぐ。


「草木よ。この星に循環をもたらす草木よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、澱みに塗れ堕ちた星となりしヘビの座を」


 詠唱が完了する直前で止める。

 同時に斜面の下に到着する。


 へび座も枝を飛び移る俺の姿を見たのか、こちらに来ている音がする。


 そして、土壁の向こうからへび座が飛び出してきた。

 俺は最後の言葉を紡ぐ。


「縛る枷となり給え」


 へび座は周囲の地面から飛び出してきた根に縛られた。



 周りにあるものを使う魔術は基本的に対象に手を当てて言葉を紡ぐ。

 しかし、準備を整えてからでははえ座のときのように詠唱からの発動が間に合わない可能性がある。

 だから俺は詠唱効果を維持できるように調整を行っていた。その成果が出たようで何よりだ。



 そしてここまでは上手く行った。後は上を取るだけだ。

 俺は斜面を駆け上りながら言葉を紡ぐ。


「火よ。人類の文明の象徴たる火よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、澱みに塗れ堕ちた星となりしへびの座を浄化する炎となり給え」


 斜面を登りきり、駐車場に戻ると同時に詠唱が終わった。

 振り返って斜面下にいるへび座に向けて杖を構え、杖先から炎を放つ。


 炎は杖先から直線上に伸び、へび座を飲み込んだ。

 その勢いは林を焼き尽くしてしまう勢いだ。


 実際には対象を指定したため、焼き尽くすことはないが流石は詠唱魔術。

 炎が通った場所は少し黒く焦げていた。


 そして肝心のへび座は焼け跡に見当たらない。

 どうやら無事に倒せたようだ。


 ……しかし、こんなにも跡形もなく焼けるだろうか? 

 俺は嫌な予感がして少し見構える。



 その嫌な予感は的中してしまった。



 後ろで何かが砕ける音がした。

 その音を聞いた俺は振り返りながら、咄嗟に全身に星力を巡らせ衝撃に備える。



 次の瞬間。へび座の手が俺の首にかかっていた。



「やっと隙が出来たね。

 それにしても……焦ったよ。まともにあの炎を喰らっていたら僕の負けだっただろうね」


 何が起きた?へび座は確かに焼いたはずだ。なのになぜ無事なんだ?

 俺は1つの可能性にたどり着く。


「もしや……」

「そう!君が木の根で縛ってくれたおかげで脱出が出来たんだよ!その後は地面に潜ってこの通りって訳さ」


 草や木は燃える。当たり前の事だ。

 炎が当たればその時点で勝ちだと思っていた俺の失敗だ。

 まさか拘束した根が燃え尽きるまで耐えられて、土の中に逃げられるとは思ってもいなかった。



 ここからどうする。



 どうすれば逆転できる。



 考えろ。



 次の瞬間。俺の身を纏う山羊座の鎧が消滅した。


「何でだ……!?」

「毒だよ。今、僕の手からは毒が流れているからね。

 それが君のその鎧を超えて、君の身体に届いたんだよ」


 なるほどな。

 少量だったため、気づかなかったが首を掴んでいるこの手から毒が注がれている。

 耐毒魔術を使っていたから、直接的影響はない。


 だが、戦闘で詠唱魔術を4回。なりふり構わず魔術を使いすぎた。


 つまり今の俺には耐毒魔術を使いながら、星鎧を維持できる星力は俺にはもう残っていないようだ。


 「さて……一思いに首を絞めるか、このまま君が毒で死ぬまで待つか。どっちがいい?選ばせてあげるよ」

 「ふざけるな……。どっちもごめんだ……」


 言い返したが、残念ながらもう選ぶ権利すらない。


 星鎧を生成するほどの星力はもうない。

 反撃のための魔術を撃つと耐毒魔術が維持できなくなり毒で死ぬ。



 控えめに言わなくても詰んでいる。



 諦めかけていたそのとき、俺の身体は凄い勢いで投げられた。



 そして身体中に響く強い衝撃。

 どうやら駐車場のコンクリート斜面に激突したらしい。



 何が起きた?なんで投げられた?

 状況が理解できない。


 しかし、へび座から離れれたということは、これ以上毒を入れられることはないということ。

 ひとまずは助かったのか?


 そこに、へび座の声が聞こえてくる。

 

「気が変わった。山羊座、今から君にとびきりの嫌がらせをすることにするよ」


 どういうことだ?

 今の状況を探るために動かないが身体を無理やり転がって、視界に入る場所を変える。


 へび座は駐車場出入り口脇にある茂みに向かって歩いている。

 そしてその茂みに手を伸ばし、何かを掴んだ。



 それは、見覚えしかない顔。

 白上しらかみ 由衣ゆいだった。



 へび座は由衣の首を掴んで持ち上げる。

 由衣の身体は宙に浮いている。


 何でいる。バスはとっくにこの場を離れているのに。

 ……まさかあいつ、乗らなかったのか?


 「哀れだねぇ。山羊座が心配だったのかい?」

 「離して!」

 「その軽率な行動のせいで君は今から人間じゃなくなる」


 そんな会話が聞こえた後。へび座の体から黒い靄のようなものが溢れ始める。

 あれは……澱みだ。


 由衣は必死に足をばたつかせて抵抗している。

 「離して!」という声が虚しく響く。



 へび座は由衣を澱みで汚染するつもりだ。



 もしかして、堕ち星とは人間が澱みを必要以上に取り込むとなる姿なのか?



 ……もし、由衣が堕ち星に成ったら。

 俺は、由衣を倒さなければならない。



 約半年前の出来事が、またフラッシュバックする。


 天秤座の堕ち星と化した、友人と戦い、地の底送ったあの日のことを。



 まただ。



 また俺は大切な友人を失う。



 こうなるから嫌だったんだ。



 だから2人を突き放したんだ。



 拒絶したんだ。



 関わって欲しくなかったんだ。



 それは、今更関わりたくないからではない。



 生きる世界が違うとはいえ、大切な友達だから。



 俺から突き放すことで澱みや堕ち星から守れると思った。




 ……本当にそうか?

 今までの俺の選択は正しかったのか?



 頭の中に走馬灯のように、小学校の頃の記憶が駆け巡る。



 違う。俺は間違っていた。

 由衣はどれだけ言っても聞かない性格だった。



 それなら、最初から全てを話して納得させるべきだった。

 「危ないから」と言って聞かせるべきだった。



 いや、これは忘れていたんじゃない。

 意図的に見て見ぬふりをしていたんだ。


 小学校の(あの)頃を思い出すと、懐かしくなると思ったからだ。



 また、2人と仲良くしたいと思ってしまうから。

 でも大事な友達だから巻き込みたくはなかった。



 失いたくなかった。



 危険なことから遠ざけたかった。



 これは俺の意地のせいだ。



 これは俺の過ちだ。



 由衣が黒い靄に包まれ、見えなくなる。



「さぁ!君の本音、聞かせてみろ」



 身体は動かない。

 毒が身体に入ることは防げたが、星力はもう残っていなかった。


 今の俺は普通の高校生と大差なかった。



 あの日からずっと戦うことだけ考え、鍛えてきた。

 その他のことは全て二の次にして。



 だけど、結局俺は何もできない。無力だ。



 あの頃と何も変わっていない。



 大切な友達1人すら守ることすらできない。



 俺は、怒りと悲しみと後悔で言葉にならない叫び声をあげることしかできなかった。

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