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15. 閑話、閑話

 あたしは工務室との打合せを終えた後、自分達の部屋に戻る途中にある調理室をアニータに案内してもらった。


 調理師達は最初、ぎょっとした様子であたしを見ていた。清潔な状態を保つべき調理室に家畜を連れ込み、何らかの不衛生な状態が発生してはかなわないと思ったのであろう。


 しかしアニータがあたしを今度来た魔法使いの連れで、アニータが一目置いている存在だと紹介すると、とたんに調理師達はあたしに優しくなった。工務室でもそうであったが、アニータは王宮中至る所で信頼を得ているようであった。


 アニータに調理師達を一人一人紹介してもらっている時に、あるなべを調理師達がさりげなくあたしから隠そうとしていることに気が付き、それは何か、と尋ねてみた。


「これは……昨日のスープの残りです。後で捨てる筈だったもので、大したものじゃないですよ」


 調理師の一人が早口で答えた。

 

<豚のスープですね>


 あたしがそうメモ用紙に書くと、その調理師は気まずそうにうなういた。


<あたしはそういうの気にしませんので、中を見せてもらっていいですか?>


 そう書くと、調理師はおそるおそるという感じでなべふたを開けてくれた。中にはある程度予想した通り、豚の足が大量に煮込んであり、豚足から溶けだしたゼラチンでスープはゼリー状に固まっていた。


<もしもこのスープを本日使う予定が無いのであれば、こんな料理はいかがでしょうか?>


 あたしは高速でペンを走らせ、イラスト付きである料理のレシピを書いて見せた。


 それを見た調理師は急に笑い出した。


「これは面白い。……けど、本当に作ったら、王とか王妃に怒られないかな?」


 調理師の笑い声を聞いて他の調理師達も集まってきて、あたしのレシピメモを回し読みしては、唸ったり笑ったりしていた。


「うちの王族の方々は珍しいもの好きだから、これ、やってみるか」


 料理長らしき人物がそう言うと、調理師たちはワッと盛り上がった。


「アイディアありがとう。おまえ、面白い豚だな」


 料理長らしき人物があたしにそう話しかけると、アニータが膨れた。


「ヤンさん、ナナちゃんは私の尊敬する先生だって説明しましたよね? 『おまえ』はないんじゃないですか?」


「あ、いや、これは失礼」


 ヤンさんと呼ばれた調理師は気まずそうに頭をかいた。孫に叱られたおじいちゃん、といった風情であった。


 ***


 その日の夕食はエリックの部屋で、ヘレをゲストに招いてあたしと3人で食べた。アニータが給仕をすると言って残ろうとしたが、エリックは俺、貧乏生活が長くてそういうの慣れてないからと言ってアニータには早めに仕事を上がってもらうことにした。


 それでは、と言ってアニータは食卓からちょっと離れた席でノートを取り始めた。今日はいろいろなことがありすぎて、今メモを取っておかないと忘れそうなので、これだけはここで書かせてくれ、とのことであった。


 ちらっと覗くとエリックの好みとか指示とかが見やすく適格にまとめられ、頭のいい人のノートだな、という感じであった。


「ヘレには今回、本当に世話になった。当面頭が上がりそうにないな」


 エリックがヘレに言った。


「むしろあたしの方があんたと友達だってだけで評価が上がって得したような気がするけど、恩を感じてもらえるならしっかり返してね」


「あ、ああ」


 エリックはヘレに言葉では敵わない模様。


 満足げ笑みを浮かべつつ、ヘレがお皿の上の白い小さな団子状のものをスプーンで取った。口の中に放り込み、かみしめたとたん、ヘレの表情が笑みから苦悶に豹変した。


 エリックがヘレの急変を心配し立ち上がろうとしたが、ヘレが慌てて大丈夫だから席を立たないようにと目を白黒させたまま手振りで示した。


 アニータが下を向き、ぴくぴく震えていた。明らかに笑いをこらえていた。


 エリックはハッと気が付いた様子で、自分の皿の上の白い小さな団子状のものをナイフで半分に切った。中から熱いスープがどろっと流れ出てきた。


「ナナ、おまえだろ」


 エリックが言った。さすが、いい勘してる。


 あたしがペロっと舌を出すと、エリックがあたしを小突いた。なんかうれしい。


「こっちの料理人に小籠包仕込むなよ」


 エリックはあたしの耳に口を近づけ、ヘレに聞こえない程度の小さな声で言った。


「たく、調理室までナナの庭かよ」


 エリックがそういうと、アニータがパタリとノートを閉じ、あわてて帰り支度を始めた。


「あの、私はこれで……」


「おまえら、いいコンビだな」


 エリックが笑いながら言うと、アニータがビクッと反応した。


「???」


 ヘレは不思議そうにあたし達3人を順番に見比べていた。


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