第102話 締まりのない
「では、みんな揃ったし。作戦会議を始めます!」
由衣の元気な宣言が俺の部屋に響く。
そんなご機嫌な由衣に、俺は「何でお前が仕切る」と言葉を投げる。
「だって!こういうのってやってみたくない!?」
「わかる」「だよな!」
向かいのソファーに座っている智陽と志郎がそんなことを言った。
そして由衣は2人に「でしょ~!」と嬉しそうに言葉を返している。
俺の口からは、思わずため息が漏れる。
……前にもこんなやり取りをしたよな。
そう思っていると、由衣を挟んで向こうに座っている佑希の「真聡も大変だな」という声が聞こえてきた。
しかし、その顔を見ると少し笑っている。
……笑ってんじゃねぇ。
ビルの間の細道での戦闘から数日後。
ようやく全員の予定が合う日ができたので、俺は佑希を含めた5人を家に集めて作戦会議を開くことにした。
まず最初に俺は超常事件捜査班から聞いた話。
防犯カメラに堕ち星に変わる瞬間が映っていたらしく、正体が分かったそうだ。
いつの間にか話が逸れて、雑談に移りかけているメンバーに俺は「話戻すぞ」と言葉を投げる。
「まず、堕ち星の正体は森住 晶、中学3年生だ。」
「嘘、年下!?」「マジか……」
由衣と志郎の驚く声が聞こえてくる。
俺も最初に聞いたときは驚いた。
だが、いちいち驚いていると話が進まない。
しかし、そこに向かいのソファーの鈴保が「……堕ち星って勝手になるものなの?」と聞いてきた。
「……いや、恐らくそれは違う。
俺の推測だがへび座の堕ち星が何かしら関わっていると思う。確信はないが」
するとその言葉に続いて、由衣と志郎が鈴保に何かを話し始めた。
だがまぁ、恐らく鈴保が蠍座に選ばれる前の話だろう。
俺は気にせず話を進める。
「行動理由は恐らく恨みによるものだろう。
どうやら窃盗については、最初の被害者を含めた複数の生徒と共謀してやってたらしい」
「じゃあやっぱり、堕ち星の力を使って物を盗んでたってこと?」
由衣のその言葉に俺は「多分な」と返す。
「だが、防犯カメラの映像や目撃情報が事件の件数に対して少ないのが気になる」
「気になると言えば、戦っているときは分身しか使ってこないよな」
佑希のその言葉に、部屋の中に共感の声が上がる。
俺も「あぁ、確かにな」と言葉を返す。
使って来るかもしれない手よりも、現在使われている手を考えた方が良い。
俺はそう思い「分身の対処を優先して考えるか」と言葉を発する。
すると由衣が「分身……」と口を開いた。
「まー君の水の攻撃では消えたよね?」
「私と……あと志郎の攻撃だと、最初の不意を突いたときだけ消えたよね」
アウトレットモールでの戦闘の話だな。
水で消えたのはビルの間の細道での戦闘でもそうだった。
そして鈴保の言葉は、俺が到着する前のことだろう。
……そういえば、アウトレットモールは爆発音の後にも消えたよな。そして、ビルの間の細道では閃光の後にも消えていた。
つまり……。
俺がそこまで思考したとき。佑希が「あとは、俺の攻撃でも消えたな」と呟いた。
「ゆー君、何か爆発させてたよね?」
由衣の言葉に続いて俺は「閃光弾のようなものも使えるんだろ」と疑問を投げる。
「あぁ、あれはな」
佑希はそう言いながら、左腕をテーブルの上に出した。
そして少し左手を右に傾けて真上に戻す。
すると、その左手にはカードが握られていた。
俺と佑希以外の4人は、それぞれ驚きの声を上げる。
そして代表するかのように、由衣が「……手品?」と呟いた。
その言葉に、俺は「星力をカードにしてるんだろ」と返す。
すると佑希が「真聡の言う通り」と答えた。
「俺は星力で作ったカードを投げて、爆発させたり光らせたりしてるんだ」
そう言いながら、佑希はカードを消滅させた。
そして志郎が呟いた「すげぇな……」という言葉に、佑希「それほどでもない」と返した。
星力の塊だから、操れるなら爆発も発光も容易いのだろう。
……いや、そもそもこれは模倣魔術なのかもしれないが。
俺がそう考えていると、由衣が「何でカードなの?」と聞いた。
「それは……俺が手品を習ってたからだな。
引っ越した後だから、2人は知らないよ」
「……年賀状に書いてなかった?」
「あぁ……佐希が書いてたかもな」
佑希のその言葉に由衣が「ほら~!」と言ってくる。
そう言えば、そんな年賀状もあった気がする。
……だがそれも、この街を出たときに処分されただろう。
それよりも、話を進めるべきだ。
俺は隣で主張してくる由衣を無視して「つまり」と口を開く。
「俺と佑希ならやつの分身を《《確実に》》消すことができる。ということだな」
「でもさ……2人の攻撃だと分身は消えるの?
