あとしまつ
ユミ「好きですねえ」
ユウ「げ、元ネタ知ってんのかよ!?」
ユミ「あれって漫画『バスタード!!』の呪文ですよね。そりゃー知ってますよ名作ですから」
ユウ「……すでにあるイメージって便利なんだよ。特にあれは傑作だし、ストーリーもすごくてイメージも膨らみやすいし」
ユミ「好きですねえ」
ユウ「もちろんだけど、権利上問題あるなら削除するぞ?」
ユミ「誰にいってるんです?
それにしても、イメージなのに呪文もとなえるんですか?じゃあいちいち雷だすのに、バルモル昏き闇の雷をぉーとか?」
ユウ「いやいや、一部の大魔法だけだって」
ユミ「そうですか……ほんとマニアですねえ」
ユウ「ネットでムキムキおやじやってた女に言われたくないぞ」
ユミ「あのー、自分でデザインしたネコミミ少女を現実にした人に、言われたくないんですが」
ユウ「なんだと?」
ユミ「なんですか?」
マオ「?」
南伊豆を目の前にして、とんでもないものを発見しちまった。
なんと、向こうの人間族が転移門を作成し、伊豆の下田に拠点を作ってやがったんだ。
馬鹿野郎。
ペリー来航なら歴史の記念になるけど、異世界から侵略者が来ましたなんて洒落にならねえよ。
「よし」
とりあえず広域探査をかけ、人間族がどこにもいないことを確認した。
「ユウさん、移動しないんですか?」
「移動したいけどさ。敵をわざわざ新拠点に連れてくのはどうだろう?」
「たしかに。でも、それじゃどうするんですか?」
「データとって始末するよ」
「データ?」
「とっておきの方法があるんだ。尋問とか拷問とかしなくていいやつ」
「……見学していいですか?」
「いいよ」
俺だって、すぐにでも移動したいさ。その意味じゃユミに同意だ。
だけど、マオは有能にも生き残りの女の子だけでなく、捕虜もひとり確保していた。
捕虜を連れて行くつもりはないし、だいいち車は四人乗りだ。俺、マオ、ユミ、保護した女の子でいっぱいなんだ。
そこで民家の一軒を確保し、その中で尋問する事にした。
男を部屋にいれ、眠らせる。
そして……。
「んー……」
尋問といっても拷問するわけではない。俺の精霊術の先生、エキドナ様に習った方法を使う。
精霊を呼び集め、捕虜の男から近い時間軸の記憶を直接読み出していく。
「……げっ!な、何考えてんだ!」
「なに?」
「こいつら、地球に植民しようとしてるらしいぞ!」
「植民?地球に?なんでまた?」
「こっちでゾンビが大繁殖して、社会秩序が崩壊したことを知ってるらしい。
どうやらこいつら、この世界を前から知ってたっぽいな」
まぁ俺を召喚したくらいだし、当然といえば当然か。
今までは定期的に人を送って調べたりする程度だった。
でも人類社会という危険要素が力をなくした今、堂々と手を伸ばすことを考え始めたわけだ。
「ということは、他にも転移門を作ってるんですか?」
「いや、こいつの頭にはそれ以上の情報がないな……さすがにポンポン作る事はできなさそうだが」
「……その根拠は?」
「現状では自力でゲートを開けられないらしい。門が女神のちからに満ちていたのは、そういうことらしいぞ。
おまけにこいつら、先遣隊なんだ」
「なるほど、そういう事ならたしかに」
先遣隊とは本隊より前にきて、色々と仕事をする小さい部隊の事だろう。
逆にいうと、こいつらだけが来てるって事は本隊はまだのはずだ。
「まぁ念の為に、他にも人間族がいないか精霊に調べてもらうけどな」
こういう広域視点の調査は、精霊たちが最も得意とするところだしな。
やがて尋問を終えた俺は、すべての情報を異世界にも送った。
で、念の為にマオとユミに確認した。
「こいつ、放逐はできないから殺すぞ。いいな?」
「ウン」
「たしかに、むこう側に送り返すならいざしらず、ここで放逐は論外ですね。
一応ききますけど、送り返せないんですか?」
「手段がなくもないけど、俺だとエルフの里とかに送る事になっちまうから。
あっちに迷惑かけちまうんだよ」
「なるほど、わかりました。変なこと聞いてすみません」
「いやいや、いいよ」
俺は捕虜を眠らせ、そのまま息の根を止めた。
「苦しませないんですね」
「放置できないし、生かしてもおけないけど、俺自身はこいつ個人に恨みはない。
だったら、苦しめずに送るのが最善だろ」
「生き残りの子の意見は?」
「まだ意識が戻らないんだろ?あとで恨まれるかもだけど、その時は謝るよ」
さすがに、そこまでは待っていられない。移動しなくては。
