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勇者なんかイヤだと帰還した男の新生活構築記  作者: hachikun
地球で異世界旅?
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情報[2]

 落ち着いたので、内容についての話になった。

「ユー、召喚の魔法陣を改造してエネルギー吸収って、どういうこと?よくわかんない」

 ああ、技術的なとこがわかんないのか。

「言っとくけど俺も専門家じゃないからな、あくまで憶測だぞ?」

「うん、おしえて」

「わかった」

 

 

 あちらの世界の研究書によると、そもそも召喚とは「ここではない場所から望みのものを取り寄せる」技術の一つらしい。要するに『引き寄せ魔法』のたぐいと思えばいい。

「たとえばホレ」

 手をかざすと、その手にボールペンが一本現れた。

「なに?」

「俺の部屋にあるボールペンをひき寄せた。このように、近くにある『物体』なら取り寄せができるわけだ。ここまではわかるか?」

「うん」

 魔術師の中でも、移送術士って言われる連中の得意技だな。

「このように取り寄せや引き寄せは便利なものだが、でも、できない事もある。

 たとえば、生き物を引き寄せるのは難しい。

 特に自分の意思をしっかり持っている種族のソレは困難なわけで、そのために召喚魔法、意志あるものを強制的に引き寄せる魔法が作られたんだ」

「え……じゃあ召喚魔法って、異世界から呼ぶための魔法じゃないの?」

「おう、いい質問だな。

 召喚魔法ってのは元来、自分の世界に重なっている異界……すなわち精霊界や魔界、神界などから、この世でないものを呼び寄せるために開発されたもんだ。

 まして、まるっきりの異世界から、しかも人間を呼ぶって事になると、これはもう人間に作れるような魔法じゃないんだな」

「人間に作れない?でも」

「ああ、川の向こう岸にいる人間をポンと手元によせるのはたしかに可能だ。橋が落ちた時に代替サービスでよくやってるよな?」

「うん」

「ところが、異世界から呼び出すとなるとそう簡単にはいかないんだ。で、それを超えるのが人間には難しくてな」

「え?じゃあユーを召喚した魔法は?」

「女神だ。あいつが、じきじきに人間族に伝授したらしい」

「そうなんだ」

「ああ」

 まったく、ロクでもない事しやがる。

「異世界召喚には難しいロジックがいくつかあるらしいんだが、これは俺もよく知らないから省略するぞ。

 重要なのはな、発動先(・・・)の世界でエネルギーを集める必要があるんだ」

「……チキュウからユーを召喚するために、そのチキュウでエネルギーを集めるってこと?」

「ああそうだ」

「どうやって?」

「さて、それがわかれば簡単なんだけどな。

 ただ、現実に俺は召喚されたんだから、エネルギーは集められてるはずだ。

 女神の作った召喚魔法陣は難解かもしれないけど、それでも魔法陣は魔法陣だ。ちゃんと決まった法則の下で動いてるし、理不尽な動作をするわけでもない。

 実験すれば原理はわからなくても、各部の機能くらいは割り出せたんだろう」

「……どうやってるかは知らなくても、使い方が合ってれば結果は得られるってこと?」

「そういうことだ」

 俺は、ためいきをついた。

「人間からエネルギーをとるロジックが最初から入っていたのか、それとも後から追加したのかは知らないけど……やってくれるよ、まったく」

「んー、でもなんで人間からとったのかな?もっと便利な生き物がいるんじゃないかな?」

「一度は俺、つまり地球人を召喚してるんだ。その術式を使うんだから、そもそも人間しか選択肢がなかったんじゃないか?」

「え?そんな理由?」

「たぶんな」

 マオの言葉に、俺は即答した。

 

