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11. お帰り、英雄……あれ?

 確かエリックは数日と言っていた筈だが、エリックがマーヤの家に戻ってきたのは結局一週間後の丁度ヘレとカミラが遊びに来ている時であった。


 ……と、いうか、二人はここの所毎日時間を見つけてはマーヤの家に来ている。ヘレの情報によれば、ランスイエルフの魔法使いの姿がここ数日、頻繁ひんぱんにイナリ国内でも目撃されるようになってきたのだそうだ。つい心配で……と、二人とも口をそろえて言っていた。


 もっともマーヤとエリックが付き合い始めたのは半年前、市中でしょぼくれていたエリックの背中をマーヤが押し、エリックが新しい道を歩きはじめたのがきっかけなのだそうで、二人の関係を知っているのはまだヘレとカミラぐらいしかいないとのことだった。そのためこの線からランスイエルフの探求の手がマーヤに届くことは無いだろう、というのがヘレの見立てであった。


 むしろ心配なのは、マーヤの家を頻繁に出入りし、あまつさえマーヤの客にお茶出しさえする、無駄に目立つ豚……つまりあたしの方だそうだ。


 ランスイエルフの魔法使い達が街中で聞き込みをする際は「豚を連れた魔法使いを知りませんか?」という訪ね方をするだろうから、そのときにマーヤの名前を出してしまう人が居ても不思議は無いだろう、とヘレは言っていた。言われてみれば、もっともである。


 もっとも、なのだが……公園で本を読んでいたりすると珍しがって話しかけてくる人は引きも切らず、あたしも人との会話は嫌いな方ではないのでいろいろと話し込んでいるうちに街中に知り合いがポチポチ増えて……たった一週間でなんだか街の有名人(豚?)みたいになっていた。


 その話をすると、


「ばか~。ナナはもっと賢いと思ってた」


 ヘレに怒られた。


 ただその後ヘレが入手した情報によれば、ランスイエルフでは盗まれた王の豚は何故か“普通の豚”ということになっており、人間の言葉を操る妖怪豚は逆に探索の対象外とされているらしかった。その根拠は判らない。


「とにかく、エリックはあたしがみっちり叱ってやる」


 ヘレがそう宣言したところで玄関のドアがノックされた。


 居間でヘレが腕を組み、カミラ(と、あたし?)がニタニタして待っていると、マーヤの後から憔悴しょうすいしきったエリックが入ってきた。


「お帰り、英雄……あれ?」


 カミラの明るい声は、エリックがまとった空気とあまりにかみ合わなかった。


「よう、こないだは悪かったな」


 エリックも明るくふるまおうとしているらしいのだが、その態度には無理があった。


 エリックはマーヤに案内されるままカミラの隣に座ったが、しばらく口を開かなかった。


 あたしがエリックにお茶を差し出すと、おや? という顔であたしをちらりと見たが、あとは黙ってお茶を飲んでいた。


七海ななみ……ナナが世話になった。このお礼はいつか必ず返すが、今はその余裕がない。これからナナを連れて、少し遠い国まで俺を雇ってくれる国を探す旅に出かけるつもりだ」


 お茶を飲み干すと、やっとエリックが口を開いた。


「こら。エリックって昔っから問題を一人で抱え込むよね。お姉さんが聞いてあげるから、何があったか言ってごらん」


 マーヤが言った。


「悪い。話すと長くなるから手短に言うと、ナナや俺が傍にいると、おまえが危険だ。俺たちはしばらく会わない方がいい」


 エリックがそう言うと、マーヤは自分の顔をエリックにぐっと近寄せた。ほとんど額がぶつかりそうなほどに。


「そんなことは聞いてません。何でそんなに落ち込んでんのかって聞いてんの」


「俺、落ち込んでるか?」


「うん」


「だとしたら、知らずにおまえを危険にさらしちまった自己嫌悪かな」

 

「うそ。そういう種類の憔悴しょうすいじゃないでしょ」


「何でそう思う?」


「判るよ。エリックのことは」


「……」


「……」


 二人は間隔10cmで見つめ合ったまま黙ってしまった。


 あたしはエリックに対する質問を走り書きしたメモをこっそり折りたたんだ。メモを書く前に想定していた方向に話が転がらなかった為だ。


 ところが、ポケットにメモをしまおうと一瞬紙から手を放したすきに、メモ用紙がふわりと浮き上がりカミラの手元に収まった。魔法使いはずるい。あたしは咄嗟とっさに両前足で×を作ってカミラに示したが、カミラはあたしのメモを声に出して読んでしまった。


「ナナちゃんが『ランスイエルフの魔法使いとどの国で戦いになったの?』だって。どういうこと?」


 とたんにエリックが青ざめ、事態を察したマーヤはエリックを抱きしめた。


「大丈夫。私がついてるから」


 マーヤがエリックの後頭部を右手で撫でながら言った。


 ヘレは声を出さすに唇の動きだけでカミラに「ばか~」と言い、カミラは両手を合わせてマーヤに謝意を示した。


 マーヤがエリックを抱きしめたまま、怖い顔であたしを睨んだ。


「どうして判ったの?」


 マーヤがあたしを詰問する声はドスが効いていた。怖い。マーヤを怒らせると本当に怖い。(しかも文を読んだのはあたしじゃなくてカミラなのに……)


 仕方なくあたしは解説を書きなぐった。


<あたしたちはヘレから聞いてるから、ラーシュ王が『エリックを殺して豚を取り戻せ。豚の生死は問わない』って命令を出したことを知ってるけど、普通の人は知らない情報だとヘレが言っていた>


<ところがエリックはこのことを知っていた。と、すれば、エリックを探しているランスイエルフの魔法使いとどこかで会い、この話を聞いたとしか考えられない>


<ランスイエルフの魔法使いがエリックと会えば、殺害せよと指令を受けている以上エリックを襲わない訳はない>


<ところがエリックはこうして生きている。と、すれば、エリックが相手を倒したとしか考えられない>


<人を殺したことのないエリックが初めて人を、それも元々仲間だった誰かを倒したのだとすれば、あの落ち込みようは納得できる>


「すげえな、ナナは」


 エリックがつぶやいた。


 あたしは書きなぐったメモをマーヤが読めるように持っている。エリックはマーヤが抱きしめているので、あたしに対しては背中を向けている。メモ用紙が見える筈はないので「すげえな」が何を凄いと言っているのかこの時は判らなかった。


 あとでヘレが、エリックは隠れているものも見えるのだと教えてくれた。そういえば最初にエリックに会った時も、あたしのべーを見られてたっけ。


 ちなみに、魔法ってどこまで遠くに作用させられるのかもヘレに聞いてみた。見えるところまで、だそうだ。それもあってエリックの魔法使いとしての能力は高いのだそうな。


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