弓と犬
「まきゅう?」
「魔の弓という事じゃな、まぁそのまんまではあるが」
「なんかゲームか何かみたいな……」
「ふむ、まぁよい。現物を見ればわかるじゃろ。
さて。
今のそなたは力に目覚めてしまっておるし、もはや遠ざける意味もなかろう。
そして、これはそなたの両親の遺したもの。
実際に使うかどうかはともかく、そなたに渡しておくべきものであろう」
「はい」
理屈の上ではそうだな、たしかに。
「では現物を出そう……これじゃ」
そういうと、じっちゃんはどこかから大きな弓を取り出してきた。
けど、なんか変な弓だった。
たとえるならゲームの弓。
色合いなどはシンプルだけど、形状や雰囲気が実用というよりファンタジーゲームっぽかった。
マニアックなお店の店頭に、その登場するゲーム名とともに飾られていそうな感じというか。
「なにその弓?」
「わしも詳しくは知らぬな。
香織は異世界から持ち帰ったと言うておったな」
異世界から持ち帰った?
「ということは、向こうの世界産?」
「それはないかと」
弓は詳しくないんだがと首をかしげていたら、ユミが否定してきた。
「わたし、弓は専門じゃないですけど、でもこれすごく変です」
「変?」
「ありようが違うというか……何か根本的に異質なものに見えます。
少なくとも向こうの、昔から知られる、いかなる文明圏のものでもないと思います」
「……そこまで言うほど?」
「はい」
「えっと、それってつまり?」
「第3の、まったく別の世界で作られた弓なのかもしれません」
「……マジかい」
「あくまで推測ですが」
ユミの言葉に、ウムとじっちゃんが言葉を継ぎ足した。
「香織の話でもそうじゃったな。
なんでも、いくつもの世界を渡り歩き、使われてきた弓ではないかと言っておった。
しかも……そんな由来があるにも関わらず、これの製作者は日本人だという」
「……それって?」
「つまりじゃ。
そなたらの関わった世界とは異なる、さらに別の異世界で、そこに渡った日本人によりこの弓はつくられた……という事かの?
しかも作られてから世界間渡航を行い、さらに香織たちの手に渡って地球にやってきたと」
「……」
マジかよ。
「そうですか……けど俺、そもそも弓なんて使えないんですけど。
手入れすらわかりません。
そんな貴重なもの持ってても無駄になりますよ?」
「そもそもこの手の弓は、弓そのものに認められなければ扱えぬ、気難しいものなんじゃ。
じゃから、単に両親の遺品として持っていればよかろうよ」
「……」
「気になるなら、定期的に専門家に整備してもらえばよかろう」
「なるほど」
別に持ってるからって、使わなくちゃならないわけではないか。
「ま、理屈はともかく手に持ってみよ」
「あ、はい」
言われるままに弓を受け取った、その瞬間だった。
頭の中に、ザーッと雑音が走ったかと思うと、全身を何かが駆け巡ったような気がした。
なんだこれ?
「……どうじゃ?」
「なんか今、頭の中に響いたみたいな」
「ふむ、気持ち悪く感じたり、弾かれたような感覚はないかの?」
「それはないです、全然」
むしろ、ちょっと気持ちよかったような。
「嫌悪感がないのなら、少なくとも拒否はされておらぬな。
ならば、使えなくても問題はないじゃろ。しまっておくがいい」
「あ、はい」
言われるままにアイテムボックスにしまい込んだ。
「これでいいんですか?
くどいようですけど、俺、弓は使わないですから死蔵する自信ありますけど」
「言ったじゃろ?
その場合は単に、親の形見とすればよいと。
けれど、もしかしたら弓の方からアクセスがあるかもしれぬがな」
「弓の方からアクセス?」
「まぁ、その時がくればわかるじゃろ」
そういうと、じっちゃんはにっこりと笑ったのだった。
「それではのう。わしは芦ノ湖の方におるでな、用があれば来るがよいぞ」
「へ?なんで芦ノ湖?」
「実は今、芦ノ湖に『こぼると』と言ったかの。集団を保護しておってな」
コボルトだって?
