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勇者なんかイヤだと帰還した男の新生活構築記  作者: hachikun
すみかを求めて
22/76

別視点・合流

今年最後の更新です。

 ユウが謎の車をゲットしていたその時。

 マオとユミのコンビは、これまた謎の会話をしつつ平塚の町を回っていた。

「!」

「どうしました?」

 ピクッと反応したマオに、いぶかしげにユミが質問した。

「今、ユーが車ゲットした」

「そうですか。だったらこちらは探索切り上げですか?」

「けど困ってるって」

「え?どういうことですか?」

「予備の燃料と入れ物がほしいって」

「なるほどわかりました……では行くしかないですね」

「行くしかない?」

「ホームセンターです」

 ユミはためいきをついた。 

 

 

 困った時のホームセンター、なんて言葉がある。

 資材や物資で困るとホームセンターは実に頼りになるものだ。登山用品などの先鋭化したものはあまり期待できないものの、その代替品──たとえば登山用品でなくファミリーむけの安価なキャンプ用品、夏の日焼け対策に農業用の腕抜きなど、妥協が許される前提ならこれ以上なく頼りになる。

 だがこれは同時に、大型ショッピングモールなどと同様の問題もはらんでいる。

 つまり資材を占有する「人間」がいるということだ。

 

 ふたりは郊外にある小さなホームセンターに近づいていた。

「マオさん、あそこに人がいるかどうかわかります?」

「……いる、男が4、女が2」

「これでもいるんですか……困りましたね」

「これでも?」

「これ、ホームセンターとしてはかなり小さいんですよ。

 物資を占有したい人は当然、大きな店に行きたがります。モノが多いですから。

 だから、ここにはいない事を期待していたんですが」

「……なるほど」

 転生者であるユミは、地球の知識のないマオにもわかりやすく説明した。

「音を消して、遠隔で運び出す事はできますか?」

「どれを運べばいいのかわからない」

 マオのひとことに、ああとユミはうなずいた。

「なるほど、そうですね……じゃあどちらにしろ、潜入しないとダメですね」

「どうして?」

「予備の燃料を持ち運ぶためには、ガソリン携行缶というものが必要なんです。

 ガソリンは常温だと容易に揮発する危険物ですから、頑丈な金属製の缶に入れます。

 つまり重くなりがちなので、容量少ないけど軽いものから、いくつか種類があります。

 状況によっては3つも4つも必要になりますね」

 ユミはためいきをついた。

「マオさん、ユウさんから『燃料をどれくらい入れたいか』についての指定ありました?」

「聞いてみる」

 そういうと、マオはしばし黙った。

「今乗ってる車が40。一回満タンにするくらいは欲しいって」

「40、ああ40リッターですね」

 なるほどとユミはうなずいた。

「このあたりのホームセンターで買えるのは、たいてい最大で10リッターの缶だと思います。

 つまり40リッター確保したいなら4つの携行缶を持ってくる必要があります。

 もし運良く20リッターの缶があればラッキーですけど、20リッターの携行缶となると重くなりますし、何かあった時のリスクも大きくなります。

 マオさん。

 金属製で、ぶつけると大きな音がする4つの缶を、音がしないよう、中の人に見つからないように外まで運べますか?」

「即答できない。けど」

「けど?」

「そういうのマオは苦手」

 マオは困ったように言った。

「そうですか……だったら仕方ありませんね」

「仕方ない?」

「始末しましょうって事です」

「……」

 マオはユミをじっと見た。

「マオさん、やるならユウさんが来る前にしないと」

「……ユーに聞かないの?」

「ユウさんが見れば、女性を助けようとするかもしれませんね。わたしを助けてくださったように」

「うん」

 マオの返答に、大きくユミはうなずいた。

「けど、仲間あるいは女として共存しているのか、意思に反して飼われているかの判別は難しいですよ?

 人の心の機微はややこしい。下手すると本人ですらわからない事もあります。

 ユウさんは、そんな人の世の混沌を普通に飲み込めるほど大人じゃない。そうですよね?」

「……」

「ですので今、マオさんに提案するんです。ユウさんがいない状態で。

 これなら、敵か味方かでさっくり処断できるでしょう」

「……」

「これは推測ですけど、今までマオさんはひとりでそうなさってきたのでしょう?ユウさんを守るために」

「!」

 ピクッとマオが反応した。

「ユーはそこまで弱くない」

「ええ、それはわかりますよ。

 ユウさん本人は自分を強いと思ってないようですけど、そもそも『弱者』なら人間族の召喚対象になるわけがない。彼は間違いなく強者でしょう。

 けど同時に、誰かを見捨てて平然としている種類の人でもないでしょう。

 なぜなら、そういう人じゃないと他人のために戦ってくれないから。そういう人物を狙って召喚しているはずです」

「……ユミ、あんた何者?」

「元ドワーフの一般人ですよ?

 ……まぁ、かつての夫はドワルゴの重鎮のひとりでしたから、ちょっと余計な事を覚えてはいますけど、わたし自身はただの鍛冶師です。夫がデスクワークに振り回されているため、子どもたちや使用人と鎚をふるっていましたが」

「……そんな生活でも鍛冶はするんだ」

「は?ものづくりは人生の基本ですよ?そんなエルフじゃあるまいし」

「……本当にドワーフ」

「うふふ、それほどでも」

「ほめてないから」

 マオは、ユウがよくやるように大きなためいきをついた。

「そこまでわかるなら、なんでユーについてくる事にしたの?」

「なんでって、こんな状態で勇者パーティのお誘いですよ?渡りに船じゃないですか」

「人間族のユーシャが信用できるの?」

「ご本人とマオさんを見て、これで信用できなきゃ誰が信用できるっていうんですか?

