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Constellation Knight 〜私達の星春〜  作者: Remi
第1章 1年生  1節 再会
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第010話 逃げる

 「あのさ、今日楽しかったんだ、私。だからまー君もまた……一緒に……」


 由衣ゆいが俯きながら、呟くように言葉を投げてくる。


 彼女はきっと、たくさんの言いたいことを我慢してこの言葉を選んだのだろう。

 どれだけ俺が突き放そうとも、彼女は諦めず心配してくれる。


 友達だと言ってくれる。


 普通なら「いい友達だね。大切にしなよ」となるだろう。



 しかし、今の俺には《《いい友達》》である彼女が嫌だった。



 これ以上、言葉をかわすと自分の中のなにかが壊れる気がした。


 故に、俺はその言葉を最後まで聞きたくなかった。

 だから、俺は彼女から逃げることを選んだ。



 俺は小声で自分に認識阻害の詠唱魔術をかける。


 これで彼女をはじめ、他人から俺の姿が認識できなくなったはずだ。

 まず俺はしゃがんで左手を地面につき、言葉を紡ぐ。


「土よ。生命に安寧を与える土よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、人々を澱みから守る土壁となり給え」


 すると、左手の下に茶色の魔法陣が現れる。

 そして、ここにいる星芒高校1年生と引率教員が土壁で囲われた。


 流石にこのサイズを出して維持するのは辛い。

 だが、今はそんな事を言っている場合ではない。


 次に俺はバスがある方向に跳躍し、土壁の上に着地する。

 そしてギアを呼び出してプレートを差し込み、いつもの手順で左腕で目を隠す。


「星鎧生装」


 俺の身体は光りに包まれ、星座の力を宿した鎧を身に纏う。

 そして杖を呼び出して、言葉を紡ぐ。


「火よ。人類の文明の象徴たる火よ。今、その大いなる力を我に分け与え給え。今、ここに現れ、人々に害をなそうとする澱みを全て焼き尽くす炎となり給え」


 杖先にはいつもより少し大きな赤い魔法陣。

 対象を指定することで、威力を上げた。

 その分、星力の消費も増えるが今は全員を逃がすことが先決だ。


 俺は杖先を澱みに向けて、炎を放つ。

 瞬く間に澱みは消滅していく。


 次に自分を中心に土壁の左右2箇所を杖先で指定して、その場を離れる。

 そして指定した箇所の間の土壁を消滅させる。


 これでバスまでの道は開けた。

 あとは全員がバスに逃げ込み、ここを離れれば一件落着だ。

 その間に俺は少しでも澱みを減らさなければ。


 俺は杖を消滅させて、澱みの群れの中に降り立つ。


 杖がある方が魔術を使うときには色々と楽だが、杖がなくても使えないわけではない。

 それに、この量なら打撃で直接戦ったほうが速い。

 俺は澱みを殴り、蹴り、魔術を飛ばして消滅させていく。



 だが、聞こえてくるのは戸惑う声ばかり。

 移動しようとする話は聞こえてこない。


 「なぜ誰も動かない?」そう思っていたとき。

 「みんな!バスまで逃げよう!」と叫ぶ声が聞こえた。


 由衣の声だ。

 その声で徐々に動き出す生徒たち。


 俺は一安心する。

 全員を守り切るなんて無理なので、さっさと逃げてくれた方がこちらも助かる。


 澱みに目を向けると、まだかなりの量がいる。

 俺は気合いを入れなおし、倒す速度を上げる。



 しばらくするとバスのエンジン音が遠のいていくが聞こえた。

 どうやらバスはここを去ったらしい。


 それとほぼ同時に最後の澱みを消滅させる。

 澱みに囲まれたときは焦ったが、なんとかなった。


 俺は息を一つ吐き、力を抜く。


 しかし、なぜこんなところに澱みが大量に出たのだろうか。バスを降りたときには何もないと思っていたが。


 余裕が出来たので眼の前のこと以外を考えていた次の瞬間。



 悍ましい気配を感じた。



 堕ち星の気配だが、今までのよりも遥かに黒くて強い。


 俺が気配の主を見つけるのよりも早く、声が聞こえてきた。


「あの人数を守りながら、あの量の澱みを倒してしまうなんて。流石だね」

「何者だ、お前。何が目的だ」

「質問は1つずつだよ。それに、簡単に僕のことを話してしまったらつまらないだでしょ?山羊座」


 ……そう簡単に聞き出せるわけはないか。


 俺は声がする方に視線を向ける。

 聞き出せないなら見てわかることから少しでも情報を得なければ。


 全身が黒い異形。堕ち星であることは違いないだろう。

 しかし、ここまでしっかりと会話できるやつとは天秤あいつ以来だ。


 ……いや、そこは今考えても時間の無駄だ。

 今するべきことはやつが使っている星座を見抜くことだ。


 体表は鱗に覆われていて、尻尾のような物も見える。へび系の星座かりゅう座辺りか?

 だが、りゅう座ならもっとゴツいはずだ。手足に爪はない。りゅう座の手足だとすると貧弱すぎると思う。


 しかし、へび系の星座は3つある。うみへび座の場合は最悪だ。

 まだ情報が足りない。


 結論は他の能力を見てからにするしかない。

 とりあえず毒を警戒しないといけないので、近距離は避けるべきだ。

 念のため、耐毒魔術も使っておくべきだろう。


 無詠唱で耐毒魔術を発動した後。次の情報を引き出すために、俺は「何が目的だ」と問いかける。


「そうだね……。目的ぐらいは話しておこうか。

 簡単に言うとまぁ……君を殺しに来た。君をこのままにしておくと邪魔になるんだよね。だから、今のうちに殺しておこうかな……ってね」


 このままにしておくと。今のうちに。


 つまりこいつは今までの澱みや堕ち星はこいつが仕組んだのか?

 逆にこいつをここで倒せば、これ以上澱みや堕ち星は生まれないということか?

 それなら、星雲市《この街》で観測されている魔力の異常もこいつが原因か?


 疑問は増える。だけど、まずは目の前の《《こいつ》》を倒すのが先だ。

 他のことはことは後で考えればいい。


 俺は気合を入れ直し、右手で杖を生成する。


「やれるもんならやってみろ。逆にここでお前を倒す」 

「ふ~ん。ま、楽しませてよね」

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― 新着の感想 ―
のんびりとした遠足の風景からの突然の泥人形……緊迫感が伝わってくるシーンだったと思います。様々な思惑が交錯するなかで、なんか強そうな人が異形が出てきたり。先の展開も楽しみです!
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