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6話

 午後は、古代から残っている城や観光名所として有名な花畑を見て回った。

 穏やかに時間は過ぎてあっという間に、夕日の見える頃合いになっていた。

「――そろそろ、時計塔に行きましょうか」

 ジュリエットたちは今、ジュリエットの生家が所有している小さな邸で寛いでいた。ここにはジュリエットが小さい頃に住んでいたこともあり、ジュリエットの使っていた玩具などが沢山ある。見慣れない玩具に興味を引かれている子供2人をジュリエットは懐かしいような、幼い頃の自分を見ているような不思議な気分になった。

 そうこうしている内に、空には月が昇る時間になっていた。

「そうだな」

 レイノルズが頷くと、ノエルはコクコクと頷き、ジュリエットたちを急かす。

「早く行こ?」 

 ジュリエットは今にも走り出しそうなノエルの手を取り、一家は時計塔へと向かった。



「!きれい……!」

「すごい……!」

 時計塔から見える王都の夜景は美しく、思わず息を呑む。沢山の屋敷から漏れ出る淡い灯りが街を覆い尽くし、そして建物に沿って配置はされた街灯が道を浮かび上がらせている。その中でも目を引くのは――

「ママ!あのお屋敷何?」

 ノエルの指差す方向には、眩い灯りを放つ大きな屋敷がある。が、それは貴族の屋敷と比べても別格だ。

「あれは、――王様が住まれているお屋敷よ。さっきママが旦那様と一緒に行った場所」

「王宮?」

「ええ、そうよ。……それよりノエル、寒くないかしら?」

 春が近づいているとは言え、夜はまだまだ寒い。ノエルも厚着はしているが、体調を崩しやすいので、ジュリエットは心配していた。

「ぜんぜん大丈夫!」 

 ノエルはそう言うが、ジュリエットは彼女の額に手を当てる。

「熱は出ていないわね」

「だから大丈夫だもん!……お兄ちゃんとパパの所に行こ!」

 ノエルはそう言うとジュリエットの出を引いて、離れた位置にいるレイノルズとルイのもとへと歩いていく。

 今日一日で、ノエルはレイノルズに大分打ち解けたような気がする。

「そうね」

 ジュリエットは歩きながら、ノエルの背中を見つめてふと思う。

(大人のわたくしより、ノエルの方が順応性が高いのよね……)

 ジュリエットは、8年前のレイノルズの印象を払拭出来ず未だに接し方に悩んでいるというのに、ノエルは産まれてから7年もの間父親の存在をすっかり受け入れている。

「――ジュリエット?どうかしたのか?」

 耳元で落ち着いた低い声が聞こえ、ジュリエットは視線を上げる。思ったよりも近くで視線が交わり、ジュリエットの頬が紅潮する。そんなジュリエットに、レイノルズは目を細めると頭を軽く叩く。

「頬が赤いぞ。熱でもあるんじゃないか?」

 レイノルズは今度は頬を指の背で撫ぜながら笑みを浮かべると、意地悪く問う。その表情に更に顔を赤くさせながら、ジュリエットは少し強い口調で言う。

「す、少し寒いだけですわ」

 そう言って、レイノルズが逸らした視線の先では、ルイとノエルが楽しそうに夜景を見ている。だが、2人とも寒さからか、顔が赤くなっている。

「そろそろ、帰るか」

 レイノルズは、ジュリエットと子供たちに優しさの籠もった笑みを浮かべると、そう言った。

 

 そうして、急な王宮訪問があったものの、家族旅行初日は和やかなものとなった。






 翌朝、いつもより早く起きたノエルのお陰で、一家は朝早くから観光を楽しんでいた。初日同様、特に問題もなく恙無く予定を消化していた午前だったが、夕方になり、状況が変わった。

「……ごめんね。せっかくの旅行なのに」

 ベッドには力なく微笑み、横たわるノエルの姿があった。ジュリエットは辛そうなノエルの額にせめてもと、濡れたタオルをのせる。

「謝らなくていいのよ」

 上がったままの体温と優れない体調。ノエルは、熱を出していた。慣れない環境と、体への無理が祟ったのだろう。

「ノエルはいいから、みんなでお祭りに行ってきて」

 体調が悪いというのに、それでもノエルは家族を気遣ってそう言う。

 今夜は、王都で季節ごとに行われている大祭の一つ、冬祭りの初日だ。ランタンが吊るされた大通りには屋台が立ち並び、王都でさえもあまり見ないほどに、賑わうらしい。折角だから行ってみようという話になっていたのだが、ノエルの熱がわかり、今夜は邸で過ごそうといあ話になっていた。

「そんなこと言ったって、ノエルを残しては行けないわ」

 家族旅行なのだから皆で過ごしていたい。

 そんな時、控え目に扉が叩かれた。扉を叩く音に続いて、レイノルズの声も聞こえる。

「……――入って良いか?」

 ジュリエットがどうぞ、と答えると扉が開かれ、レイノルズとルイが部屋に入って来た。

 心配そうな表情をしながらも、僅かに笑みを浮かべているルイに、ジュリエットは首を傾げた。

「どうかしたの?」

 ルイはコクリと頷くと、とっておきの秘密を話すように口角を上げた。

「僕に提案があります」

 レイノルズは既にルイから話を聞いているらしく、ジュリエットの反応を見て微笑を浮かべている。

「提案……?」

 ジュリエットの疑問の声に、ルイは気を良くしたように笑みを浮かべる。

「まだ、秘密です」

 その言葉にジュリエットは益々疑問と興味が湧き上がったが、レイノルズの笑いを含んだ声で遮られてしまった。

「あとのお楽しみだ。ジュリエットはノエルと待っていてくれ。――ルイ、行こうか」

「はい」

 そうして、2人は何処かへと出掛けていき、邸に帰ってきたのは1時間ほど後のことだった。


 ◇◆◇


「母様、ノエル入って良いですよ」

 弾んだ声が聞こえ、ジュリエットたちは声が聞こえた部屋、寝室の扉を開ける。

 レイノルズとルイは帰ってきてすぐジュリエットとノエルを別室に移し、何やら作業を行っていたようだった。

(何をしていたのかしら……)

 先ほどよりは大分良くなったものの、それでもまだ体調の回復していないノエルとしっかり手をつないで、ジュリエットは部屋に踏み込んだ。そして――

「凄い……!」

 ジュリエットとノエルは、その先に広がる光景に息を呑んだ。

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