7、主人公の性質
「まぁ、大丈夫ですよ。待ってたらトラブルの方からこちらにやってきます」
そう言ってキャヌエルはステーキにフォークを刺す。紅茶でも飲みながら優雅に言うようなセリフをステーキで台無しにしている。
「どういうことだ」
「私は主人公なのでトラブルによく巻き込まれる体質なんですよ」
は?主人公は俺だが?と反射的に言ってしまいそうになるのを堪えながら話の続きを待つ。
キャヌエルはステーキを口に運ばず、空に浮かせたまま説明を始める。
「この世の中には、世界が大きく動く時必ずその場に現れる人間ってのがいます。世界滅亡の時必ず、魔王が倒される時必ず、歴史的な大事件が起こる時に必ずその人はその場所に引き寄せられます。もしくは事件が引き寄せられます。私はそういう人のことを主人公と呼んでいるのです」
「なるほど。巻き込まれ体質の事か。それなら俺も主人公だな。自分で言わせてもらうが、大魔術師アバンが封印から出てきた時も、東京で妖怪地獄門が開いた時も、次元の穴が天空に開いて神の軍勢が攻めてきたのもこの俺だ」
はい、これ全部事実です。全部自伝にして出版もしてます。アバンの話は30万部売れました。妖怪地獄門の話は俺が命を救った漫画家がコミカライズしてくれて600万部売れました。
この小説も20万部は売りたい。買ってくれた読者の方、ありがとうございます。
「だからあなたをここに呼んだんですよ」
「どういうことだ」
「巻き込まれ体質の主人公が二人も同じ場所にいれば世界の滅亡に必ず巻き込まれるってことですよ」
「まぁそうか。たしかに。1人より2人の方が巻き込まれそうだもんな」
「詳しい原理もあるんですけど、 だいたいそんな感じです。今回は解決までの期限が1週間しかないですからね。急ぐためにそこそこ戦力になりそうな主人公が欲しかったんですよ」
俺の事を主人公と呼ぶだなんてコイツ俺の扱い方わかってんなぁ。
「経験から言って、そろそろなにかに巻き込まれるはずです」
そう言った瞬間、ギルドのドアがバコンと破壊される。
飛び散る木片、静まるギルド内。
ホントに何かが起こりそうで緊張する俺。
ステーキの最後の一口を口に入れるキャヌエル。
「オイ、軍団長キャヌエルが帰ってきたって本当か?」
筋骨隆々、肌が褐色でスキンヘッドなおっちゃんがキャヌエルをご指名だ。子分を3人連れている。コレは、あの異世界名物イベント『いかにも雑魚っぽい因縁つけてくるタイプの冒険者と一悶着あるやつ』じゃないか? いや、見た目はゴロツキというより騎士だから違うか。
とりあえず俺は俺が中心に居ないことがあまりにも腹立たしい。
「ヒカルくん。どうやら私のせいで貴重な機会を奪っちゃったみたいですし、ここは頼めますか?」
「え? やるやる!」
俺はバッと飛び出し大きくジャンプ。そして、今いる食堂からギルドの入口まで跳躍。おっちゃんの前にヒーロー着地。
決まった。ここで俺がキザなセリフを言うわけだ。
「うちのキャヌエルに何の用だ?」
武器も何も手に持っていないので、若干右手を光らせ臨戦態勢なことを伝えながら話しかける。
「お前が誰だか知らねぇが、忠告してやろう。キャヌエルは国家反逆の犯罪者だ。キャヌエルとつるむってんならお前も犯罪者として追われることになるぞ、それでも俺たちの前に立ちはだかるのか?」
「なるほど、その忠告一理も二理もありそうだ。実際俺はキャヌエルと出会ってまだ2時間経ってないぐらいだ。その忠告、全然聞きいれてもいい。だが、世界を救う方が何倍も楽しそうだ。俺はキャヌエルに付く」
「会って2時間? お前正気か? それで国家に楯突くのか?」
「お前は出会って1分も経ってない! だから俺は出会って2時間ぐらいの方を信じる!」
「バカなのか了解した。」
筋骨隆々のおっちゃんはなんか豪華なマントをバサァと広げた。俺こそは国家の権力者なのだ!とアピールするような動きだ。カッコイイ。そのまま抜刀。両手で正面に剣を構えた。
一方俺はその場で立ったまま光る片手をおっちゃんに向け、構える。
「事情はよく分からんがキャヌエルに組みする者だ!捕らえよ!!」
「俺も俺とて事情はよく分からんが、戦うぞオラァァァァア!」
なんか、ノリで戦いが始まった。
自分で文字起こししてみると、いかに自分が変なことを言っているかよく分かる。俺は今とても反省している。