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7. 生まれ変わりについて

<皆さん、生まれ変わりって信じますか?>


 言い訳が何も思いつかなかったので、覚悟を決めてあたしがメモ用紙にそう書くと、マーヤとヘレとカミラはお互いに不思議そうに顔を見合わせた。


<あたしには生前の記憶があります。豚として生まれる前、あたしは人間でした。こことは違う国に庶民として生まれ、21歳の時に事故で命を落としました>


「信じらんない。あるんだ……そんなこと」


 カミラがつぶやいた。


 3人の反応からして、エリックは自分が転生者であることをこの世界では誰にも話していない様だった。そりゃそうか。


「エリックは知ってるの? あなたに生前の記憶があることを」


 ヘレの問いに、あたしは首を縦に振って答えた。


<はい。だいたい説明しました>


「それじゃ豚さんに生まれたのはつらいね」


 マーヤが言った。いつもの優しいマーヤに戻っていた。正直に話してよかったかも。


<正直ちょっとつらいですが、死ぬのはもうイヤです。豚でも何でも生きていたい。エリックにはいくら感謝してもしきれません>


 そう書くと、マーヤがあたしを抱きしめた。


「ナナちゃん……決めた。私もエリックと一緒にナナちゃんを守る」


 マーヤが言った。


「あたしは反対。マーヤの死体なんて見たくないからね」


 そう言うヘレを、マーヤはあたしを抱きしめたままさっと振り返った。マーヤの表情は見えないが、なんとなくヘレに対して怒っていることは雰囲気で判る。ヘレもマーヤに負けじと言葉を続けた。


「マーヤはあんまり政治に興味ないかもしれないけど、ランスイエルフは無敵の魔法使い集団を抱えていることで各国との交渉を有利に進めてきた。うちの……イナリ王室の幹部連中なんて、ランスイエルフの名前を聞くだけで震え上がっちゃうんだから。


 それがたった一人の魔法使いに撃退された、となるとランスイエルフの国力は急激に低下する。ランスイエルフにとってはあり得てはいけない事態なの。だから、ランスイエルフは絶対に国力を挙げてエリックを倒しにくるし、王の豚も取り返しにくる。


 あたしの言ってることの意味、解るよね?」


 ヘレが言いながらマーヤに詰め寄った。


「うん。でも……」


 マーヤはあたしを抱く腕に力を入れた。この細い腕のどこにこんな力があるのだろうと不思議に思うぐらい強い力であった。


「でも、今回の件、責任の一端は私にある。ましてやエリックが自ら私を頼ってきたんだし。私はエリックを裏切れない」


「ええと……」


 ヘレはため息をついた。


「相手は国家なんだけど。とても個人で対抗できる相手じゃないよ」


「じゃあ、どうしろと?」


 マーヤの問いに、ヘレは少し考え込んだ。


「正解は判らない。ただ、今のエリックのやり方が間違えであることだけは判る」


 考えた末に、ヘレはそう答えた。


「どういうこと?」


「今、エリックは、ランスイエルフを倒したい国を見つけそこに雇ってもらおうとしてるよね?」


「うん。カミラの話では、それは問題無さそうだって」


「いやいや、公式には世界は今、複数の王国が対等に渡り合っていることになってるけど、本音ではどの王様もランスイエルフ軍の圧倒的な強さと残虐さにネをあげて、ひたすらランスイエルフの拡張主義が収まるのを祈ってる状態。つまり“ランスイエルフを倒したい国”ってのがそもそも無い」


「うそ」


「1年前なら全然状況が違ったんだけどね。今エリックを雇うことは実質ランスイエルフへの宣戦布告だから、自ら虎の尾を踏むような王様はいないと思う」


「この国……イナリも? イナリの軍隊って結構強いんじゃなかったっけ?」


 カミラが口をはさんだ。


「半年ぐらい前の戦争が泥沼になりかけてイナリとランスイエルフは休戦協定を結んだけど、全然対等な協定じゃなかったってのは知ってる?」


 ヘレの言葉にカミラとマーヤは首を横に振った。


「ランスイエルフ有利での休戦協定だったんで、イナリは石炭の炭鉱を取られた上に王様の二女、クリスティーナ様まで人質に取られた。イナリは今、全然ランスイエルフに対抗できる状態じゃない」


 ヘレの説明を聞いて、カミラが手を打った。


「そうだ、思い出した。クリスティーナ様って、王様が子供を一人、人質に寄こせって言われた時に、自ら自分が人質になるって申し出たんでしょ。戦争ってそういうものなのかと思ってたけど、あれって敗戦ってことだったんだ」


 カミラの言葉にヘレはうなずいたが、マーヤは目を丸くし、あたしをさらに強く抱きしめた。マーヤのバカちからは、結構痛かった。


「ただそれでも、フレデリック……イナリの王は、ランスイエルフを倒すことを諦めてない。娘の命にかかわるから大っぴらに公言はしないけど、傍で見てれば判る。下手をしたら世界で唯一諦めていない王様かもしれない」


 そこまで言って、ヘレはお茶を一口含んだ。


「だからエリックがまず最初に門を叩くべきだったのはイナリ王室だと思う。こういう強力な人脈も持ってるんだし」


 ヘレは“こういう”の所で自分を指差しながら言った。言葉が終わった後もしばらく指差し続けていたら、


「おう、エリック。あたしに頭下げろや」


 カミラがそのヘレのポーズにセリフを付けた。


「そこまでは言わないけど、もっと友達に頼れや、ぐらいは言いたいよね」


 ヘレの言葉に、カミラもマーヤもうなずいた。


「とにかくナナは、エリックが戻ってくるまでイナリ王室の方で預かるよ」


 ヘレのこの言葉には、マーヤが首を横に振った。


「ううん。それだとエリックがイナリ王室に対して借りができちゃう。やっぱりナナちゃんはここで預かる。忘れてるかもしれないけど私だって魔法使いのはしくれだから、いざとなったらナナちゃんを連れて逃げるぐらいはできるし、大丈夫」


 マーヤはヘレにそう言うと、あたしの顔を覗き込んだ。


「そういう訳でナナちゃん、今日からこの家はあなたの家だから。今後、いろいろなことがあると思うけど、なにかあったらここに帰ってくること。勝手に出て行ったら怒るからね」


 そう言って、マーヤはあたしの額にキスをした。


 知識とか能力とかの問題ではなく人間の大きさで、きっとあたしは一生この人には勝てないんだろうな、という気がした。


「頑固者め」


 ヘレはそう言って苦笑した。

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