しろ君とすずちゃんの最初来てくれた時も消えたよね?」
そう言われると……考えたことがなかった。
俺が水魔術を使ったのは、広範囲を攻撃するには1番楽だからだ。
だが、他の状況も踏まえて《《なぜ消えるのか》》と考えると……。
悩んでいると、ずっと黙っていた智陽がスマホからこちらに視線を向けた。
そして「驚かせたら消える……ってことじゃない?」と言ってきた。
「爆発も、閃光も。あと鈴保と志郎の不意打ちも、驚かせるということが共通してると思う」
「じゃあ水は?」
「狐は水が得意でじゃないみたい」
智陽がスマホを見ながらも、スルスルと由衣の質問に答えていく。
そして由衣も引き続き質問をしていく。
「……何でその2つで消えるの?というか何で分身できるの?」
「狐が人を化かすって話あるでしょ」
「……そうなの?」
由衣が首を傾げながらそう呟いた。
智陽はテンポが崩れたようで、微妙な顔をしている。
俺は由衣に「そこで詰まるな」と言ってから、智陽に「続けてくれ」と続きを頼む。
「それで。狐が人を化かしているときって、驚かせたら逃げれるみたい。
だから苦手なもの、刺激が強いものとかで攻撃されたら、驚いて分身が消えるんじゃない?まぁこれは狐に化かさたときの話だけど」
「ちーちゃん、すっごい……」
「今調べただけ」
どうやら智陽はずっとスマホで狐について調べていたらしい。
通りで会話に入ってこないわけだ。
……そして由衣はそんなに感動するほどのことか?
そんな感想を抱いていると、鈴保が「つまり」と口を開いた。
「真聡と佑希は自由に動けたほうが良いよね」
「そうだな。あと前衛と後衛で分けるなら由衣も後衛のほうが助かる」
俺のその言葉に、由衣は「私は前でも良いよ?」と言って来た。
「お前の武器と能力だと後ろの方が楽だろ」
「……そだね」
まるで「忘れてました」と言わんばかりにそう言って、由衣は俺から目を逸らした。
まったく。由衣はいつも感情だけで話して動く。
呆れていると、今度は志郎が「つまり」と口を開いた。
「俺と鈴保のパワー組は前ということだな!」
「前なのはいいけど、その変な名前やめてくれない?」
「何でだよ〜。コンビ名あったほうが気持ちの入り方が違うだろ?」
志郎の言葉に、鈴保は右手を振りながら「いやどうでもいいし」と返した。
……右隣は志郎なんだがな。
しかし、鈴保の言葉は続く。
「それに私は一応頭脳派だから。私は力で何でも解決しない」
「いやそうは言ってないだろ!?」
志郎の突っ込みで由衣と智陽が笑いだした。
そして志郎と鈴保はまだ言い争いをしている。
こんな締まりのない作戦会議で大丈夫なのだろうか。
俺はこの光景を見て、そんな不安を覚えた。