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誰かがいる?

「もうわかったのか、どうだった?」

『いないよー』

 え、いない?

「いないって、このあたりから下田界隈までゾンビがいないって?一体も?」

『うん、いないよ?』

「外のやつも、家の中のやつも?」

『だよー』

 おいおい、そんなバカな。

 先日たしかに近郊の掃除をしたけど、まだいっぱい残ってたはずだ。

 いつのまに?

「悪い、捜索範囲を広げてくれ。そうだな、伊豆市と伊東市を境界線にして、そこから南の全部だ。

 その領域にゾンビはいるか?いるかどうか、イエスかノーかだけでいい」

 数を数えさせようとすると時間がかかるし魔力も食う。

 だけどイエスノーなら早いし魔力も少ない……精霊を使う者の生活の知恵ってやつだ。

『んー……』

 精霊たちは少しだまって、そして。

『いるよー』

 その範疇だと居るわけか。

「それじゃあ、東伊豆、湯ヶ島、西伊豆から南の全域では?」

『いるよー』

「じゃあ、松崎、下田市、それと南伊豆だと?」

『いないよー』

 なるほど……なんか読めたぞ。

「なにかわかったの?」

「ああ」

 首をかしげるマオに俺は言った。

「誰かが動いた可能性が高い。このあたりにゾンビがいないのは意図的なものだ」

「そうなの?」

「ああ。ちょっとまて、今、アティーヤさんたちにつなぐ。頼むぞ」

『いいよー』

 精霊たちに頼んで、ラミア姉妹に通信をつないでもらった。

「皆さん緊急です、ちょっと耳に入れてください。このあたりのゾンビが何者かの手で除去されています」

『何者か、ですか?』

 最初に反応したのは、次女のシャーディアさんだった。

『ユウさん、くわしい説明をいただけますか?』

「伊豆半島南部のゾンビが居なくなっているようなんですが、居るところといないところの境界面が恣意的なんですよ。要するに、あきらかにゾンビの性質を理解してるやつがやってるっぽいです。

 具体的には、県道115号湯ケ野松崎(ゆがのまつざき)線っていう、この地域をとりまとめる静岡県って自治体が管理していた道があるんですが、そのあたりを境界にズバッと排除されている可能性が高いです」

『それは妙だな』

 お、アティーヤさんも反応した。

『おまえたち以外で、しかもおまえたちに見つからず、そんな広い範囲でゾンビに何かしている者など想像もつかないぞ』

「見つかってもいいなら心当たりが?」

『むう、我の知る範囲でいえばエキドナ様の眷属くらいしか想像できないが、しかしアレの活動範囲は』

「ん?エキドナ様が何かやっているんですか?」

『む、ユウは知らなかったか?』

「どこかでゾンビを確保して向こうに送ったって話なら」

『ああ、それか』

 それならかまわない、とアティーヤさんは言った。

『ユウが言っているのは『いやがらせ作戦』のことだな?』

「なんですかそのアレな名前」

 あきれた。

『おや、名前は知らないのか?では内容は知っているか?』

「人間族の領域にゾンビを送り込む作戦ですよね?」

『そう、それだ。

 このため、この国の中でも全滅状態、なおかつ人口の多かったカントウなる地域にいるゾンビを少し、エキドナ様の眷属たちが向こうの世界に送っているはずだ。

 当たり前だけど、イズ半島には関係ないはずだ』

「なるほど」

 そりゃたしかに関係ないわな。

『念の為にいっておくがユウ、すまないがこの件でエキドナ様を責めてないであげてくれないか?

 悪いのはあの方に陳情し、動かした我々なのだ』

「え?責める?いや、別に責めちゃいませんよ」

 まぁ遺体を勝手に利用しているわけだけど、非常時だし、当事者が誰もいないからな。

 怒るとしても、それは俺のやることじゃないだろう。

「俺個人は問題ありませんけど、どうしてそんな話が出たんです?」

『我らの世界では、ゾンビ化した遺体は魔物扱いだが、こちらでは違うのだろう?

 だから、こちらのゾンビを勝手に戦略目的に使うのは、こちらの住民の感情を損なうのではないか、という反対論があったのだ。

 しかし、長年人間族を研究している魔族の学者が作戦投入を強く主張してな』

「へぇ、そりゃあまたなんで?」

『……実はエキドナ様には内緒なんだが、人間族に、女神に対する不信感を植え付けるのにいいんだと』

「あー……そういうことですか」

 エキドナ様が首をかしげていた件は、魔族の意図的な誘導でしたと。

 

 うん、たしかにエキドナ様にするような話じゃないわ。

 

「話を戻しますが、その作戦は伊豆とは関係ないんですね?」

『ない。ゾンビが大量にいるところ、つまり、かつての人口密集地を狙うわけだからな。

 ところでこちらも質問だが、いいか?』

「はい、もちろん」

『おまえたちは一度、こちらで魔獣化した動物の群れと戦ったんじゃないか?そいつらが原因の可能性はないのか?』

「ありますけど、あの群れはおそらく半島の外からです」

『ほう、根拠は?』

「数が多すぎるんですよ。

 日本ではたくさん犬が飼われてましたけど、愛玩犬が主流でした。特に近年は改良された小型種が主流だったはずです。

 けど、俺がぶつかったのは大型や中型の立派なやつばっかでした」

『ふむ』

「しかも、強くなるためゾンビを組織的に狩り殺してもいました。

 俺は、駿河もしくは甲斐……ようするに西か北から、ゾンビを狩りつつ来たと推測しています」

『なに、組織的にゾンビを狩り殺していたのか?

 連中にとっちゃあゾンビは悪臭の塊だろう。しかも食えるわけでもないのにか?』

「はい」

『……となると、ますます犯人としてはふさわしくないな』

「と、いいますと?」

『川などを境界線にするんならわかるんだが、道路を境界線にするというのは犬族としては微妙だろう。

 絶対とは言わないが、やはりそれは獣でなく人間か、それに類するものの意思を感じるね』

「はい、俺もそう思います」

『お姉ちゃん、ユウさんもかまいませんか?』

「はい、なんですかスアードさん?」

 ちゃんづけはしない。私的な会話ではなさそうだから。

『その情報は、戻ってエルフの皆さんとも共有しましょう。もしかしたら、すでに何か掴んでいるかもしれませんし』

『む、そうだな。

 ならば、道を何かで塞いだうえで帰還してはどうだろう?

 ゾンビもいない以上、今優先すべきはそっちだと思うがどうだ?』

『はい、わたしもそう思います』

 

 それで俺たちは、一度戻る事になった。


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