「チキュウにゾンビがいっぱいいるのって、人間族のせいなんだね」

「ああ」

「それでユー、これからどうするの?」

「どうするって……そうだなぁ」

 俺は少し考えた。

「何よりもまず移動、それから情報収集かな」

「移動?なんで?」

「ここが、いや東京が安全とは思えないからだよ」

 俺は肩をすくめた。

「今のところ俺が知ってるのは、この東京に生きてる人間がたった21人しかいないって事だけだ。

 けど、東京だけで人口は920万もいたはずなのに、たった21人しか生き残りがいないのは異常すぎる。もっと情報が必要だな。

 だけどそれ以上に、まずは東京をでなくちゃ。一日もはやく」

「そうなの?」

「マオ、身の回りに野放しのゾンビが推定920万もいるかもしれないんだぞ?920万のゾンビ、相手したいか?」

「やだ」

「だろ?」

 今のマオの鼻がどれくらい効くのかは知らないけど、そんな馬鹿げた数のゾンビの相手はごめんだろう。

「しかも、ここじゃ食料も水も自給できない。外に出ないわけにはいかないんだよ」

「……」

「都市として機能していれば、東京は情報集めにピッタリなんだけどなぁ。

 人がいなくなってライフラインも止まっちゃったら、東京は巨大な墓場だよ。大量のゾンビつきのな。

 思い入れはあるけど、さすがに住めないよ」

「……」

「そして、これが移動するべきと思う最後の理由なんだけど」

「まだあるの?」

「ある、そしてこれが一番やばい」

 俺はためいきをついた。

「人類側の勢力がどうなってるか知らないけど、もし日本政府や自衛隊が無事に稼働していた場合、この東京の状況はまずいんだ。

 最悪、ゾンビを始末するために首都圏丸ごと焼きにくるかもしれないぞ」

「え?中に生きてる人がいるのに?」

「こっちの人間は、精霊に調べてもらう事ができないんだ。

 全滅してると思われても不思議はないよ」

「……」

 マオは黙り込んでしまった。

 実際、ゾンビ掃討作戦なんて行われたら、環八の内側なんて皇居以外は丸焼けにされるだろ。生存者がいないなら、かつての大空襲のように都市ごと焼き払ってしまうのが、一番いいゾンビ対策だからな。

 巻き込まれてたまるかよ。

「まぁ、精霊に情報収集頼みつつ移動しよう。行き先は伊豆かな?」

「イズ?」

「あとで地図を見せて説明するよ。

 地方ならどこでもいいとは思うけど、伊豆半島はふたつのメリットがあるんだ。

 まず、うちは両親が伊豆が好きで、子供の頃からよく行ってたから多少の土地勘がある。

 次に、半島になっていて、先に進むほど人口密度がどんどん低くなるんだ。

 町をつなぐ道も限られてるから、ゾンビ対策がしやすいんだよ」

「そっか。ゾンビは道を歩いてくるもんね」

「おう」

 ゾンビは基本的に生前の行動パターンを繰り返す。

 人間の道をきちんと歩いてくるし、交差点で左右の確認をするヤツまでいる。

 だから、連絡道も少なく立体的な都市構造もない地方が対策しやすい。

 

「ユー、あと向こうにも、時々連絡したほうがいいと思う」

「ん?連絡をとりあえってことか?なんで?」

「あっちの世界で今、エネルギーを盗ませない対策をしてるの」

「え、地球のために、わざわざ向こうの連中が?」

「ううん違う、そうじゃないの」

 ふるふるとマオは首をふり、そして言った。

「チキュウからうばったエネルギーを、人間族は戦争に使ってるの。魔大陸はもう、ひとが住めなくなっちゃったんだよ」

「……おいマジか」

「うん」

「どうやって?」

「えっと、コダイ・ヘ・イキっていうのを使ったんだって」

「こだい?……古代兵器!?あれを使ったのか!」

「ユー、知ってるの?」

「ああ、人間族の国で見たことがある。

 たしか、まだ動くけど使用エネルギーが莫大すぎて、今は単なる巨大遺跡だって言ってたけど」

 

 あれはよく覚えてる。

 なんせ中世ヨーロッパ風ファンタジー世界にいきなり、高さ数百メートル、長さで1.2キロ以上もある巨大な、宇宙ものSF映画の産物みたいな兵器があったんだぞ。あれは驚いた。

 当人もよくわかってない案内人の話をまとめるに、莫大なエネルギーをもつけど特殊な鏡で反射できるもので、古代人が天空に打ち上げた鏡で反射させる事により大地のはるか彼方を町ごと、山ごと吹き飛ばす武器なんだとか。

 どこの反射衛星砲だよって驚いたもんだ。

 

「剣や魔法で戦う世界で、あんな未来兵器なんか使ってどうすんだ馬鹿野郎が。

 ……ってそうか、それのエネルギー源が地球から奪ったエネルギーってことは」

「うん。次を撃たせないために向こうの設備を壊してたよ。

 再利用はされないと思うけど、色々あるから連絡をとりたいって」

「わかった、じゃあ急がないとな」

 俺は大きくうなずいた。

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