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5話

「――レイノルズ、ジュリエット。よくきたね」

 国王はレイノルズより2つ年が下と若いが、王家特有の風格があり、自然と背筋が伸びた。

 レイノルズもまた、笑みを消して礼を執っている。

 最近はずっと優しい表情を見ていたので、昔は見慣れていたはずのその顔が新鮮に見えた。

「このような場を与えてくださったこと恐悦至極に存じます」

「お目にかかる事ができて光栄です」

 淀みない口調で2人は挨拶を告げる。

 そして、ジュリエットが緊張の中でも噛まずに言えた、そう思った時。

「……――ん〜、堅いね、2人とも」

 間延びした声が聞こえ、ジュリエットは思わず動揺する。

「!?」

 国王から先程まで感じていた威厳は霧散し、代わりに感じられるのは親しみやすい空気だ。

「コイツはこういうヤツだから気にするな」

「は、はい……?」

 レイノルズは、気づけば許可もなく顔を上げている。作法を気にする質ではないと言っていたが、そういうことなのだろうか。ジュリエットは反応を窺いながらも顔を上げた。

 イマイチ状況を飲み込めないジュリエットを前に、旧友であるレイノルズと国王、アルフレッドは気安く会話を始める。

「目の前でコイツ呼ばわりは酷くない?」

「そうか?前に陛下呼ばわりは嫌だとか宣ってたのはそっちだろ」

「いや、そういう意味じゃ……あ、ジュリエットも、陛下なんて呼ばなくていいよ」

 その言葉には、流石に抑えていた動揺が声になる。

「えっ……!?」

「おい、ジュリエットが困っているだろう」

 困った表情のジュリエットに、レイノルズが助け舟を出す。

「えー?ね、呼んでみてよ。アルフでいいからさ」

 いいから、の意味がわからない。名前を呼ぶだけでも畏れ多い。

「アルフ、いい加減に黙れ」

「君に呼んで欲しいだなんて一言も言ってないけど?」

「俺は前からアルフ呼びだ」

「あれ?辺境伯でしかない自分が陛下の名を愛称で呼ぶなど畏れ多いとか言って、名前呼びを貫いてるのは誰だっけ」

「……」

 どうやら、この2人の間にも色々なやり取りがあったらしい。

「ははーん、さては、自分の妻が他の男と仲良くするのが嫌なんだ」

「……そうは言ってないだろ」

「いや、今の間がね」

 レイノルズは黙り込んでしまうが、隣をそっと窺うとうっすらと頬が赤くなっている。アルフレッドの言う通りだとしたらまさか、嫉妬しているのだろうか。

 ……いや、まさか。

 本気にはしてないものの、国王陛下の目の前でこのようなやり取りをしているということが恥ずかしく、ジュリエットも顔を赤くする。

 それを見たアルフレッドは、思わず真顔になる。

「いや、見てるこっちが恥ずかしいんだけど」

 その言葉に、レイノルズは何事もなかったように真顔を取り繕う。

「コホン、とにかく挨拶を終えたから帰っていいか?」

「え、もう少しくらいよくない?……あ、でも家族旅行なんだっけ。なら、仕方ないか」

 アルフレッドは態度を一変させ、ひらひらと手を振る。

「じゃあね。2人とも、また会いに来てね」

「ああ」

 礼をして、2人は謁見の間をあとにした。

「アルフレッドは少し意地悪だが、あれでも一応いいヤツだ。困らせてしまったことは済まないが、本人に悪気はないはずだ」

「は、はい、そのことは気にしませんわ。ですが、あの……一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」

「?何だ」

「レイノルズ様は、わたくしが他の男性と仲良くするのは嫌なのですか?」

「ッ!?そ、それは……、……」

 言い淀み、目を泳がせるレイノルズに、つい意地悪な気持ちが芽生えるが、答えを聞きたかったのでぐっと我慢する。

「……、……愛する女性が自分以外の男と話していたら誰だって嫉妬するに決まっているだろう」

「……!」

 恥ずかしさもあったが、それ以上に嬉しさが込み上げ、驚いて見開かれた目から顔いっぱいに笑みが広がる。

「ふふっ、聞かせてくださってありがとうございます。……――それでは、子供たちのところへ戻りましょう」

「……ああ、そうだな」


 ◇◆◇


「ルイ、ノエル!お待たせ」

「遅れてすまない」

「ママ!早く行こ!」

 ルイとノエル、そして2人を見ていた侍女たちは笑顔で迎えてくれた。

 そして、ジュリエットとレイノルズが王宮に行っていた間、2人は何もせずに待っていてくれたらしい。

「ママと一緒が良かったんだもん」

「本当?嬉しいわ。それじゃあ、行きましょうか」

「はい!」

「うん」

 ジュリエットの声に、ルイとノエルの元気な返事が重なった。


 そうして、4人は王都一の観光名所である、時計塔に向かった。

「わあ!ママ、見て!高い!」

「本当ね」

 王都では地方と比べ建築技術が発達しているので、見たこともないほどに高い建物や、凝った造りの建物がたくさん見られる。が、この時計塔は知名度をとっても、造りをとっても、別格といっていい。王都への旅行客の中にはこの時計塔を見るために来ているものもいるくらいだ。

「……――そう言えば、建物内に入ることが出来るのですよね」

 ジュリエットは、ふと思い出して言う。思い出してみれば、それがきっかけでこの時計塔が有名になったような気がする。

「ああ、確か、一日中開放されていたな」

 ジュリエットの言葉に、レイノルズは頷く。そして、何かを思いついたように口の端を上げる。

「……それもいいが、夜になると美しい夜景が見られるそうだ。――行ってみるか?」

 夜景という言葉に反応していたノエルに、レイノルズは問い掛ける。

「……!」

 問い掛けられたノエルは嬉しそうにするが、父に対する遠慮からか、兄の影に隠れてしまう。

「――こんな大きい街の夜景は見たことないし、僕は見てみたいです」

 それを見かねたルイが、口を開く。ルイも、ノエルと同じで辺境伯領から出たことがないので、やはり気になるのだろう。

「……、……ノ、ノエルも見てみたいです!」

 すると、兄に釣られたようにノエルも答えた。

「ジュリエットも良いか?」

「ええ、勿論ですわ」 

「じゃあ、決まりだな」

 ジュリエットたちが二泊三日のこの旅行で泊まる場所は、時計塔近くにある。

「それじゃあ、夜にもう一度来るとして、次の目的地に行こうか」

 家族4人の旅行はまだ始まったばかりだ。

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