「はやく拠点を作る理由が増えましたからね」
「ああ、急がないとな」
生き残っていた女の子だが。
遠目には違和感がある程度だったんだが、マオが回収してきた当人をみて理由がわかった。
なんと女の子は、手足がヒジ、ヒザの下までしかなかった。
ユミの話では、切断面に魔法治療のあとがあるという……おそらくだけど、切断したのは奴らって事だ。
「人間の、しかも女の子の手足を切り落とすなんて……ふざけた事しやがる、まったく!」
「おそらくゲームですね。
できそうでできない事を無理やりやらせ、失敗したら罰と称して手首などを切り落とすんです。要は最初から切り落とすと決まってて、泣き叫んだり抵抗したり、仲間を売らせたりして楽しむんですよ。
しかも、治療しながら少しずつ切るんで、重要臓器などを壊さない限りは死にたくても死ねないんです」
「外道のきわみだろそれ」
何考えてんだまったく。
「それで、当人の意思は確認できてないのか?」
「連れてきた時、わずかに意識があって話したんだけど……その」
「生きたいってか?」
「ええ」
ユミが言いにくそうにしているのは、手足の不自由な女の子をサポートするのが、今の俺たちにはとんでもない重荷だからだろう。
俺もさすがに言いたい事はわかる。
ひとりの人間の完全看護には、それなりの設備と複数の人間が必要だ。
宿無しのうえ、たった三人の俺たち。しかも、拠点をこれからゼロから作らなくちゃならない。
……いくらなんでも手が回らないぞこれ。
ウーンと悩んでいたら、ボソッとマオがつぶやいた。
「エキドナ様に頼めないかな」
「なに?」
俺はそのマオのひとりごとに驚いた。
なんでかって?
むこうにいた頃マオはエキドナ様をこわがり、苦手にしてたからだ。
「マオ、おまえ……」
「ユー、エキドナ様はマオを生まれ変わらせてくれたし、ユーの治療もしてくれたよ?」
「……おまえはいいのか?」
「いいに決まってるよ」
「……そうか」
たしかにエキドナ様なら治療もできるだろう。
そんな話をしていたら、突然に精霊が騒ぎ出した。
『つうしん、きたー』
「なに、通信?」
リアルタイム通信?誰からだ?
『しんじゅう、えきどなー』
「エキドナ様から!?」
俺が驚いていたら、横でもっと驚いてるヤツがいた……ユミだ。
「あの、そういえばエキドナ様って何回か聞いてますけど、あの、まさか」
「ん?ああもちろん神獣エキドナだぞ。知ってるだろ?」
「え?えぇ??」
あー……違う、現状がちゃんと理解できてないだけか。
まぁいい、ほっとこう。
「そんなことより確認だ。なぁ、もしかして直接通信なのか?」
『そだよー』
まじか。
時間軸すら同期してない世界の間でリアルタイム通信する気なのか、あのひと。
さすが神様扱いされてるだけの事はあるわ。規格外すぎる……。
「わかった。仲間にもわかるよう、画面に通信を映せるかな?」
『やってみるー』
「頼む」
イメージは、昔のSFアニメで描かれた空中ウインドウ。
魔力をこめて、そら──開け!
「お」
「おー」
「え、なにこれ?」
感心しているのはマオで、驚いているのはユミ。
そんで目の前には、テレビのような感じで横長のウインドウ画面が開いた。
で、その先には巨大な影。
『よしよし、通じたかえ……なんじゃこの映像は?』
「すみません、精霊使いじゃないのがいるんで。第三者が見聞きできるように像と音声を結ばせてます」
『ああそういうことか、よいよい。そういう事ならかまわぬ』
とぐろを巻く、とんでもなく巨大な蛇体。
その上に乗っかっている美しい女の上半身……ちなみに翼つき。
で、その方が何者かというと。
『そこなドワーフに似た娘が新顔じゃな?ふむ、では改めて自己紹介しようかの。
わらわは、そなたら小さき者たちに神獣エキドナと呼ばれし者。
獣たちの母にして夜と姦淫の女神。
夜泣きする子をあやす母にして、魔獣たちに囲まれし異形の大淫婦。
──自分で言うのもなんじゃが、まったく珍妙な二つ名を次から次へとつけてくれるものじゃなぁ。
まぁいい、エキドナじゃ。かしこまらず名前で呼ぶがよいぞ。
そもそもわらわは、そこのユウとマオの精霊術の師匠じゃからのう』
「え、ええええええっ!?
し、ししししし神獣エキドナさまぁっ!?」
「いや、さすがに驚きすぎだろ」
ユミの叫び声は途中から声にならなくなり、カクカクとおもちゃのように顎を動かすだけになっていた。




