拠点整備・家作成
エキドナ様に乗せてもらい、石廊崎漁港の拠点に戻ってきた。
「お」
どうやら建物ができているようだ。さすがマオ、早いな。
「ふむ」
陸地だけでなく海側もちゃんと整備したようだ。
漁港側に停められていた漁船も駐車場側に移動し、繋留しなおしてある……。
よしよし。
使えるものなら、漁船として再利用させてもらうかもしれないし、あとで調べて、場合によっては陸にあげておく必要もあるかもしれないな。
え?精霊魔法があるのに漁船なんかいるのかって?
すべての人が空を飛んだり、魔法で魚介類がとれるわけじゃないよ。
科学技術が魔法にとってかわってるだけで、その意味じゃ地球も異世界も大差ない。
おそらく、漁船も新しい住人の手で大切に使われる事になるだろう……たぶんエルフか何か、元の船主さんが見たら驚くようなファンタジーな人々だと思うけどね。
さて。
「エキドナ様、ありがとうございました」
「うむ、では、わらわはちょっと海で何か探すかの」
「探す?」
「昨日、海獣を食したであろ?あれはなかなかおもしろかったんじゃが、できれば蛇種も少しほしいし、ついでに少し海の中を見てみたくてのう」
「ここいらにいるヘビは小さいですよ?」
「よいよい。別にこの世界の蛇種そのものを複製したいわけではないからのう」
そういうとエキドナ様は、港から静かに海に入っていった。
たしか伊豆にはいくつかちょっと変わった観光施設があったはずだ。
その中にたしか、本来日本にいないワニや大型のヘビを扱っているところも。
このゾンビ騒ぎで殺処分している可能性が高いけど、もしそのままなら爬虫類は生き延びている可能性があるかもしれないな。
うん。
もしエキドナ様が爬虫類のサンプルほしいといったら、ダメ元で提案してみようか。
エキドナ様と別れた俺は、マオたちのいる建築の場にやってきたんだが。
なんだか面白そうなことになっていた。
「だから、なんでエルフ小屋なんですか!」
「ドワーフの穴倉じゃ眠れない」
「誰が穴倉ですか!」
マオとユミが激突していた。
そして、ふとマオが精霊術で建てたのであろう建物をみて。
「あぁ、エルフ式だもんな。そりゃそうか」
マオが建てたのはエルフ式の木造住居だ。
森の中にすむエルフは森の素材で家を作り、かまどのたぐいは最低限だ。大きな火を本格的に使いたい時は、家の中でなく火災対策をほどこした共同の火場を使う。
対してドワーフは、本職の鍛冶師でなくとも作業場や倉庫が必須だ。身体は日本人かもしれないが、外見と魂はドワーフのままのユミには耐えられまい。
だから俺は言葉を投げる。
「別棟で工房作ればいいんじゃないか?」
「!」
マオは俺の接近に当然気づいていたけど、ヒートしていたユミは気づいてなかったようだ。
俺の方にブンッという音がしそうな勢いで振り向くと、詰め寄ってきた。
「ユウさん!えーとこれはですね!」
「ごめん、母屋がエルフ式なのは勘弁してやってくれ。マオは屋根の下というとエルフの里だったから、エルフ式じゃないとダメなんだよ」
「ああなるほど、そういう事でしたか……それなら了解です」
「ん?マオはなんていったの?」
「エルフの家こそが家だと、それだけです」
「……」
思わずマオを見たら、なぜか目をそらしていた。
ははぁん、いつものアレか。
「マオ、ドワーフ式も建てるぞ」
「んー、マオわかんないよ?ユーはわかるの?」
「俺もドワーフ式はわからないな。ユミはどうだ?」
「う……わたしも建て方までは」
困った顔をするユミに、なるほどとうなずく。
俺だって日本家屋の建て方なんて知らないもんな。そんなもんだろ。
「なるほど、だったら土地選びだけ頼む」
「土地だけ?」
「建て方はわからなくても、立地条件のよさげな土地くらいは選べるだろ?」
「そりゃわかるけど」
「それでいい」
俺はうなずいた。
「エキドナ様の話だと、ゆくゆくはこっちの世界に入植者がくるらしい。
当初はおそらく魔獣種だろうけど、次に来るのはおそらくエルフやドワーフだろ。
別に今日明日、工房が欲しいわけじゃないだろ?
