4、初めての異世界人
「お前たちを救った俺の名前はヒカルだ!覚えておけ。……で、その倒れてるヤツは大丈夫か?」
俺は、魔法使い風の男と女剣士に守られながらずっと治療を続けていた僧侶っぽい女と、倒れた男を指さして聞く。
「あ、あぁ、回復魔法をかけ続けているから死ぬことは無いと思います」
サイクロプスとやらを倒してから、なんだかしどろもどろになる男。女剣士も少し怯えが混ざった。
ここで俺は思い至った。
そうか、ここは異世界だから俺は有名では無いのだ!と。
それに気付いた瞬間、俺がこの世界でやるべきことは決まった。この世界で誰もが知っている有名人になってやる……と。
幸いにもこの世界は滅亡の危機に扮しているらしいしかなりちょうどいい。キャヌエルのことはあまり知らないが、あいつは俺の事をよく分かっている。人をやる気にする術を心得ている。いや、俺が勝手に盛り上がってるだけか。
「助けてくれてありがとう。俺の名前はショーキです」
「私の名前はファースよ。よろしく」
「俺の名前はヒカルだ。よろしくな」
キャヌエルとのやり取りもだいぶ慣れてきた。キャヌエルに翻訳してもらった言葉をそのまま発音しているだけだが、かなりうまいはずだ。
俺はそういうところにも才能がある。
「実は俺、旅人でな。ここら辺の言語も勉強中だし、街まで案内して欲しいんだがいいか?」
「あ、はい! 大丈夫ですよ」
「じゃあ、案内を頼む」
少し沈黙。
「ヒカルさん」
「お、なんだ?」
「このサイクロプス、回収しないのですか?」
「回収? こんな死体、回収してどうするんだ」
「どうするってそりゃ、売ればお金になるじゃないですか。サイクロプスなんて高ランクのモンスター。中々倒せるものじゃないのでかなりお高いですよ?」
なかなか倒せるものじゃない……とは、なんと甘美な響き。そしてそんなモンスターを一撃で倒した俺。きっと俺はA級なんちゃらとかS級なんちゃら的なそういう感じのアレだと思われてるのだろう。非常にグッド。
「俺はこの国のことはよく分からん。換金出来るならお前たちで換金してくれ……いや、換金所まで運ぶのを手伝ってもらえるか?」
「はい、冒険者ギルドに――」
「冒険者ギルドだと!?」
冒険者ギルド! 俺は聞いたことがある。圧倒的な魔力量を持つ者が水晶を割って「すごーい」とか言われたり、試験官をぶちのめして「なんだアイツは!?」とか言われるあの冒険者ギルドか!
今すぐ行かねば。
俺がそんなことを考えていると、女戦士が胸元から袋のようなものを取りだして。ってなんだあの胸は。四次元ポケットか!?
そして、その袋をサイクロプスに向けるとサイクロプスはスポッと音を立てて袋の中に吸い込まれて行った。
あんな魔道具見た事がない! 原理は? 仕組みはどうなっているのだろう? 気になる……が、おそらくあの袋の作者は女戦士では無いだろう。分かっているので別に聞かない。
だがそういうところも含めて、彼らは冒険者って感じがした。
道を歩きながら、冒険者と話をした。
傷だらけで未だに起きない男の冒険者を男魔法使いが背負い、僧侶は背中の上に乗せられている状態で治癒を続けている。
女戦士は手を頭の上に組んで暇そうにしているので俺とお喋りをするのみだ。
一方僧侶さんは治療に集中しているらしく、一瞬驚いた「あ」という言葉以外聞いていない。僧侶は頑張っているのにお前はお喋りしてていいのか?と言いたくなるが、こいつにも重要な役割があるようだ。コイツらの態度から考えるに、自分たちの実力以上の相手に対して付けたご機嫌取り役と言ったところか。男勝りな美しい系美人な顔なので、全く悪い気分にならない。が、必要以上に恐れられていることは不本意だ。
「ヒカルちゃん。あのビームってやつ何? 初めて見たんだけど」
「アレは光をこう、束ねて束ねてぶっぱなすと強いって代物だ」
「へー。光魔法ってそんな使い方もできるんだ」
「光魔法とはちょっと違うんだけどね」
楽しい。この女、コミュ力が高い。ギャルだ。……と、会話を盛り上げて貰っているうちにいつの間にか街の入口っぽい場所までやってきていた。
こういう異世界もののアニメで死ぬほど見た事がある壁だ。
壁には門があり、兵士っぽい格好をした男が槍を持って立っている。すごい。見たことある。全部知ってる。
「待て、お前たちは……あ、ショーキ様! おかえりなさい。ってカラム様が傷だらけじゃないですか!」
「ここまで治療魔法でなんとか持たせましたがエルナも限界です。医療班を呼んでくれますか?」
カラムは背負われていた男、エルナは治療魔法ずっとかけていた僧侶の名前か。そんなポンポン人の名前を出されても全員覚えきれないぞ。
すぐにやってきた担架でカラムが運ばれていく。見送っていると今度は俺の話になる
「それで、ショーキ様。この人は誰です?」
「この人は俺たちの恩人です。丁重に出迎えてください」
その人はこちらを一瞬怪訝な目で見て、分かりましたと了承していた。