師匠! どっちが好きか早く決めてください! 後編
デコの国滞在2日目
「ふふーん」
リリは今日もご機嫌だ。なにせこの国では3日間のうち1日、砂糖を購入するだけだから、ほとんど休みに等しい。彼女は宿屋の部屋の大きな鏡を見ながら今日も服を悩んでいた。
「師匠! 見てください! どっちの服が私に合いそうですか?」
「えっと……どっちも同じにしか見えないんだけど」
「全然違うじゃないですか!」
(あっ、これ昨日見た光景と同じじゃないか! これはどっちを選んでもダメだってことだったな。大丈夫、俺は同じ失敗を2度もやらない!)
リリは自分の選んでいる服を俺の目の前に押し付けた。
「え……えっとじゃあいっそこの二つ以外から選択してみたらどうかな、あそこのベットに広げてある……」
「ヒィック……ヒィック……師匠と一緒に歩くために選んだ服だったのに……」
リリは目がウルウルし始めた。どうやら俺と一緒に歩くために選んだお気に入りリストの中にある服だったらしい。
(ひっかけだったと! な、なにぃい! やっちまったな!)
「えええっと、広げてある服はさっさとしまってさ、右側の服を早く来てほしい。リリに似合うと思うんだ!」
「はい! 師匠! 私もこの服がいいって思っていたんです」
リリの顔が満開の花のように明るくなった。
(た、たえたぁああ。あっぶなぁあああ!)
「さすが私の師匠ですね! さあ、今日はどこに行くんですか!」
(リリの奴、エンジョイしすぎてこの国でやることを忘れているんじゃないか……)
「今日は、砂糖を購入しに行こう。俺の知り合いがやっているお店があるんだ。久しく会っていないし、お前にも紹介したいんだ」
そう言ったとたんリリの目が氷のように鋭くなりこちらを睨めつけてくる
「また女の人?」
一瞬現場の空気が凍る。
俺は慌ててリカバリーする。
「いや……男の人だよ」
「なぁんだ。……よかった」
リリが肩をなでおろした。(よかったって何がだ……)
「デウスっていうやつで、俺の元パーティ仲間なんだ。当時は戦士としてたくさんの危機を救ってくれたんだ。こいつが居なければ俺は魔王討伐ができなかっただろう」
「ふーん、そうなんですね。ところで師匠は何でクレープ屋を始めたんですか」
「それはね、魔王を倒したからだ」
「師匠はいつもそればっかり、ちゃんとした理由を教えてください」
「大人になればわかるさ」
「あぁーまた同じセリフ! だから27になっても独り身なんですよ」
グサっ
「彼女なし」
グサグサ!
「不器用! 包丁使えない! クレープ屋なのにクレープ焼けない!」
グサグサグサグサ
何かが俺の心臓に突き刺さる。物理的攻撃は魔術で防げるが、精神的な攻撃はどう頑張ってもふさげない。魔王の城にいたヴァンパイアの洗脳攻撃を食らったときも俺はヒーラーのモモカに助けられなければ倒すことができなかった。
リリの詠唱を遮るように俺は……
「と、と、と、とにかく行くぞ! そして次の国に行くからな」
「はぁーい」
俺たちは支度を整えるとデウスのいる商店へ足を運んだ。
◆◆◆
デウスの店「ふぁんしーしょっぷ」
「おう! サエキじゃあないか! 久しぶりだな! 3年ぶりか?」
「ああ、久しぶり。お前は相変わらずか?」
「当たり前だろ。おまえは今何をしているんだ」
今もデウスは赤い髪、筋肉質で明らかに商人の面影はない。3年前に付いた魔王討伐の時に付いた目の傷がまだ痛々しく残っている。
「あわあわあわあわ……なにこのおじさん怖い」
(リリもデウスを怖がっている。そりゃあこんな強面キャラだもんな、かわいそうにデウス……)
「俺はいまクレープ屋をしている。魔王を倒したからな」
はっはっはとデウスは大きく笑った後、
「そりゃあお前らしいわ!」と納得の表情を見せた。
「んで、お前の隣にいるのは?」デウスはリリの方を見つめつぶやいた。
「ああ、リリといって俺の店を手伝ってくれているんだ。こいつの作るクレープは最高においしいんだ」
「うぅ……」
リリは若干頬が赤くなった? ような気がする
「ということは、お前の嫁という事か!」
びくっ
リリはまたびくっとした後、頬が赤くなる。ような気がする。そしてとどめのデウスの一言。
「リリさん、こいつあほで不器用でダメダメだけど、ちょっとだけいいやつなんだ。だから大事にしてくれよな」
びくっ
「ははははは、わたしは……あの……あの! この人は彼女とか結婚相手とかではなくて、今日も私の選んだ服にケチをつけたりするとんでもなくデリカシーのない人だけど……馬鹿だけど……」
リリが早口でいろいろ喋っている。途中聞き取れない
「大丈夫だ、リリ。俺はどんなことがあってもお前は……子供は恋愛対象外だからってえええ!」
ゴスゴスゴス
「ぐぅううう! リリ! いきなり腹パンは防御不能だぞ!」
「私が子供でわるかったなあああああ!」
俺は看板娘のリリから防御不能の攻撃を受けるのだった。