だったら、彼らが来てから依頼して建ててもらえばいいさ。
それまでは悪いけど、エルフ式でがまんしてくれ」
「!」
「すぐに建てられなくてごめんな?」
「いいえ!いいえ!ありがとうございます!」
めっちゃ嬉しそうだった。
「つーわけで頼むよ。マオもいいな?」
「うん、わかった」
マオは嫌な顔ひとつせず、うなずいた。
そもそもマオは悪意でユミに対抗していたわけじゃない。単にドワーフ式の建て方を知らなかっただけだろ。
それを素直に言えばいいのだけど、要するに軽いお茶目で言わなかっただけだ。
マオは時々、妙なところでこの悪癖を発動する。
ユミはそれを知らないから引っかかったが、子猫から知ってる俺には通じねえよ。
やれやれ、困ったやつだ。
精霊術は大規模な作業に向いてるけど、とにかく小技には向かない。
おまけに建てたのは元猫族のマオなわけで。
出来上がったエルフ式の家は、なるほどユミの言う通り「小屋」のイメージにふさわしいものだった。
だけど。
「なるほど充分だよなぁ」
「うんうん」
「ふたりとも、どんな生活してたんですか……」
俺まで同意したことで、ユミはがっくりと肩を落とした。
「ユミ、この状況でキャンプ用品を持ち歩いてた君が言う?」
「言いますよ、女連れで何やってるんですか!」
「いや、あの時は子猫連れてたわけだし?」
「う……そうでした」
マオが元猫であることを忘れてたな?
「けど、それはそれ、これはこれですよ。だいいち危険じゃないですか!魔物とか野盗とか!」
「それがね、森の中だと精霊使いは安全なんだ。魔物にも襲われない」
「それ初耳なんですけど?そんな話ありました?」
「あるレベルから上はそうなるんだってさ。
俺はエキドナ様に習ってた時、そうなってこそ一人前の精霊使いって言われたぞ?」
「それ基準がおかしいですよ?人族じゃなくて、神獣の精霊使いの基準じゃないんですか?」
「……ありうるかも」
エキドナ様はそういうミスはまずしない。
だけど、俺をナチュラルに人間基準でなく、神獣基準で育てた可能性はありうるだろう。
……いやま、強く育ててくれたことに文句はないけど。
「それじゃあ、向こうではどこに寝泊まりしてたんですか?」
「基本は野宿だよ、エルフ領は普通に屋根の下だったけど」
「野宿ばかり?
いえ、突っ込むところはそこじゃないですね、そもそもエルフ領だけ例外なのはなぜですか?」
「エルフ領を旅してるとね、ちょっと気を抜くと捕まるんだよ」
「は?つかまる?どういう……」
「だからマオがね、そこいらのエルフにつかまるんだわ」
「……えっと、よくわからないですが?」
「だから、つかまるの。
いきなり知らないエルフがやってきて、まぁ可愛いって超かまわれまくるんだよ。
おまけに夕方近いと、問答無用でお持ち帰りされるんだ」
「……それはまた……文字通りの『エルフに猫』ですか」
ユミは額に手をやった。
「色々と常識が崩壊しますね、ほんと。
ちなみにその時ユウさんは?
ユウさんは猫でもエルフじゃないわけですし、取り扱いはどうなったんです?」
「『坊やもおいで』コースで俺も連れてかれるよ、だいたい」
まったく、しかも坊や扱いとかなんなんだ。大人だっつの。
けど、そういうとユミに笑われた。
「ユウさんは日本人顔ですからね。若く見られるのは仕方ないですよ」
エルフ目線だとガキに見える、という言葉をユミは飲み込んで上手にごまかした。
けどまぁ、気遣いはわかるから俺も突っ込まない。
「ああ、だからエルフ領ではちゃんと宿とってたんだよ」
「ご愁傷さまです……なるほど、良かれと思われるのも良し悪しですねえ」
「まったくだよ。ま、困った時には本当に助かったけどね」
俺はためいきをついた。




