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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
7節 新たな出会い
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第103話 幻覚

 翌日。

 こぎつね座の堕ち星が現れたという情報を受けて、俺は走ってその場所へ向かった。


 現場は駅近くの広場で、またもや男子中学生が襲われている。


 ……こぎつね座と共に窃盗をしていたメンバーだろうか。


 しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。

 俺は足に魔力を集中させて地面を踏み切り、すり鉢状の広場に向かって飛び降りる。


 そして着地と同時にまた走り出し、2人の間に滑り込む。


 こぎつね座の手は既に振り下ろされている。


 俺はすぐに左手で地面に触れて、「土よ。壁となれ!」と言葉を紡ぐ。


 すると目の前に土の壁が現れ、こぎつね座の手を弾いた。

 痛かったのか、こぎつね座はそのまま手を抑えながら後ろに下がる。


 俺はその隙に襲われていた生徒に「逃げるぞ」と声をかけながら、広場の階段を駆け上がる。同時に周りの野次馬にも「早く逃げろ」と声をかけながら。


 しかし、後ろから「だから逃げるなって!」という声と同時に地面を踏み切る音がした。


 やはり、堕ち星は普通の人間よりも身体能力が高い。

 生身で逃げ切るのは不可能のようだ。


 一般人を連れて逃げているならなおさら。


 こぎつね座恐らく飛びかかってきている。


 ……どう避ける。



 そこまで思考したとき。

 「目を閉じろ!」との叫び声が聞こえた。



 俺は目を閉じるのと同時に、男子中学生の目を手で覆う。


 その数秒後。

 目を閉じていても眩しく感じるほどの光が炸裂した。



 さらに数秒後。

 その光が収まってから目を開ける。


 そして広場の階段の上に視線を向けると、そこには佑希ゆうき由衣ゆいがいた。

 そのまま2人は降りてきて、佑希が「危なかったな」と声をかけてきた。


 俺は「悪い。助かった」と言葉を返す。

 そして、男子中学生の背中を押して「早く逃げろ」と送り出す。


 すると由衣は振り返り、走っていく男子中学生に「できるだけ遠くだよ~!」と言葉を投げた。


 その後、こちらを向いた由衣は明らかに怒っている表情だった。


「まー君!自分で『堕ち星とは1人で戦うな』って言ってたのに、自分で言ったことを守らないでどうするの!」

「……俺は別だ」

「別って何!?私にしたらまー君だって同じ。変わらない!」


 由衣の言葉に反論しようとしたとき。佑希が「ストップ」と言いながら俺の肩を叩いた。

 佑希のその手は、そのまま俺の後ろを指さしている。


 振り返ると、こぎつね座が目を抑えながらも立ち上がっていた。


 ……そうだ。今は言い合いをしてる場合ではない。


「……苦情なら後で聞く。やるぞ」

「はぁい」「あぁ」


 その言葉を合図に、俺達はギアを喚び出す。


 そして佑希は時計の2時の箇所に手を掲げ、プレートを生成してギアに差し込む。

 その後、もう1度左手を同じ箇所にを掲げ、時計回りに左手を1周させた。

 左手が1周するのと同時に、左腕と右腕が胸の前でクロスになる形で右手を時計の10時の場所に掲げる。


 俺と由衣も同じタイミングでギアにプレートを差し込み、いつもの手順を取って構える。


「「「星鎧生装」!」」


 3人の声が重なり、その姿はそれぞれ紺色の光に包まれる。

 その光で俺達は、星座の力を宿す鎧を身に纏う。



 そして、光は晴れる。



「前衛2人が来るまで俺が前衛をする」


 俺はそう言って、下の広場にいるこぎつね座に向かって飛び降りる。

 由衣が何か言ってるが気にしてる暇はない。


 俺は飛び降りた勢いそのまま、こぎつね座に落下蹴りを叩き込む。


 しかし、その攻撃は腕で防がれた。


 だがこぎつね座は蹴りを受けた勢いで後ろに下がった。

 俺はその隙に広場に着地をする。


 さらに俺はその勢いのまま地面を蹴って、距離を詰める。 


 そしてぶつかり合う拳。

 俺は爪があるこぎつね座の攻撃を受け流し、拳を打ち込む。


 今も定期的に空手の指導をしてくれる大牙たいがさんのおかげで、近接戦闘の技術は上がってる実感はある。

 ただ、近接戦闘は詠唱で魔術の力の底上げをしている暇が無い。なので残念ながら俺の特技と相性は悪い。


 そして、動きに隙を見つけた俺はこぎつね座の腹に渾身の一撃を叩き込む。


 こぎつね座はその一撃を受け、また後退る。

 そこに後ろから半透明の羊が2匹、俺の隣を駆け抜けていく。


 その2匹はこぎつね座に激突して消えた。

 由衣の援護だ。


 ……このまま押し切れると楽なんだが。


 そう思ったとき、こぎつね座が「だから……邪魔するなって言ってるじゃん!」と叫んだ。


 そしてその叫びと同時にまたこぎつね座の姿が揺らぎ、こぎつね座が4体に増えた。


