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けいじ

「真一郎さん、どうかお気をつけて!さくらさんも!」

「また会おう、ユウくん!」

「アオゥー!」

 翌朝、真一郎・さくらコンビは再び、旅立っていった……。

 一度、西伊豆で一人暮らししているヨシオ爺さんのところに寄るそうだけど、その後は沼津方面に抜けて西を目指すらしい。

「西かぁ……」

「ん?なに?」

「いや、大したことじゃないよ」

 なになに?とマオが顔を向けてきたので、軽く説明してやる。

「親父に昔聞いたけど、もともとウチのご先祖様は紀州、和歌山にいたらしいんだ」

「ワカヤマ……」

「あれ、あのひとたちの予定に和歌山県あったんじゃないですか?」

「うん、あったね」

 ユミの指摘にうなずいた。

「だったら……」

「ありがとう、でも無理なんだ」

 俺は肩をすくめた。

「すでに何十年も行き来がないんだよ。

 詳しい住所も知らないし、この状況じゃ調べようもないしね」

「なるほど……情報はあるんですか?」

「ご先祖様が神社の家だったらしい事くらいかな?

 明治時代の事だけど、そこの娘さんの元に、ひとりの若き総髪の時計商がやってきた。

 やがて二人は惹かれ合い、ついには結婚する事になったけど、まわりは大反対。

 結局は里を出て、まずは串本ってとこに移動。

 そこから、さらなる新天地を目指して旅立ったらしい。

 このふたりが、俺の曾祖母(ひぃばあちゃん)って事になるらしい」

「新天地?」

「四国だってさ。

 けど、色々あってね、実家と両親の縁が切れちゃってるんだよ」

「あらら」

「一度切れた縁はなかなか戻せないよね……しかもこのご時世じゃ関係者が残っているかもわからないうえに、たとえ生きてたとしても、ご先祖様なんて、のほほんと調べてる場合かよって言われて終わりそうだし」

 

 正直いうと、免許とったら訪ねてみようとは思っていたんだよね。

 かつて、ご先祖様が住んでいた土地を見てみたい……たったそれだけの理由なんだけど、旅の理由には充分だって親父も言ってたし。

 だけど、こうなったら何年後になる事やら。

 

 親子かぁ……。

 仲良く去っていったあの二人は、正しくは親子関係でなく義理の兄妹みたいだけど、たぶん歳は義理の父娘といってもいいくらいに離れてたし、雰囲気も似たもの同士の父娘って感じだった……まぁ、単純に父娘と言い切れないところがあるのはもちろん家庭の事情ってやつだが。

 けど、いいなぁ。

 

 そんな事を考えていたら、マオが唐突に動いた。

「ねえユー」

「ん?どうしたマオ?」

「赤ちゃんできた」

 お?

 子供ができた?

「ほほう、そりゃめでたいな!」

 しかしまぁ、気の早いヤツもいたもんだ。

 まだ俺たちですら転移一ヶ月もたってないし、エルフたちはもっと短いってのに。

「それでマオ、誰が妊娠したって?」

「マオ」

「ほう?そうかそうかマオが……って、ちょっと待てオイ」

「なに?」

「マオ……俺の聞き違いか?おまえが妊娠したと聞こえたんだが?」

「そうだよ」

「そうだよっておまえ、そんな」

「……イヤなの?」

「アホか、何ボケてんだ、イヤなわけないだろうが!」

 眉をしかめ、なんか悲しそうなマオに反論した。

「そうじゃなくて、なんでそんなノリ軽いんだよ!犬の子猫の子じゃねえんだぞ!

 思わず、そのままそうかって流しそうになっただろうが!」

「マオは猫だよ?」

「そーいう事を言ってるんじゃない!」

 クスクスと笑い声が聞こえてきた。見たらユミが苦しそうにおなかをおさえていた。

 ジロッと見てやると、痛みをこらえつつ笑顔でサムズアップしてきやがった。

 お、おう。

 なんかよくわからんけど。

 ていうか、ごまかされたような気もするけど。

「それよりマオ、おまえちゃんと確認したか?

 他人の妊娠は知らんけど、おまえ、自分は初めてだろ?」

「うん」

「ちゃんと専門家に見てもらったか?

 本当に妊娠ならめでたい事だけど、万が一病気だったらシャレにならないんだぞ?」

 東京で再会したあの日からでも、一ヶ月とたっちゃいないんだ。

 それに、マオ以外の女を知らないから断言しないけど、たぶん処女だったはず。

 

 いくらなんでも早すぎないか?

 あの日から、わずか一ヶ月だぞ。

 一ヶ月で、はっきり本人が体感できるほど妊娠ってわかるもんなのか?

 

 しかし。

 

「マオさん、先日エルフの助産婦のとこ行ってましたもんね。

 当たりでしたか、おめでとうございます」

「うん、ありがとう!」

 なんだと!?