思わずエルフ担当の方を見たら「しりませんー」って首をふってた。
「じっちゃん、それ初耳なんだけど。どういうこと?」
「なんじゃ、知らなんだのか。
しばらく前、野犬の集団に追われておってのう、わしが保護したんじゃよ。
それで聞けば、異世界から漂着したものの右も左もわからぬというのでな。
芦ノ湖周辺のゾンビは掃討ずみなんで、あやつらを住まわせておってのう。
……言わなんだか?」
「ものすごく初耳!」
「ですね」
俺は、しれっと去ろうとしていたじっちゃんをつかまえた。
「これユウ、痛いではないか」
「いいから情報くれ、じっちゃん。でないとここの人たち困っちまうよ」
「む?……つまり彼らは、そなたらの仲間ではないと?」
「我々の予定では、コボルト族はまだこちらに来ていないはずなのです。
知ってる者たちでない可能性があります」
「……そういう事か、あいわかった」
じっちゃんはそう言うと、芦ノ湖にいるというコボルト族について話してくれた。
「彼らの容姿は文字通り、二本足で歩く犬じゃな。
代表はルーヤと名乗っておった。地球のボルゾイという犬種に似た、物腰の上品な娘さんじゃぞ」
「その名は、南のコボルト族の族長と同じですね。
龍王様、もしかして割符のようなものを預かっていませんか?」
「これの事かの?」
「ちょっと失礼します……ああ間違いない、アフララ・ネコットの族長の印です」
預かったものの何かを確認すると、エルフ担当はうなずいてじっちゃんに印を戻した。
「それは何?」
「代表者を意味する印です。
龍王様が持っておられるという事は、アフララ・ネコットから信じ、託されているという事になります」
「へぇ……そういうものなんだ」
ただの木札みたいに見えるけど、悪意で印を奪う人とかいないのかな?
まぁ……そんな人はいないのか、それとも悪用を防ぐ技術があるんだろうか。
俺は向こうのコボルト族をほとんど知らない。
向こうは多種族が混在する世界だけど、どこにでもすべての種族がいるわけではない。
コボルトの系統でつきあいがあったというと、エルフ経由で知り合った子熊族って少数民族くらいだけど、彼らもまだ来ていない。
「本物の同胞のようですね。龍王様、彼らはなんと?」
「人間族の襲撃を受けて、村に伝わる太古のアイテムを動かしたと言うておったぞ」
「あー……そういうことですか」
エルフ担当の顔がひきつった。
「えっと、なに?」
「コボルト族は、古代のよくわからない魔道具をお宝として長年、彼らの宗教的な祠に飾っていたんですよ。
時空に干渉する魔法らしい事はわかっていたので、さわるな危険となっていたはずなのですが」
「村がやばいって段になって、ダメ元で使っちまったのかな?」
「そういう事でしょうね……あぶないなぁ。これは確認が必要ですね」
「確認?」
「問題の現物がまだあるか、動くかどうかです。
使い捨てならもう現物はないか動作しないので、ある意味安心です。
しかし、まだ動くようならむしろ厄介です。
どういう発動をするものか、現状で不意に動作することはないのか。
危険ですので確認しないと」
「たしかに」
危険な仕事が調査隊に増えちまったわけだ。
あっちゃーという顔をしているエルフ担当に、どんまいと肩を叩いてやった。
「まったくあの子たちは」
「あの子たち?」
「ああすみません、彼らとは個人的に親交がありまして」
そういうとエルフ担当は苦笑いした。
「コボルト族って、ふだんは臆病なんですけど、腹をくくると信じられないくらい大胆な事をやらかすんです。
本当にもう、何をやっているのやら」
「それはごくろうさま」
「ありがとうございます」
エルフは長命だけど、コボルト族の寿命は人間と大差ないくらいのはず。
この感じだと、長年関わってるんだろうなぁ。
とにかく一度、エルフ担当が行く事で話が落ち着いた。




