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3、異世界

 再びの巨大な衝撃。シャレにならないほどの衝撃が俺を襲う。バキッバキッとカプセルが歪んでいるのが中からもわかる。もし俺じゃなければ、骨はボキボキのボキになっていただろう。というか普通は死んでいる。

 まだ続く。カプセルの内部は衝撃音と衝撃が加わる度にベコベコと凹んでいく。圧死する。このままでは圧死する。多分俺は死なないが……死なないのだが怖いものは怖い。

 ベコベコベコベコ煩いし、俺自身にかかる圧力は酷いし、これまでに感じたことの無い恐怖が自分を襲う。

 だが、すぐにその衝撃も止まり、シーンとした。どこかを移動しているような風切り音がしない。もうふわふわとした感覚もない。どうやらどこかに止まったようだ。

 ダイナミックすぎる異世界入り。俺の乗っていたカプセルは言葉通りミサイルだった。


 俺がカプセルから這い出るとカプセルの周りはクレーターになっていた。カプセルも外装が黒焦げになっており、大気圏突入でもしたのかと思うほどの残骸になっている。

 俺は最強だが、さすがに怖かった。生きててよかった。死ぬかと思ったと感想がでてきた。


「ヒカルサマ、ヒカルサマ」

「うぉ、なんだ?」

「私デス」


 キャヌエルのぬいぐるみがポケットで喋っている。


「今回、キャヌエル嬢様ノ要望二答エテクダサリ、アリガトウゴザイマス」

「俺は最強だからな。頼まれれば世界ぐらい救うさ」

「私ハタダノヌイグルミ。戦力トシテハ全ク役二タチマセンガ、コノ世界ノ言葉ヲ翻訳シマスノデ、シバラクポケットノ中二住マワセテイタダキマス」

「あぁ、ご丁寧にどうも」


 ぬいぐるみは、ポケットに入ったままボタンの瞳をキラリと輝かせてぺこりとお辞儀をした。俺もお辞儀を返す。


『コンナ感ジデ、テレパシーサセテイタダキマス』

「うぉぉ! 頭に直接! なるほど、こういうことか。俺が喋る時はどうするんだ?」

「私二テレパシーデ聞イテイタダケレバ、何ト言エバ伝エタイコトヲ伝エラレルカ教エレマスシ、何トカ頑張ッテクダサイ」


 ぬいぐるみはそう言ってそそくさとポケットの奥へと引っ込んで行った。

 とりあえず、誰でもいいから街の場所を聞こうと思い、人を探知する能力を使うことにする。

 カァーン。と音叉を響かせるような音が響き、自分を中心に、広がるように情報が入ってくる。1km、2km、3km……と広がり、4kmへ達する前に人を見つけた。すかさずその場所を『千里眼』で見る。

 おっと、俺の自伝を読むのが初めてって奴もいるだろうから一応説明しておく。俺の使える技のひとつ『千里眼』は創作によくでてくるような、自分が望むと望んだ場所を見ることが出来るあの千里眼だ。位置さえ分かっていれば世界の裏側だろうと、月の裏側だろうと、何億光年先にある惑星だろうとなんでも見ることができる。

 詳しい原理は省くが、人を探知する能力も千里眼の応用だ。

 俺はすごいのだ。これぐらいの応用は簡単にこなせる。


 千里眼でその場所を確認すると、剣を持った女が変なモンスターと戦っている。その後ろでは杖を持った男が炎を出して援護射撃をしている。


「すげぇ! モンスターだ!」


 生まれて初めて見る野生のモンスター。緑色で、ゴツゴツとした筋肉を持った巨人だ。目は一つで、髪の毛は生えていない。いつか創作物で見た事があるオークみたいな見た目をしている。いや、目は一つだからちょっと違うか? 俺はあまりファンタジー生物について詳しくない。ただ、人工の怪物とは違いなんだか可愛げがある気がした。

 と、呑気に戦闘を観戦していたが、俺は後方に倒れている人がいるのに気付く。ドプドプと血を流して倒れている男とそれに付きっきりで看病をしている女がいる。女の手からは緑色の光が漏れ出ていて、おそらく回復魔法を使っているのだと思う。

