長老「まさか伝説の勇者様が悪しき手に染めるなんて思わないのじゃ」
◆◆◆
3日後
俺たちパーティは解散した。
そして魔王を倒した後の夢へと向かい歩き出す。
デウスは彼女のいるデコの国へ、アイシャは魔術を勉強しにグリムロの国へ、モモカは教師になるためアデルの国へと向かった。
しかし俺はまだワウフの村に滞在していた。
「やることが……ない」
そうなのだ、やることがないのだ。
魔王を倒したのでジュウマンジ大陸全体から多額の報奨金を手に入れた。その額3億3000万カンだ(1円=1カン)。働く必要はもうないのだが、このように一日中毎日ダラダラしていては体がなまってしまう。衣食住に全く困っていない、むしろオーバーな俺はどうすればよいのだろうか。
「ガララさん、ちょっと行ってくるよ。夜には戻ってくるよ」
「おお、魔王を倒したのにも関わらずなんてごりっぱな! 気を付けてな」
俺はワウフの村を出て少し歩く。
……暇だ。
まるで職を失った中年男性のように、俺はプラプラと道を歩く。
もう俺は暇すぎるのだ。
ワウフの村人たちが
「よいっしょー」「よいっしょー」と農耕していたのに気づいたとき、俺もそれを手伝おうと思って声をかけた。
「そんな! 伝説の勇者様が農業なんてとんでもない! 私たちがやりますので」
「あ……はい」
冒険者協会第93支部(ワウフの村から30分ほど歩いたところにある小さな冒険者協会)
「まあ、伝説の勇者がクエストをしてしまうと他の人たちの仕事がなくなってしまいます。若い世代を作ると思ってゆっくり休んでいてください」
「あ……はい」
(ああ、最悪だ。魔王を倒す前は気軽にできていたクエストも受注できなくなってしまった。どこに行っても俺は何もできない。なんで魔王を倒した英雄である俺が困窮しないといけないんだよ。こりゃあ魔王を倒したのが間違いだったのか? ええ?)
◆◆◆
ワウフの村
「ただいま……」
「おお! 帰ったか! 待っていたぞ! ちょっと来い」
長老ガララに連れられ、俺は村の集会所へ案内された。そこには10歳前後の少年少女が10人ほど縄で縛られていた。彼らはひどくやせ細っており、服も服とは言えないような皮を羽織っているだけであった。
「ど、どうしたんですかこの人たち」
「ああ、こいつらはこの村で盗みを働こうとしたんじゃ。こいつは食べ物を、こいつは衣服を盗もうとした。子供だからと言って無断で村に侵入させたわしが悪かったかのお」
「ゴ……ゴメンナサイ」
そこにいた小さな少年はつぶやいた。
「さて、こいつらを衛兵に引き渡そうと思っているのじゃが……」
俺がいない間に村にちびっこ盗賊団が現れたってことか。
「盗賊は魔王を倒しても消えなかったの、サエキ殿、はっはっは」
ごもっともな長老ガララのコメントにどんな言葉をかけようか思いつかない。
「まぁまあ、村長。相手は子供ですし……」
「いいや、子供であろうが盗むことは良くない事じゃ。仮に今ここで彼らを許したとしても、繰り返すじゃろう。その繰り返しがどんどんエスカレートすることで、もしかしたら第二の魔王が誕生してしまったらどうするのか? お前は責任をとれるのか」
「いや……それは……」
「こいつらは明日衛兵に付き渡す。お前はそれまでこいつらを見張っているのじゃ」
「は……はい」
俺は何も言うことができなかった。子供たちを第二の魔王になんかさせたくない。
「よし! みんな! ここは伝説の勇者サエキ殿が見張ってくださるからもう安心じゃ!」
そういってガララは集会所に集まっている村人たちを追い出した。
「あーいい忘れとった。衛兵たちに身柄を拘束するまでこいつらは生かしておく必要がある。しっかりと見張っておくんじゃぞ。それと今日は新月じゃ、我ら獣人の力は全く使えない日になっておるなー。こんな時に伝説の勇者が見張りをしておけば逃げられる心配はないなー。あーよかったよかった。まさか伝説の勇者様が悪しき手に染めるなんて思わないのじゃ」
(ガララさん)
あからさまだった。長老ガララはうわべ上では村の治安のために、ちびっこ盗賊団を衛兵に引き渡そうとふるまうも、本当は逃がしてあげるつもりなのだ。おまけに逃げるタイミングも教えてくれるなんて。
「ガララさん……」
「なんじゃ? 伝説の勇者様」
「あ、ありがとう」
「はい? 何のことですかな? はっはっは」
そういって長老ガララも集会所を出て行った。




