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進みだした環境整備

これで第二部終了です。


 静かな夜が開けた、翌日の事。

 俺はしばらくぶりに一日休む事にして、新居の屋根の上にいた。

 そして俺のまわりには、おびただしい精霊たちがいる。

「うん、こんなもんかな」

 マオたちが仮固定してくれた太陽電池を、精霊の手を借りてきちんと固定。防水対策などもほどこした。

 数日前と違い、南の方に意匠の異なる建物が増えている。

 ユミがドワーフたちと作った、ドワーフ式の建築物だ。

 母屋のエルフ式とは構造が異なるせいか、建物は接続されていない。かわりに結界つきの渡り廊下が整備され、もし何かの理由で片方が壊れても、もう片方にも影響がないようにされていた。

 うん、見事なもんだ。

 おそらくあの中には工房があって、ユミとドワーフたちがこれから色々作るんだろう。まぁ地球の素材で試行錯誤したいといってたから、当面は実験的なものになるだろうけど。

 

 エルフたちの最初の集落は、北の森の中に作りつつあるらしい。

 近くに風力発電所やキャンプ場があったんだけど、そこに森を戻す事も同時にやっているようだ。

 今後も住むかどうかはまだわからないけど、そこはまぁ問題ない。

 元々発電所やキャンプ場のあたりは森だった場所のはず。

 だったら、発電所やキャンプ場として使うひとがいなくなったんなら、元の森に戻したほうがいいよね。

 

 旧石廊崎集落は今、誰も住んでない。

 エルフたちの手で一軒一軒、きれいに掃除されている最中だ。

 なんでもハイエルフの巫女さんが到着したら、正式に鎮魂の儀(ちんこんのぎ)をするそうだ。

 

 南伊豆周辺に生き残りがいないのを心底残念がっていたのは、間違いなく彼女たちだ。

 もし生きてたらトラブルになった可能性だってあるというのに、それはそれ、これはこれだという。

『こんな美しい土地に住んでいた方々ですよ?ぜひお話を伺いたかった』

 ……とまぁ、エルフとはこういう人たちなのだ。

 

 ラミアたちは弓ヶ浜を起点に、石廊崎近くまでの海岸線に点在するようにして住み始めた。

 彼女らは生活領域として、水辺に近いところを好む。

 弓ヶ浜の横だけでなく、もっと近くにも小さな川があって、その河口付近も気に入ったらしい。

 ちなみに彼女たちは農耕をしないが、漁民生活が非常に得意。

 逆にエルフは農耕や森林での採取生活をよしとする。

 するとどうなるか?

 ラミアは、自分たちに入手の難しい野山の食材や調味料をエルフにもとめる。

 エルフも、自分たちだけだと不足しがちの動物性タンパク質をラミアたちに求める。

 そう。

 先遣隊にラミアとエルフが揃っているのは、そういう理由だったりする。

 

 ところでラミアはエルフと違い、元々の住人の家でも普通に利用するし、場合によっては壊しもする。

 かわりに、先人がいた事を記す小さな石碑を街道沿いに作るらしい。

 どうして小さなと強調するかというと、いずれ風景に溶け込んで風化してしまう前提で作るから。

 すべては移りゆくもの。

 エルフもラミアも基本、そういう無常タイプの世界観の中で生きている存在なのだ。

 

「……月日は百代(はくたい)過客(かかく)にして、行き交う年もまた旅人なりか」

「ユー?」

「ん?マオか」

 ふと見ると、いつのまにかマオがいた。

 

 ああ聞かれたのか。

 妙なひとりごとを聞かれたな。

「さっきの何?」

「……しりたいか?」

「うん」

「昔の旅人の言葉だよ。松尾芭蕉っていう人の残した文なんだけど」

「うん」

「いいけど、中身は別に普通だぞ?」

「うん」

「……まぁわかった」

 引きそうにないので、しまい込んであった本を取り出した。

「それは?」

「さっきの言葉が書いてある本だよ。

 奥の細道(おくのほそみち)って言って、原文は……そうだな、300年くらい前に書かれたもんだっけかな?

