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俺「本日も晴天なり」

「本日も晴天なり」


ここはジュウマンジ大陸の中にある「アデル」という国だ。冒険者協会本部がある場所で、ギルドやパーティを組むのにうってつけの国である。


挿絵(By みてみん)

さて、サエキアラタは移動型クレープ屋メルティの店主だ。

実は彼は18歳の時にひょんなことがあって異世界に飛ばされてしまった。理由はお察しの通り交通事故。それから約5年間、伝説の勇者として世界を回りやっとの事で魔王討伐に成功した。魔王は強く今まで身に着けた魔術だけでは力及ばずで相当苦労した。だから俺は最高位魔術を「ある対価」とともに手に入れ魔王を討伐することができた(このことはまたいずれ追記していくことする)

その後、一緒に旅をしたパーティと別れそれぞれの道を歩み始めた。

 あれから約3年経過したが、一緒に旅をしたヒーラーのモモカ、戦士のデウス、ウィッチのアイシャ、あいつらは今元気だろうか。そう考えながら俺は空を見上げる。

「師匠、アデルの国今日で99日目ですね」

お手伝いのリリは調理台を清掃しながらもの惜しそうにつぶやいた。

「明日は旅立ちの日だな」

『100日移動』

この移動型クレープ屋メルティは名前の通り諸国を移動しながら経営をしている。このアデルの国は永住権を取得していない限り99日の滞在が認められており、明日の100日目にはこの国を出国しなければならない。もちろん金を払えば延期することは可能だが、サエキは明日の朝、この国を出て別の国を目指すのだ。もちろんこれはデメリットだけではなく、新しい国に行けば新しいお客様がクレープを食べてくれる。また、期間限定という言葉に惹かれてやってくる客も少なくはない。移動式料理屋は理にかなっているのだ。

「私、もう少しこの町にいたいと思いました。本当にいい町でしたね。」

「ああ、そうだね。でも明日出国する決まりは変わらないから、今日はお昼が終わったら早めに店を閉めて準備をしよう」

サエキはそうつぶやくと自分の仕事に戻る。自分の魔術を利用してクレープ生地を作っている。


『空間転移』、『亜空切断』、『多種錬金』……


名前を聞くだけでわかる、超高等魔術で何をしているのか? 

クレープ生地を作っているのだ。

「はぁー」

リリが少しため息をついた後、つぶやいた。

「師匠、食材を倉庫にしまっておくために超高等魔術の空間転移を使用する事はぎりぎりわかります。ぎりぎり。ですが、果物を切るために超高等魔術の亜空切断や、生地を混ぜるために多種錬金を使うより、包丁と泡だて器を使えばいいと思います。無駄に魔力を使わなくとも良いのではないですか」

「あー、そうだよね。普通はそうだけど……俺、伝説の勇者だったからさ」

「? 伝説の勇者という事は教えてもらいましたけど、それがまたどうして?」

「実は魔王を倒すためにステータスを最強にしてしまって……」

解説しておくと、4年前に剣士の国「ワウフ」にて剣の大修行を行ったのだ。結果的に高い攻撃力を手に入れたのだ。しかし魔王を倒した今ではそれが逆効果に働いている

「包丁を使ってみようとしたらさ、まな板ごと切れてしまったり、泡だてすぎて熱で固まっちゃってさ……、どんなに力を抑えても何かを装備したら最強になっちゃうんだよ、俺」

「な、なるほど。だから両手に何も持たない状態でクレープ生地を作れる亜空切断や多種錬金を……。ああ、なんてもったいない」

 伝説の勇者だったサエキにもその力ゆえできない事があるのだ。

「そう、だから実際の調理をリリにお願いして、俺は裏でこっそりと生地作りの準備をしている」

「理解はできました。でも、サエキさん。どうして伝説の勇者であるあなたはクレープ屋さんなんて開いたんですか?」

 リリはずっと疑問に思っている、伝説の勇者が、あの伝説の勇者がなぜクレープ屋?

「だからずっと言っているだろう? 魔王を倒したからだって」

「むう! 師匠はいつも同じことばかり」

リリは口を膨らませサエキに言う。

「ははは、いずれお前が大人になったらわかるさ」

「師匠……じゃあ私が大人になるまでちゃんと導いてくださいね」

「もちろんだ、リリは俺にとって大事な家族だからな」


ゴーン

「さあ、ラスト1日頑張るぞ!」

朝の鐘が鳴った。この国では朝の時間、昼の時間、夕方の時間にそれぞれ3回鐘が鳴る。店舗を持たない行商が許されるのは朝から夕方の鐘までだ。

サエキが荷馬車の横に看板を立て掛ける。


「いらっしゃいませ! クレープ屋メルティ! 開店になります! 本日が最終日です!」


ああ、今日もお客さんで賑わうのだろう……


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