22. 参戦前夜の出来事
ついにランスイエルフがアービスコに攻撃を開始した。
早速アービスコからは援軍要請があった。イナリとしては正念場である。5ヵ国連盟を作るためにはここで勝利し、イナリと組めばランスイエルフに勝てるのだという所を残り三ヵ国に見せつけなければならない。
このため今回、イナリは国のほぼ全戦力をこの戦闘に投入することを決定した。
ランスイエルフの向こうを張って、魔法使いも戦闘に投入することにした。5人いる魔法使いのうち男性3人を投入。リーダーはエリック。
魔法使い達の立場は一応参謀ということになっているが、ランスイエルフと戦う以上、どうしても最前線に立つ機会は避けられない筈である。
それ以前に今回の援軍の問題は、まだクリスティーナ姫の救出が実現できていないことにあった。イナリの参戦は公式にアービスコから告知されてしまっているので、ランスイエルフでいつクリスティーナの公開処刑が行われても不思議ではない状態であった。
***
出陣式の前の晩、エリックがこっそりベットから出て出かけようとしているのに気が付き、あたしは慌てて跳ね起きた。
バン!
あたしが思いっきりベッドの横のチェストを叩くと、エリックはようやくあたしが起きたこと気が付いた。
「あ、起こしちゃった? 悪い。ちょっと出かけてくる」
エリックがふざけたことを言うので、あたしは怒りを込めてもう一度思いっきりチェストを叩いた。
バン! ……メリッ。
チェストのどこかが壊れた音がした。
「おまえの言いたいことは解ってる。けどクリスティーナ姫に何かあってからでは……ラーシュ王との約束だからな」
解ってた。エリックがこういうヤツであることは。
エリックはおそらくガイルの所に行き、クリスティーナ姫返却を直談判するつもりであろう。だがその直談判が成功する確率は低い。ほぼ殺されに行くようなものである。
あたしは急いて枕元のメモ帳に手を伸ばした。
<あたしが悲しむのは平気なの? なんでそんなに死に急ぐの?>
「大丈夫、無茶はしないから。おまえは安心して待ってろ」
エリックは言った。
ダメだこいつ。こうなれば力任せに……。
あたしはベッドから飛び降り、エリックに飛び掛かった。とにかく捕まえて放さないつもりだった。野生の(?)豚の力、なめんなよ、と。
ところがエリックの動きはあたしより早く、あたしの手の間をすり抜け、星空へあっという間に消えてしまった。
あたしは部屋に備えてあったボウガンを銜えると部屋を飛び出し、四つ足で駆けて王宮を飛び出した。
ヘレの家は王宮のすぐ傍である。こんな時あたしが頼りにできるのは、なんだかんだ言ってもヘレしか居ない。ただ、夜中なので、あまり強くドアを叩く訳にはいかない。もしも小さなノック音でヘレが起きてくれなかったらどうしよう……。
そんな心配をしながらヘレの家の傍まで走ると、なんとヘレは既に外出着に着替え、家の前でほうきを抱えて待っていてくれた。唇に人差し指を当てて……。
「ナナ、足音大きい! ほら乗んな」
あたしはヘレが差し出してくれたほうきの先に飛び乗った。ほうきはあっという間に浮き上がり、ランスイエルフの方へ飛び始めた。
何で解った? と、書こうとして、メモ帳に<な>を(実際には“な”ではなく、こちらの文字の一文字だけ)書き始めたらヘレが言った。
「判り易いよね、あいつの考えって。今日、クリスティーナのことを何にも言わないのは逆に不自然だと思わなかったのかな?」
苦笑しながらヘレがあたしに話しかけた。
<ガイルさんの……>
“な”を消して、そこまで書いたらヘレが言った。
「ガイルさんの家なら知ってる。任せて」
そんなことは書こうとしてない。
<ガイルさんの家まであたしを送ったら、危険だからヘレは先に帰って>
「なに? あたしをナメてんの?」
ヘレに怒られてしまった。
失礼しました!
「確かにあんたが来なかったら、あたしは一人でエリックを追う勇気は無かったけどね。けど向こうに着いてからどうするの? ボウガンなんてガイルさんには不意打ちでも効かないよ」
<これから考える>
そう書いたらヘレが再度苦笑した。無計画さではあたし達もエリックと大差ない。