 まぁたしかに性格面などに不安がありますけど、そこはマオさんがサポートしているわけですし」

「……」

「……」

 ふたりは見つめ合った。

「マオさん、わたしにも背負わせてください。マオさんの手駒でいいですから」

「……それでいいの?」

「いいもなにも、相槌をふるってこその仲間でしょう」

 この場合の相槌とはもちろん、鍛冶仕事をする時に共にハンマーをふるう相手のこと。対等な同僚や友人でやることもあるが、師弟や親子など、上下関係でもありうる。

 マオはそれを察し、ためいきをついた。

「……つらいかもしれないよ?」

「マオさんだって、鎚が軽い時ばかりじゃないでしょう?

 わたしにも分けてください、共にいい剣を鍛えましょう」

「……わかった」

 いちいち出てくる鍛冶的表現は、おそらくユミも素で話しているためだろう。

 無防備ぶりに苦笑しながら、それでもマオはうなずいた。

 ふたりはウンと真剣な目をしてうなずきあった。

「それで、どうです?」

「ちょっとまって、今、確認する」

 しばらくマオは目を閉じて口の中でブツブツつぶやいていたが、やがて顔をあげた。

「とれた。これ見て」

 そういった瞬間、ユミの目の前に映像が広がったのだけど。

「あー、これはこれでわかりやすいですね」

「……趣味?」

「趣味でしょう。単に拘束するだけならここまでやらないです、変態がいるみたいですね」

「うわぁ」

「わたしは始末に一票。マオさんはどうします?」

「そんなの確認するまでもない」

 ユミは大きくためいきをついた。

「今、イシを確認するよ。ちょっと待って」

「はい、よろしくお願いします」

 しばらくマオは沈黙していたが、やがてウンとうなずいた。

「いこう」

「はい」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 結論からいえば、売り場には5リッターまでのガソリン携行缶しかなかった。

 だが、男たちは20リッターのガソリン携行缶をふたつ持っていた。しかも燃料つき。

 ただし別の問題が発生した。

 20リッターのガソリンいりの金属タンクは重く、人外で力のあるマオはともかく、小さな体のユミは悲鳴をあげる事になった。

 それでも「マオが持とうか?」というマオの申し出を断り、強化魔法も駆使してやっと出口まで運んだところで、小さなエンジン音が近づいてきた。

 一台の軽自動車。運転しているのは当然ユウだ。

 小さい車だが屋根の上に頑丈そうなキャリアがついていて、積載性はありそうだった。

 ユウを乗せたそれは見通しのいい交差点で徐行し、律儀にウインカーを出して曲がると、ホームセンターの前で待っていたマオとユミの前に車を止めた……停車中とわかるようハザードランプまでつけて。

「やぁおつかれ。燃料(なかみ)もあったのか?」

「ユー、コレどうする?」

「まずは燃料屋を探すつもりだったが……そういう事なら、しまっとくよ」

 そういうと、ユウはアイテムボックスにその大きなタンクを収容してしまった。

「容量ありますね」

「これくらい余裕だよ」

 なぜか得意げなユウに、ユミが小さく微笑んだ。

「ひとつ質問なんですが」

「なに?」

「すると屋根の荷台は飾りなんですよね?」

「まぁ非常時にはキャリアとして使うけどな」

「だったら、その荷台にオリーブドラブのシートかけて紐止めしているのはなぜですか?

 風でバタバタいいそうですし、しまった方がいいんじゃ?」

「ん?ブルーシートよりかっこいいだろ?」

「……」

「……」

 遠くでカァ、カァと鳴き声がした。

「……いえ、重要なのは見た目のかっこよさではなくて、風対策として」

「あ、かっこよさをバカにしたな?

 愛車がかっこいいのは旅人には大切なことだぞ、ホントだぞ?」

「……あー、よくわからないけど、わかりました。そういうことにしときます」

 話しても無駄だと思ったユミは、それ以上の指摘をあきらめた。

 

「ところで、こんなホムセン前に止めといて今さらだけど、問題はなかったのかな?」

「本当に今さらですね……ありましたよ、六名の籠城者がいて、うち4名と戦闘になりました」

「倒したのか……残り二名は?」

飼われてた(・・・・・)女の人です」

「そうか……マオ、そのひとたちは「無理」……わかった」

 マオのひとことに、ユウは悲しげな顔をした。

「何もきかないんですか?」

「事情があって助けられなかったんだろ?

 あるいは、男である俺に見せるべきじゃなかった。そうだろ?」

「……はい」

「マオがそう判断したんなら、それでいいさ」

 そういうとユウは肩をすくめた。

 そして、そんなユウを見たユミは複雑な微笑みを浮かべた。

「信用なさってるんですね」

「相棒を信用できなくて誰を信用すんだよ。

 マオのことだ、良かれと思ってやってくれたんだろうし、それでいいよ」

「聞いてみたら、納得できないことがあるかもしれませんよ?」

「そりゃあ、俺は平和ボケ日本人だからね、否定しないよ。

 けど、言ったけどマオはそれを見越してよかれと判断しているはずだ。

 ……いつもいつもマオに迷惑かけてて、恥ずかしくはあるんだけどね」

「……」

「さ、乗れふたりとも。移動するぞ」

「うん」

「はい」

帰省いたしますので、次回更新は1/6になります。

皆様、よいお年を。


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[一言] 面白いです。ボキャブラリーが 貧困なのが悔しい!
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