 しかし、こちらだって無策なわけじゃない。


「もうその手も効かない」


 その声と共に今度は後ろからカードが飛んできて、4体のこぎつね座の目の前で爆発した。



 しかし、分身は消えなかった。



 「え……何で!?」と由衣の驚く声が広場に響く。


「さっきはやられたけど、もうそれぐらいじゃ驚かいない!」


 その叫び後を合図に、4体のこぎつね座が一斉に俺に襲いかかってきた。


 ……面倒なことになった。


 そう思いながらも、俺はなんとか攻撃を避ける。

 しかし、流石に4体同時はキツい。


 そのとき、俺のすぐ後ろで爆発が起きた。

 同時に羊がまた2体突っ込んでくる。


 その隙に俺は後ろに下がると、後ろに居た2人が駆け寄って来ていた。


「消えてないよ!?」

「だな。そうなると……真聡の攻撃も怪しいよな」


 2人のその言葉に、俺は「あぁ」とだけ返す。


 不意打ちが初回しか効かなかったように、流石に他で驚かせるのも耐性が着いてくるか。

 ……こうなると別の手段を考えないといけない。


 しかし、こぎつね座も待ってはくれない。

 また4体のこぎつね座が同時に俺達に襲いかかってきた。


 俺達は散開して、その初撃を回避する。


 佑希と由衣にはそれぞれ1体ずつこぎつね座が行った。


 そしてどうやら俺には2体がかりらしい。

 俺は拳や蹴りを避けながら、反撃の隙を窺う。


 1番強いやつを優先的に潰そうという考えだろうか。理にはかなっている。

 だがやられる側としては勘弁してほしい。



 だが、打開のチャンスはすぐに訪れた。



 突然聞こえてきた「こいつは任せろ!」という叫び声と共に、橙色の鎧が飛び込んできた。

 そしてそのままこぎつね座を1体連れて行った。


 同時にもう1体も、現れた深紅の鎧の槍による一突きで後ろに下がった。

 志郎しろう鈴保すずほの前衛組がようやく到着した。


 残った1体のこぎつね座と2人で睨み合う。

 すると鈴保が「で」と言葉を投げてきた。


「何で分身消えてないの」

「佑希の爆発するカードが効かなかった。俺の水も効かない可能性がある」


 そう伝えた瞬間、こぎつね座が飛び掛かって来た。

 俺と鈴保は攻撃を避け、反撃しながら話を続ける。


「マジ?」

「マジだ」

「他に手はないの」

「……奥の手なら、1つある」


 そう返したとき、鈴保が槍の払いでこぎつね座を突き飛ばした。

 そして「何。使いたくないの?」と聞いてきた。


「……時間がかかるんだ」

「だったらこいつ抑えておくから。早く!」


 そう言って、鈴保はこぎつね座に追撃をかけに行った。


 ……ここまでしてもらったならやるしかない。


 俺は覚悟を決めて杖を生成し、言葉を紡ぐ。


「電流よ。人類に発展を与えし電流よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、澱みに塗れ、堕ちた星と成りしこぎつねの座を焼き尽くし給え!」


 杖先に黄色い魔法陣が現れる。

 そして俺は「全員伏せろ!」と叫びながら、両手で持った杖を掲げる。


 すると杖先の魔法陣から電流が迸り、周囲に広がっていく。


 その電流は反応が遅れた4体のこぎつね座に命中した。

 一方、4人は俺の指示でちゃんと伏せるなり距離を取るなりしていたようで、何とか避けれたらしい。



 そして電流が消えた後。

 こぎつね座は3体の分身が消えたようで、本体であろう地面に転がる1体だけが残った。


 そして本物は「何だよ……今の……」と呟きながらよろよろと立ち上がる。


「隠し玉だ。諦めろ」

「何でだよ…………俺が『助けて』って言っても、誰も助けてくれなかったのにさぁ!

 何で俺が自分で自由にできる力を得たらさ!!!!邪魔が入るんだよ!!!!」


 その瞬間、こぎつね座から黒い何かが溢れ出した。



 澱みか?



 しかしその黒い何かは、周囲に広がっていく。

 駅前広場はまだ夏の夕方なのに、冬の夜のように冷たく、暗くなっていく。



 ……どうやら俺は根本的に間違っていたようだ。



 こぎつね座の能力は分身なんかじゃない。



 幻覚だ。



 つまりあの分身は実体のある幻覚。


 つまり防犯カメラに姿が映っていなかったり複数映っていたのは、その幻覚が機械にまで影響したということになるだろう。


 ……いや、共犯者の男子中学生をも堕ち星に見せかけていたのかもしれない。


 もちろん「そんな事出来るのか」という疑問はある。

 だが星座の力は神遺の力。魔術や魔法の常識を超えてくる。機械の認識さえも完全に捻じ曲げてしまう幻覚が使えても不思議ではない。



 危険を感じた俺は、急いでとりあえず魔力と星力で脳と五感を守ろうとする。



 しかし、神遺の幻覚。

 いくら俺が同じ神遺保持者で、山羊座の力があろうとも。




 俺のような駆け出し魔術師に、そこまで完璧な対策を反射的にはとれなかった。




 そして次の瞬間。

 俺の視界と意識は漆黒の闇に堕ちた。

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