 それを活字に置き換えた原文と、その解説が書いてあるんだ」

 

 ──月日は百代の過客にして、行き交う年もまた旅人なり。

 舟の上に生涯を浮かべ、馬の口をとらえて老いを迎ふる者は日々を旅にして旅を栖とす。

 古人もまた、多く旅に死せるあり──

 

「……わかんない」

 ああうん、古い言い方だもんな。

「そうだなぁ。

 この世の全ては旅であり、過ぎゆく月日だって旅人。

 船に乗り、馬を引いて日々暮らす人は、その日々そのものが旅ぐらしで旅の中に生きている。

 昔にも多くの人が、旅の果てに旅先で亡くなったらしい……って感じかな?」

「……やっぱりわかんない」

「だろうな」

 俺は苦笑した。

「要するに、生きるとは旅で、みんな旅してるんだ、だから自分が旅立つのもおかしな事じゃないんだよって言ってるんだな。かりに旅路に果てるとしても、それはおかしなことじゃないんだよってね」

「……おかしなこと?」

「この序文は紀行文、要は旅日記ってやつの序文なんだよ。

 このひとは俳諧師(はいかいし)といって、いわば短い詩を連作で作って競い合ったり、誰かに詩を捧げたりする職業の人で、旅先でもそういう事をしてる。

 ほら、向こうの世界にも演奏して歌や詩でお金をもらう人いたろ?

 ああいう人が昔の日本にもいたんだよ」

「ふうん」

 懐疑的な目だな。フォローしとくか。

「言いたいことはわかるよ。そんなので生活できるのって言いたいんだろ?

 けど、この人の才を見込んで出資してくれる人がいたってわけだな」

「なるほど」

 よし、何とか理解してもらえたみたいだ。

 松尾芭蕉の説明とては、これで正しいのかな?

 もし失礼していたらごめんなさい、関係者の人。

 

  

 まぁ色々あったけど、ようやく俺の新生活もスタート地点かな。

 異世界から帰ってみたら東京が壊滅していて、それから半月以上。途中で転生者ユミを拾って一名増えたメンバーは、何とか石廊崎のすみっこに拠点をかまえる事に成功した。

 まぁ、これからやる事だらけだけどな。

 ただ最初に比べたら色々とありがたい面も出てきてる。

 たとえば農業はエルフの人たちが頼りになるし、漁業もラミアとの調整もあり、俺ひとりでやる事はあまりない気がする。

 たしかに、彼らが来る可能性もちょっと考えていた。

 でも、予想よりはるかに早く、しかも俺の想定よりずっと深刻な状況で彼らもやってきた。

 

 向こうの世界が、やばい事になっているらしいこと。

 地球側の生存者の状況もよくわかっていない。

 マオだって子供作る気まんまんだし。

 ネット小説で、異世界チートを得た主人公がスローライフを送ろうとする話があったと思うけど、そういう意味での俺のスローライフはたぶん……というか、当面こない気がする。

 ……あ。

「そうだジムニーだ」

「?」

「俺がみつけた車だよ。ここまで来て以来、放置だろ?色々やらないとな!」

 たとえばの話、生存者のいるコミュニティに行くような事があったらどうする?まさかアース・ドラゴンの背に乗って行くわけにはいかないよな?

 やはり車は必要だと思う。

 そんなことを考えていたら。

「お」

 突然に大きな水音がしたと思ったら、リトルがその大きな顔をぬっとのぞかせた。

「ん?どうした?」

「グルゥ」

 ……む?

 リトルの鳴き声と動作は、変わった獲物をゲットした時のそれを思わせた。

「よくわからんけど、見てほしいのか?」

「グルッ」

「オーケーわかった、いこう」

 乗せてってくれるらしい。

 俺とマオはリトルの上に乗せてもらい、リトルが見せたいものを見てみる事にした。

 ……それが、とんでもない代物である事も知らずに。

 

 

(第二部…おわり)


第二部終了です。

次回更新まで、少し時間が空きます。

ご迷惑をおかけしております。


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