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6、合流

 俺の華々しい冒険者デビューはキャヌエルによって妨害されていた。キャヌエルが俺と同じような超すごい力を持った存在だとは思わなかった。


「お知り合いなんですか?」

「まぁ、ホントに見知っただけだがな」

「それは酷いですねヒカルくん。君と私は狭い室内で激しくもつれ合った仲じゃないですか」

「キャヌエル……」

「やぁヒカルくん。さっきぶりですね」


 声を聞いて振り返ると、ぬいぐるみによって聞き慣れた声が聞こえる。テレパシーではなく肉声だ。それを聞いて、俺よりも先に受付嬢が反応する。


「キャ、キャヌエルさんですか!? 探しましたよ! どこに行っていたんですか!?」

「ワタシは冒険者だからもちろん冒険してましたよ」

「それはそうなんですが……あなたほどの強さを持つ冒険者さんには移動の際その報告をする義務があるとお伝えしましたよね!」

「それは申し訳ない。私はいそがしいのです」

「まぁ、特に罰などはないですけど気をつけてください」

「わかりました」


 そう言ってキャヌエルは絹のような金髪からいい匂いをサラサラと振りまいていた。格好は先程あった時と違い、ファンタジックな要素が強い灰色の衣装だ。金属製の胸当てのみしか鎧を纏っておらず、軽戦士系なのだと推測できる。

 俺はそんな誰もが振り返るような美人のお姉さんが異世界のコスプレっぽい格好をしているのを見て、まず一言目、罵倒を飛ばした。


「キャヌエル……お前、マジでふざけるなよ! 俺の華々しい冒険者デビューを妨害しやがって!」

「怒るとこそこなのですか? 異世界に勝手に連れてきたことに怒っているかと思っていました」

「そんなことはどうでもいい! そんな些細なことより、お前が先にデビューしたせいで俺が目立てなかった!それが問題だ」


 この時の俺はそう言っていたが、こうして小説を書きながら自分のことを振り返ってみると結構なことをされている。

・勝手に異世界に連れてこられる

・謎の追っ手との砲撃戦に巻き込まれる

・ミサイルに積み込まれて飛ばされる

 俺が怒るべきところは目立てなかったことでは無かったかもしれないな。だが、この時の俺はそれに怒っていたのだ。


「そんな……泣くほどですか?」

「そうだ! 泣くほどだ!」


 俺は気付けば泣いていた。なんだかよく分からないがボロボロと涙が溢れてくるのだ。人生で1度はやってみたかった異世界で水晶を割るやつを出来ると思っていたのだ。技術的に出来ないのならまぁ仕方ないと諦められるが、割れそうなことを見抜かれて途中で止められたのだ。やるせないやらなんやらで俺の心はどうしようもないくらい混乱していた。


「あー、もう!わかりました。しょうがないですね。あ、受付嬢さん。ヒカルの登録はもう済んだんですよね?」

「はい、あとは登録証のドッグタグだけお渡しして終了になります」

「じゃあ、私はヒカルを慰めておくので出来たら呼んでください」

「助かります」


 恥ずかしかったが、「こっちでちょっと話そうか」と手招きするキャヌエルを素直に追いかけた。

 キャヌエルに酒場の空いている席へ案内され、ウェイターさんが即座に注文を聞きにやってくる。俺はジンジャーエールを、キャヌエルはワインとリブロースステーキを頼んだ。

 ガッツリ食うつもりなのだろう。


「じゃあ、世界を救うという話を詳しく聞こうか」

「カッコつけてもあまりかっこよくありませんよ」

「俺は泣きたい時に泣くし、言いたいことは言う。カッコ良さは泣いた程度で損なわれるものじゃないからいいのだ」

「……損なわれますよ」

「うるさい」


 ワインとジンジャーエールが運ばれてきたのでウェイターさんにティッシュを頼む。

 俺はティッシュで鼻をかみながらズビズビと会話をする。自分で言うのはなんだが俺はメンタルが強いわけではない。自分で書いているので情けなくなってくるが、これから俺はカッコよくなるので、ホントに世界を救うので、ちゃんと俺の物語を見てくれ。


「この世界がどんな世界がだいたい分かりましたか?」

「見た感じ剣と魔法のファンタジーって感じの世界だな。異世界転移モノの漫画でよく見る感じだな」

「大体あってます」


 キャヌエルは金髪を耳にかきあげながらワインの匂いを嗅ぐ。クルクルとワイングラスを揺らして香りを楽しんでいる。こういう会話の場にそぐわないほどのガチテイスティングだ。目が離せない。


「それで、世界を救うって具体的にどういうことだ? 定番の魔王を倒そう的な話か?」

「分かりません」

「は?」

「だから分からないんです」

「なんだ? 原因も分からないのにどうやって世界を救えって言うんだ? そもそも世界の危機って具体的になんだよ」

「大体1週間後ぐらいにこの世界が爆発してこの世界がなかったことになるんですよ。」

「は!?」


 それはリブロースステーキの肉を切り分けつつ言う話では絶対にない。俺はそうツッコミたくなったが、とりあえず今はそういうノリをすべきでは無いことぐらいわかる。俺は少し冷静さを取り戻してキャヌエルの話の続きを待つ。

 キャヌエルはステーキをナイフとフォークで1口サイズに切り分けながら話を続ける。


「話は簡単です。この世界が何故か突然爆発したせいで隣合ってる私の住む世界もその爆発に巻き込まれました。だから私の世界ごとこの世界も巻き戻したんです。巻き戻した時間は1週間。だから一週間でこの世界は滅びます。」

「はえー、なるほど、やり直しって訳だ」

「色々原理を説明してたらキリが無いので割愛しますが、二回目の巻き戻しはもうできません。エネルギー不足的な感じだと思ってください。」

「おんおん、だいたい分かった。つまり1週間以内にこの世界が爆発?する理由を見つけて何とかすればいいわけだな?」

「そういうことです」


 話を言い切ってキャヌエルはぱくりとステーキを頬張った。それはそれは美味そうに食う。世界の滅亡が迫っているとは思えないぐらい幸せそうな顔でステーキを食う。

 しかも原因も分からないと。それでこの表情か……なるほど。

 なんだコイツは狂っているのか?

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