 女は涙を流していて、前線でモンスターを抑える2人もその顔に焦りが見える。


「……」


 俺はこの世界のことをよく知らない。

 この人たちのことをよく知らない。

 この巨人も、俺はモンスターと称したが緑色なだけでただの人って可能性もあるわけだ。それどころか傷だらけの人間が実は盗賊で、今返り討ちに合ってるだけなんてことも有り得る。だが、どちらを助けるべきかはもう俺の中で決まっている。


 可愛い女がいる方だ。


 よく知らんモンスターを助けたところで得しない。実はあのモンスターがメスで「助けてくれてありがとうございます。お礼になんでもします」とか言われても全く嬉しくないからな。

 俺は現場に急行。

 パッとその場に瞬間移動。突然現れた人影にモンスターも、戦ってる男女三人も驚いている。


「誰ですか!」

「なんなのあなた!」


 リーダー格っぽい魔法使いの男と戦士っぽい女の言葉はキャノエルぬいぐるみによってほぼノータイムで翻訳されたものだ。

 すごい技術だ。

 さて、次は俺の番だ。喋りたい言葉を頭に思い浮かべた瞬間、キャノエルぬいぐるみがその翻訳をテレパシーで送ってくれている。

 発音は英語っぽい感じだが、不安を感じながらたどたどしく異世界語を喋る。


「俺が来た!」

「誰ですか!?」


 俺は話が通じたことを喜びつつ、困惑する2人は後退し、俺にも警戒しているのがよく分かる。だが、一旦無視してオークっぽいモンスターに話しかける。


「えーと……君はナぜコノ連中を襲ってイタんだ?」


 オークは、フスーフスー吐息を荒らげるだけで言葉を話さない。


「おい! 聞いてるか?」


 俺はとりあえずオークの顔面を殴って質問を続ける。すると、グァー! グァーゴ! と明らかに人語ではない言葉を放った。


『男はコロス! 女はユウカイ! ケッコン! 邪魔するやつはコロス』


 キャヌエルぬいぐるみはそんな言葉も分かりやすく通訳してくれた。このモンスターはやはりモンスターであって意思疎通出来なさそうなのだということがよくわかった。

 だが、一応聞いておく。


「助けは必要か?」


 俺の言葉を聞き、魔法使いっぽい男がハッとした顔をする。俺の事を訝しげに見ながら、ゴクリと生唾を飲んで俺の質問に答える。


「報酬は?」

「情報提供と俺の一週間分の食費でどうだ?」


 素直に今欲しいものを答える。それを聞いた男はホッと胸を撫で下ろして言う。


「わかりました。お願いします。このサイクロプスを倒してください」


 恐らく、命の恩人だと何をせがまれてもおかしくないと思ったのだろう。例えば俺が悪人で、女二人を差し出せとか、そういうゲスなことをすると思ったのだろう。

 ……ふむ、自分より強いと思われるような相手、つまり俺を相手にしてこの胆力。中々イケメンだ。

 数秒の沈黙が続いたあと、サイクロプス? とかいうモンスターがグゴォオォオォォと咆哮をした。男は魔法の杖を握り直し、女は剣を構えて戦闘態勢だ。


 モンスターはイラつきを表現するかのように地面を3度叩き、そのままこちらに突進してくる。


「フラァァァァッシュビィィム!」


 俺は叫び声とともにサイクロプスの方をビッ、と指さし、指先から電柱ぐらいの太さがあるビームを発射する。

 ビームを食らったサイクロプスの様子はどうなっただろうか。もちろん頭が消し飛んだ。チリにすらならず、細胞ひとつ残さずこの世界から消し飛んだのだ。文書だと非常にわかりにくいかもしれないが、頑張って想像してくれ。


 一瞬にして地に伏せたサイクロプス。

 あまりの呆気なさに口をあんぐりと開ける三人。


「今のは光魔法ですか?」

「いや、ビームだ。俺といえばビーム。ビームといえば俺なんだ。誰もが知ってる常識だぞ」

「いや、そんなもん知りません」


 俺は驚きすぎてショックを受ける。

 この男はこう言っていたが、どう思う? 俺はそれなりに有名人だと自負している。目立ちたいのでテレビには出るし、インタビューも受けるし、なんなら自分からテレビ局の放送しているところにわざわざ赴いて「俺が救った!」と宣言までしている。


 そんな俺のビームを見たことがないなんて……嘘だろ?

 こんな俺を知らないなんて有り得ない……


と、この時は本当に思っていたが、そういえばここは異世界だったな。

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