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4話

気づけばもう、クリスマスですね……!

本作も中盤になってきました。

皆様、良いクリスマスを。

 レイノルズが帰還してから、2週間が経った。

 あの夜宣言したとおり、レイノルズはジュリエットを何よりも大切にしている。恥ずかしいくらいの愛され具合に、ジュリエットは戸惑いつつも、受け入れてしまっている自分がいる。だが、それでも彼がはっきり愛の言葉を告げることはない。


「――そう言えば、来週は君の誕生日だったな」

「はい」

 家族4人が揃った夕食の席で、レイノルズが口を開いた。ジュリエットは一度食手を止めて、頷く。何故か、自分のではないのに、誕生日という言葉に反応してノエルが目を輝かせている。

「……それならどこか、出掛けようか」

「えっ、良いのですか?」

 出掛ける提案など、結婚してから一度もされたことがなかったので、ジュリエットは目を瞬かせる。

「勿論だ。それで、何処がいい?」

 尋ねられて一瞬悩むが、相応しい答えが見つからない。こういう時には、子供の意見を頼りたくなってしまう。

「わたくしは家族皆で行ければ良いですわ……ノエルは何処か行きたい場所はない?」

「ノエル?……う〜ん」

 急に話を振られて驚いたようだが、真剣な顔をして考え出す。ジュリエットにとっては些細なことだと思ったことにも、本気で悩む姿にノエルらしさを感じたが、その表情は親子だからか、レイノルズの面影があった。

「……――それなら、王都に行ってみたい……です!」

 1週間で、母の後ろに隠れながらも父と向き合ってきたノエルだが、やはり萎縮してしまうのか、滅多に使わない敬語を用いている。

 そして、ジュリエットをママと呼ぶのに対して、レイノルズのことはルイに倣って父様と呼んでいる。そのことに、レイノルズは距離を感じると悲しげにジュリエットに零していた。だが――

「王都か。ルイは良いか?」

 そんな感情を感じさせずに、微笑を浮かべてレイノルズは頷く。 

「はい、もちろんです」 

 辺境の土地に住むノエルやルイからしたら、王都というものについ惹かれてしまうのだろう。まあ、ジュリエットやレイノルズとて、その気持ちがわからないわけではないのだが。

 ――そうして、辺境伯一家の旅行が決まった。



「まだ?もうすぐ着く?」

 ノエルはもう待ち切れない、と言うように馬車の窓に顔を近づける。

 今日、ジュリエットは誕生日を迎え、一家は旅行として王都へと向かっていた。最近は交通網が整備されているので、昔のように移動が一日がかりになることはない。だが、瞬く間に移り行く景色は、それはそれで焦らされるというものだ。ノエルもルイも、先ほどからどこかそわそわしている。

「ああ、もうすぐだ」

 街の賑わいが近づくにつれて、ノエルの瞳に輝きが増す。普段あまり感情を表に出さないが、ルイも心なしか興奮しているように見える。

「わあ!人がいっぱい!それに、雪がない!」

「ふふっ、そうね」

 馬車から降りて早々、ノエルは目を輝かせて街を見回す。その様子を、温かく見守っていると、レイノルズが言いづらそうに口を開いた。

「その申し訳ないのだが……」 

「?」

 ジュリエットは首を傾げて言葉を待つ。

「実は、国王陛下に挨拶に行かなければならなくてな……」

「あら」

 言われてみれば、レイノルズは凱旋式に参加していないのだ。国王から声がかかっていても不思議ではない。

「わたくしもご一緒した方がよろしいでしょうか?」

「ああ。国王からも是非一緒にと言われているが……――大丈夫か?」

 ジュリエットは少し悩む。が、ジュリエットが答えるより先に、ノエルが口を開いた。

「ノエル、お兄ちゃんと待ってる!」

「あら、本当?遅くなってしまうかも知れないけれど、大丈夫かしら?」

 誰よりも楽しみにしていたのに申し訳ない、と思いつつ、ジュリエットは尋ねる。

「うん!大丈夫だよ」

 こんなときには、少し大人びて見えるノエルを心強く思いつつ、ルイに視線を向ける。

「ルイ、ノエルを頼んでもいいかしら?」

「はい、任せてください」

 ルイは流石というか、こんなときでも頼もしく頷いた。 

「メイ、子供たちをお願いね」

「はい、畏まりました」

 子供たちに見送られ、ジュリエットとレイノルズは再び馬車に揺られる。

「――懐かしいか?」

 ふいに、レイノルズからそう告げられ、窓から景色を眺めていたジュリエットは視線を前に移す。

「はい、そうですね……ですが、わたくしの知る王都とは大分変わってしまいましたわ」

 ジュリエットは、もとは伯爵令嬢として王都で暮らしていた。そして17歳を迎えたとき、辺境伯であるレイノルズとの婚約が決まり、両親と、そして王都と離れることになった。

「……確かに、ここ数年で開発が進んだらしいからな」

「まあ、そうなのですね」

 結婚したばかりの頃は、こんなふうにレイノルズと王都に来ることなんて想像もしていなかった。というか、そもそも会話すらまともにしたことはなかった。

 8年前と今は全く状況が違うな、と今更ながら思いつつ、ジュリエットは暫しの間会話を楽しんだ。


「――着いたぞ。何だか久しぶりだな」

「わたくしも、王宮に来るのはデビュタント以来でしょうか」

 降りる際には、レイノルズに自然に手を差し伸べられ、エスコートをしてくれた。

「このまま、謁見の間に行くが、あまり緊張しないでいい。陛下も作法についてはそこまで気にしない質だからな」

 ジュリエットの所作がぎこちないことに気づいたのか、レイノルズは優しく微笑みかける。そのさり気ない気遣いに、ジュリエットは胸が温かくなる。

「はい。ありがとうございます」

 当たり前の話ではあるが、事前に許可を取っていたらしい。2人は、すんなりと謁見の間の前まで通される。

 そして、重々しく謁見の間の扉が開かれた。

「――レイノルズ、ジュリエット。よくきたね」

 視線の先で、圧倒的な存在感を放つ貴人が、口を開いた。

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