 まさかのユミの発言に目が点になった。

「診てもらってたのか?俺、初耳なんだが?」

 そういったらユミが苦笑した。

 ユミのその笑いで、ワザと秘密にされていたと俺も気づいた。

「なんだよ、もしかしてサプライズでも狙ってたのか?」

「さて、マオさんの内心のお考えまではちょっと。

 わたしの方は、単にまだだと思っただけです」

「まだ?」

「こちらで再会したばかりと聞いてましたからね。

 ユウさんも、まだ早いんじゃないかって思いましたよね?わたしもそうでした」

「……くどいようだけど、それが言わなかった理由になるのか?」

「なりますよ。

 だって妊娠に関する相談ってことは、場合によっては夜の相談も含むんですよ?」

「……何が言いたい?」

「あのですねえユウさん。

 女同士の生々しい夜の話、聞きたいですか?

 殿方も殿方同士で、女について下世話な話をするでしょう?同じですよ?」

「……」

「はぁ、困ったひとですねえ。

 それじゃあですね……。

 たとえば、アレをくわえた時に鼻の穴におへその下の体毛がモショモシヨして、思わず咳き込んで、旦那のアレに噛みつきそうになった話とか聞きたいですか?

 それから……」

 げ。

「おいやめろ、つーか、そんな話と妊娠となんの関係があるんだよ!」

「ユウさん。

 重要なとこだけ話し合えるのは、相手が経験者か、同類の専門家の場合だけですよ。

 笑えない話ですけどね、よく聞いてみたら、ちゃんとできてなかったとか、病気の原因になるような事をしてたっていうのは、特に出産経験のない子にはありうる事なんですよ?

 だから、どういうエッチしてるかっていうのは、それなりに重要な事なんですよ?」

「……マジか?」

「マジです」

 ユミはきっぱりと断言した。

「わたし前世で経産婦でしたし、なんか一族のお産に立ち会う機会も多かったんで、よくわかります。

 ほんと、たまにそういう、ウソでしょーって状況の子いますから。

 性教育って重要だって心からそう思います」

「……そいつは俺にはわかんないな。すまん悪かった」

 

 と、そこまで言って気づいた。

「なぁ、それって別におまえらの話をしなくても、単にマオがどうやってしてるか聞き出せばいい話じゃないのか?」

「あら、もうバレたんですか?」

「おいっ!」

「あははっ!」

 まったくもう。

 

「とにかく、あんまりマオに変なこと吹き込むんじゃないっての!」

「いや、それをわたしに言われても。

 そもそも、マオさんに夜の事とか吹き込んでる主力はエルフのお姉さま方ですよ?

 あの方たち、マオさんをすごくかわいがってるでしょ?」

「……あー……あいつらはなぁ」

 エルフの猫好きは向こうの世界じゃ有名なんだけど、マオは元々、猫族(びょうぞく)最後の生き残りだったわけで。

 あの頃はよく、姿が消えたと思ったらエルフの姐さんたちに何かもらって食べてた。

 猫又と化した事でマオフィーバーも終わりかと思ったけど、彼女らにとってはあまり変わらないらしい。

 

 おっと、また話がずれた。

「エルフたちがマオに色々吹き込んでるのはわかる。

 けどユミ、おまえも色々言ってるだろ?」

「気のせいですよぅ」

「おい」

「……ユウさん、いい男はそこで同意しておくものですよ?」

「女一般にモテてどうすんだよ」

「うわぁ……この人、マオさんだけは自分を絶対嫌わないって心底思ってますよ。

 イヤですねえ、男の思い込みってキモいですよ?」

「ユミ」

 目をほそめておばちゃんのように笑うユミに、横からマオが冷静に突っ込んできた。

「ユーで遊んだらダメ」

「はいはい、わかってますって。

 ただ、あんまり二人が仲良しなんで、いじりたくなるんですよ」

「気持ちはわかるけどユーはダメ」

「はーい」

 って、わかるのかよマオ。

 女って……。

 ためいきをついていたら、ユミがクスッと微笑んだ。

「わかりました、では簡潔に説明しますね。

 おふたりですけど、東京で再会して、それからほぼ毎日してますよね?」

「あ、はい」

 あっけらかんと普通に言われて、思わず普通に返してしまった。

「すでに恥ずかしがってすらいない……熟年夫婦かっての。

 まぁ仲良しで結構ですが?

 避妊もしてないわけですし、マオさんも子供を欲しがってた。

 で、めでたく懐妊と。

 うん、別に不思議はないんじゃないですか?」

「なぁ」

「なんですか?」

「なんでそんな事まで知ってんだ?」

「わたしの役目はマオさんのサポートですよ?

 それに、わたしが合流してからも全然自重してないようですし、あからさまに精霊に音消ししてもらったりしてるじゃないですか。

 それでバレないって思う方が変ですよ」

「う……それは」

 そう言われると反論の余地がなかった。

 

 でもそうか、ついにマオが妊娠したのか。

 ついにそうか!

「……とりあえずだ。

 マジで妊娠だとしたら、しばらくは無理しないほうがいいよな。

 異種族ってだけでなく、地球人と向こうの存在って問題もあるもんな。

 よし。

 マオ、しばらくお籠りしようか。食い物は俺が調達してくるから」

「え、お籠り?ほんと?」

「って、なんで嬉しそうなんだよおまえ。お籠りだぞ?」

「ユーとお籠り、楽しそう」

「そういうことか……困ったやつだなぁ」

「ん?」

 

「過保護ですねえ……はぁ、うらやましいことで」

「何かいったか?」

「いえ、なにも?」

 

 クスクスと困ったように笑うユミに、思わず俺は首をかしげたのだった。

 

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